90話 人材の重要性を理解出来ているのならば、その確保に手段は選ばない・・・
「村に生き残りはおらず、何が起きたかは分からず仕舞いであったのだ」
静かに語るアークの手は微かに震えており、
過去の行いを恥じているのが垣間見える。
威流が気軽に聞いた質問が、
アークの心の傷を抉るとは思ってもおらず、
”こんな時どんな顔をすればいいか分からない”と、
そんなヒロインみたいな事が言えたらばと思っていた。
「その件があって以降、私は聖騎士を辞して神に祈る日々を送り、
己の行動を悔い改める私はフォンガンディ様の教えに救われたのだ」
「だからアーク様は信心深いのですね」
「ああ、信じる神が居るというのは心を安らかにしてくれる。
救いを求める者にこの教えを広めたいと私は思っている」
「神を信じていない私が言うのもおかしいかもしれませんが、
アーク様の説く教えはきっと迷える人の救いになっていると思いますよ」
「そうか・・・
タケルよ、ありがとう」
この時のアーク司教の笑顔は、
初めて会ったあの日の優しい菩薩の様な笑顔であった。
「でも、それはアーク様が強いって事は分かりますが、
フォンガンディ様の教えって感じではなさそうなのですが?」
「それから私は有事の際に行動を起こせる部隊を設立して、
教えを広めると共に戦える者を僧兵として指揮する様になったのじゃ」
それを聞き威流は思う、
精強な僧兵が居るのはホンガンディ様は関係無く、
「アーク司教の一存だったのかよ」と。
「つまり信者の皆が皆、僧兵であるという事ではないのですね」
「そうじゃな、戦える者はそんなに多くはないぞ。
常に人手不足であるのが目下の大きな悩みでな、
特殊な状況に対応出来る者などはそうそうおらんものだ」
先程の菩薩の笑みはすっかり消え失せ、
ニヤリと笑うアーク司教は戦う修羅の笑みを見せ始める。
「あっ、嫌な予感がしますけど・・・
俺の事を”人手”だと思ってますね?」
「そりゃ、そうであろう。
ましてや、お主が魔法使いともなると昂ぶりが抑えられぬわ」
「なんなの、この人ーーー!!
損した、同情して損した~
最初から俺をこき使うつもりだったんじゃ~ん」
「当たり前であろう。
お主は聞いた事は無いか?
”使えるものはなんでも使え”とな」
意地悪く笑い、楽しそうなアーク司教に、
威流は気になった事を恐る恐る聞いてみる
「あのぉ~、因みに、俺が”人手”だといつから思っていたんでしょうか?」
「お主が教会で魔法を使って逃げた時じゃな」
「ひぃ~初対面の時点で品定めが始まっている。
敵を味方に引き入れる懐の深さが逆に怖い」
「人を見定めるのも私の務めではあるからのぉ。
確かに誤解はあったが、今は敵では無いであろう」
「アーク司教、誰彼構わず品定めしてませんか?
奴隷商人と同じ発想ですよ、それ」
「馬鹿者っ!!
私をそんな下劣な者と同列にするとは何事だ」
「目的を達成する為ならば手段は選ばないのは分かりますが、
信者ならまだしも、俺はそこら辺に居ただけの人ですけど」
「なんじゃタケルよ、分かっておるではないか。
世の平和の為には犠牲はつきものじゃ」
「今、犠牲って言ったー!!」
「あぁ、すまぬすまぬ。”尊い”犠牲じゃな」
「”尊い”が抜けてるとかじゃない!!
辿り着く結果の話をしてるんですけどっ!!」
「お主は案外みみっちい事を言う男だのぉ。
良いではないかお互い利害は一致しておるのだから」
「犠牲は”害”でしかない。
死んだら”利”はないでしょ!!」
「それはお主の頑張り次第ではないか。
死なぬ様に生きるのは人として当然の務めであるぞ」
「突然の哲学!?
それは普通に生きていたらの話でしょ」
「タケルよ、その通りだ。
私の”普通”は世の為人の為に身を捧げる事なのだ」
「だめだこの人、話が通じてない。
他人の普通が俺の普通ではありません!!」
「そもそも、お主こそ”普通”では無いのであろう。
本来は見れぬ物を見たいと言ってきたのは誰じゃったかのう?」
「ぐぅ~、足元を見やがって~」
「ほれほれ、見たいと言っていたのは誰じゃったかのう?」
「最初は立派な人かと思ったけど、とんだ食わせ者じゃないか。
敬意を払っていたのがアホらしくなってきた」
「何を言われても構わんぞ、人を救うのに敬意など無意味。
大事なのは結果よ、結果」
「なんでこの人、僧侶なんかやっているんだよ。
考え方がビジネスマンじゃねえか」
「なんだ?私が知らぬ言葉を使いおって」
「あぁ、商人っていう意味ですよ。
アーク司教は商人にでもなった方が良かったのではと思います」
「何かを成し遂げる為には資金が必要ではあるが、
それは得意な者に任せておけば良い。
私は私にしか出来ない事に身を捧げるのだ」
「うわぁ~、そういう事を言う人は、
死んで殉教者になれる事を光栄と思っている質だな」
「うむ、フォンガンディ様の教えの元で天に召されるのであれば、
まっこと誉れであるぞ」
アーク司教の誇らしげな顔にドン引きする威流。
二人の言い合いをずっと静観していたキャンディ司祭は、
威流の物言いを無礼だと感じつつも、
見た事も無いおどけた表情を見せるアーク司教に驚いていた。
誰しもが敬意を払い指導者として崇められるアーク司教に必要だったのは、
肩書きには捕らわれず、勢いだけできっと何も考えていない、
威流の様な人物なのではと感じるのであった。




