91話 時の流れは人を変える。それは良くも悪くもだ・・・
本題から話が逸れ、言い合いを続けていた二人だが、
根負けをした威流が敗北の白旗を揚げる。
「取り敢えず、何か俺に出来る事があったら手伝いますから、
必要に応じて声を掛けて下さい」
「最初から素直にそう言えば良いものを、
変な難癖を付けるから話がややこしくなるのだ」
アーク司教の勝ち誇った顔が気に食わない威流だが、
この男無くして目的の達成は不可能だと分かっており、
素直に従うしかないのであった。
「それで、俺は暫く”こんにちは 労働”で働いていればいいんですか?」
「そうじゃな、色々な人と触れ合い、
この世界の常識を学んでおいてくれ」
「分かりました、連絡などはどうしますかね?」
「ああ、それならここにキャンディ司祭を残しておくので、
仕事の合間に立ち寄れば良い」
「適当に顔を出すようにしますね。
キャンディ司祭宜しくお願いします」
改めてキャンディ司祭に威流は頭を下げる。
「ああ、こちらこそ宜しく。
アーク司教が不在となるが気を抜くでないぞ」
「アーク司教はどちらかに行かれるんですか?」
「私は王都に戻らねばならないのでな。
そういえばキャンディ司祭よ、王都で兄に会えたのか?」
「城で兄に会いましたが、相変わらずお忙しそうで挨拶だけ済ませました」
威流は”兄”と聞いて二体目のゴーレムを想像するのと同時に、
キャンディ司祭の兄について興味が湧いて来る。
「キャンディ司祭にお兄様がいたんですね。
どんな方なんですか?」
「私と違って兄は子供の頃から活発な人でな、今は王都で聖騎士をしている」
「それはまた随分と立派なご身分なのですね。
キャンディ司祭もフォンガディ教で活躍されていますし、
ご両親はさぞ鼻が高いのではないですか?」
威流の頭の中でゴーレムに鎧を着せ始めた。
「案外そうでもないのだよ。
兄は父親から家督を譲り受けるまでの自由とされているのだ」
「家督と申しますと、ご両親は身分の高い方なのですか?」
「先程のアーク様の話に出ていたであろう、
アンディスは兄の名だ」
「えぇっ!!つまりキャンディ司祭はメイロン様のご子息なんですか?」
「そんなに驚く事でも無いだろう。
出自がどうであれ、人の人生は本来自由なものだ」
威流は荒野に佇む豪華な装いを身に纏ったゴーレムを想像し、
兄に続いて父親の姿が気になって仕方が無い。
「まあ、確かにそうですが・・・
貴族の方であればご家族の似顔絵とか持っていたりするんですか?」
溢れ出る好奇心を満たさんと画策する威流は、
あり得ないとは思いながらも質問をすると奇跡が起きる。
「私が家族の似顔絵を持っているとよく分かったな。
僧籍になってからあまり家に帰れておらぬでな」
キャンディ司祭はぶ厚い胸板で膨れ上がった懐に手を入れ、
四つ折りにされた一枚の紙を取り出すと威流に差し出した。
「私は母に似ているとよく言われておってな、
聡明な所も含め、兄は父に似ていると言われておる」
「ありがとうございます。是非、拝見させて下さいっ!!」
まさかの展開に威流の鼻息は荒くなり、
興奮を抑えながら丁重に紙を受け取る。
威流は似顔絵の書かれた紙をすぐには開かず想像を巡らす。
これは凄そうだ。
俺の親戚にもコピペした様な全員が同じ顔の家族がいるが、
今回のインパクトに比べれば霞んでしまうレベルかもしれない。
威流がゆっくりと紙を開くと、
そこに描かれた四人の人物に驚愕する。
紙の中央上部の左側には”絶世の美女”と号するに相応しい気品に溢れた女性と、
その右側に人とするならあまりにも大きく、ゴーレムと言うには細身の男性が描かれ、美女の前には俯いて下を向く小さなゴーレムと、その右側には美しい顔をした少年が目に入る。
威流の想像していた”描かれた四体のゴーレム”とはかけ離れ過ぎて、
どうにも言葉が出てこず口だけが開いたり閉じたりと忙しない。
威流のそんな様子を見たキャンディ司祭しては珍しく、
満面の笑みで威流に問いかける。
「どうだ?母のあまりの美しさに言葉が出て来ないのであろう。
母に会った男の反応はいつも同じだからな」
「こっ、これはキャンディ司祭の若かりし頃の物なのでしょうか?」
「左様、幼少の頃に家に来た画家に描かせた物だそうだ。
私は母に似ていると思わぬか?」
「左側がキャンディ司祭で、右側がアンディスさんですよね」
「どう見ても右側が私であろう、何故確認をする?」
「右・・・側・・・?」
威流は「こいつ何言ってんだ」という目をして、
手に持った似顔絵をキャンディ司祭の顔とよく見比べる。
確かにこの右側の美少年は母親譲りの顔をしているが、
現在のキャンディ司祭とは何もかもが遺伝子レベルで違う。
もしその話が本当であるのならば、確かに母親に似ている。
だがもう問題の本質はそこには無い。
何がどうしたらこの美少年が数年の歳月でゴーレムになってしまうのか。
ふわふわの髪と可愛らしいパッチリとした瞳はどこへ行ったのだ?
「いえ、今のお姿とはかけ離れていたもので。
一応聞いてみただけです」
「まあ確かに幼い頃は食も細く、弱々しい身体をしていたからな」
「それじゃあ、その後は岩石でも食ってたんかいっ!!」と、
はっきりと口に出して言えればどんなに楽だろうと思いつつも、
人の容姿について言及するのも如何なものかと思う威流であった。




