88話 分からない事を尋ねたら、余計分からなくなる事もある・・・
「それでタケルよ。お主は何が聞きたいのだ?」
なし崩し的ではあるものの、目的を半分達成したホクホク顔のアーク司教と、
「どうせ下らない質問でもするのだろう」と気怠そうなキャンディ司祭。
キャンディ司祭の表情を読み取った威流は、
「お察しの通り、碌でも無い質問をしますけどなにか?」と、
遠慮をせずに質問する。
「まず、聞きたいのが指を二本立てるのはどういう意味ですか?
私の故郷では平和の意味があるんですが」
この質問にはアーク司教が答える。
「それはだな、”汝に呪いあれ”とか”私は呪われている”という意味じゃ。
指先が誰を指してるかに寄るな」
「じゃあ、あの時はどう見えていたんですか?」
「あれは、お主が私に”呪いあれ”と示していると思っていたが」
「それはどうにも無礼でしたね・・・
あはは~」
「そうだな、それでお主が襲撃を企てていると思い違いをする事になったな」
「すいませんでした」
威流は愛想を振りまきながら笑って誤魔化した。
「次はですね、教会内に掲げられているこの形は何を意味しているのですか?」
威流は両腕を使い”ト”の字を作って見せると、
頷いたアーク司教は近くに置いてあった本を手に取り、
威流に開いて見せた。
「ここを見よ、フォンガンディ様のお姿だ」
威流が本を覗き込むと、
そこには身体より大きな六枚の黒い羽根が背中に生え、額から伸びる長い角、
筋肉質の体にはエロい漫画の湯気の如く、丁度の箇所に薄布が巻き付いている。
虚ろとも思える表情と深い闇に沈んだ瞳と、
乱れた金色の髪が尖った耳に掛かっていた。
威流は描かれている人物が、
中二病の頂点に君臨するあのお方であると直ぐに気が付いた。
これ、どう見ても”ルシファー”なんだが!?
フォンガンディ様ってルシファーなの?
これを崇めているの?
人を邪教徒扱いしておいて、そっちが邪教の総本山って事ある?
それって、かの有名探偵の孫が「犯人はこの中にいる」と言い放った後に、
孫が「それは俺だぁ~」ってナイフを舐めながら犯行を自白してる様なもんだぞ。
しかも、どこをどうしたらルシファーが”ト”になるわけ?
人間の想像力でどうにか出来る問題ではないぞ、これは。
それにしても、
信者が全体的に蛮族寄りな理由もこれだったのには納得だ。
過去に戦った魔王って悪魔側だと思っていたけど、
まさか”天使側”なんて事はないよな?
「アーク司教、すいませんが、何がどうなのかさっぱり理解出来ません」
「察しが悪いのう、このフォンガンディ様が天から舞い降りて地に降り立ち、
我々に手を差し伸べて頂いた時の姿を模したものなのだ」
あぁ、そういう事。
縦の棒がフォンガンディ様で、横に飛び出てるのが差し伸べた手なのか。
ただ、天から舞い降りたんじゃなくて、
冥府から這い出たの間違いではないだろうか・・・
「立派なお姿に驚きを隠せません」
”色々な意味で”とは敢えて言わない威流。
「そうであろう、そうであろう。
偉大なるフォンガンディ様への祈りを欠かすでないぞ」
「ははは・・・はい」
私はこれから神の尖兵では無く、魔王の尖兵となるようです・・・
威流は次にアーク司教についての疑問をぶつける。
「あとですね、アーク司教が随分と戦い慣れしている様に思いますが、
フォンガンディ教の教えがそういったものなのでしょうか?」
「そうだな・・・
私の経歴は少々変わっておってな」
少し困った顔を見せ、アーク司教が胸の内を話し始める。
「もう十年以上前になるが、私は王国に仕える聖騎士であったのだ。
聖騎士の一隊を任せれていた私は、王国に仇なす者と戦いを繰り広げ、
その功績を認められた私は目に見えて増長してしまった」
「若かったのだよ私は。
精神的に未熟であった私はまるで世界の全てを救っている、
そんな錯覚までする様になっていた」
「ある日、貴族の領地が魔物に襲われていると報告が入り、
出陣の準備を整えていた私に別の報告が入った」
「アーク聖騎士長、ご報告がございます」
白馬に跨るアークの元に一人の騎士が駆け寄り跪く。
「なんだ?大した話では無いなら後にしろっ!!」
「申し訳ございませんアーク様。
実は農民からの陳情で村に魔物が向かっているとの相談が・・・」
急ぎ貴族の救援に向かわなければならない状況に、
辺鄙な農村での話にアークは苛立ちを募らせる。
「我らがこれから向かうはメイロン家の領地なのだぞ。
農村は他の隊に任せればよいであろう」
「しかしアーク様、魔物の数がかなり多い様で、
他の隊でどうにか出来る件では無いとの事です」
「それならば、こちらも数で対抗すれば良い」
「分かりました、アーク様のご判断として伝えます」
「随分な物の言い方だな。だが、それで構わん」
報告に来た騎士は納得がいかず、
苦虫を嚙み潰した顔のまま、その場を離れた。
「ふん、他の隊は腰抜け揃いか、まったく・・・」
アークは後方に控えている部下に向き直し、
声を張り上げ檄を飛ばす。
「これより、我らはメイロン領に向かう。
有象無象の魔物どもに正義の鉄槌をくらわしてやろうぞっ!!」
アークの檄に鼓舞された騎士達の熱を帯びた歓声が辺りに響く。
「よし、やる気は充分だな。
アーク聖騎士隊、出るぞっ!!」
アーク率いる総勢百名の聖騎士隊は、
メイロン領を目指し、進撃を開始する。




