85話 受けた恩に報いる為に、言いなりになる必要は無い・・・
威流は大袈裟に礼をして、
久し振りに会えた感で乗り切ろうとする。
「お久し振りです。
アーク司教がここにいらっしゃるとは思いもしませんでした」
「おぉ、タケルよ。
しっかりと勉学に勤しんだようで何よりだ」
「お陰様で、なんとか話せるぐらいにはなりました」
「結構、結構。もともとお主が言葉を話せれば、
あの様な面倒ごとにならなかったのだからな」
「あはは~、そうですよね・・・
色々とご迷惑をお掛けしました」
とは言いつつも、
威流は「襲い掛かってきたのはそっちだろ」と思っていたが、
この男を相手に口が裂けても言えない。
「とはいえ、まだまだ分からない事だらけでして、
この建物の外に書かれていた文字が読めなくてですね」
威流が知りたかった外に書いてある言葉。
この件についてはキャンディ司祭が答える。
「学びが足りないのではないか?
あの文字は我らが”フォンガンディ”教を表しておる」
「フォンガンディ教でございますか?」
「そうだ、我らが崇める神”フォンガンディ”様の名でもあるぞ」
威流は聞き覚えのある名前が妙に引っ掛かり、
神話などの記憶を辿ってみるが該当するものが無い。
何となくフォンガンディの名を繰り返して唱えてみる。
「フォンガンディ・・・ホンガンディ・・・ホンガン・・・あっ!!」
何かに気付いた威流は二人の僧侶に尋ねる。
「あのっ!!ちょっとお尋ねしたいのですが、
過去に”シンラン”や”シモツマ”の名の者は居ませんでしたか?」
「なんじゃ、タケルよ。
我がフォンガンディ教の事も学んできてるではないか。
外の文字が読めぬ素振りを見せおって」
この威流の問いには大きな意味がある。
飽くまでも推察に過ぎないものではあったが、
その答え次第では元の世界に帰る重要な情報が手に入る可能性を秘めていた。
語学だけではなく宗教学も学んでいたと感心したアーク司教は、
威流の問いに嬉しそうに答える。
「そうだな。随分と古い話となるが、
シンランはフォンガンディ教が興った頃の人物じゃ。
敬虔な信者であったシンランは、救いを求める者に熱心に教えを説いておった」
威流はいつになく真剣な眼差しでアーク司教を見つめる。
「諸国を巡り教えを説くシンランを枢機卿にとの話が挙がったある日の事、
”自分の生まれ故郷でも多くの者が救いを求めている”と言って姿を消した。
それ以来、シンランを見た者はおらず、神の遣いであったのではと噂される様に
なったのじゃ」
「お教え頂きありがとうございます。
シモツマについてはどうでしょうか?」
「シモツマ・・・シモツマ・・・
キャンディ司祭よ、シモツマについてお主は知っておるか?」
置き物の様に横に控えていたキャンディ司祭が、
アーク司教の問い掛けに応える。
「それは聖騎士ライレンの事で御座います。
子供向けの御伽噺で魔王と戦う話が有名です」
「ライレンは本当に魔王と戦ったのですか?」
「教会に有る古い書物にもその記録は残されているが、
魔王との戦いの後、行方をくらましたとされている」
「なるほど、お教え頂きありがとうございます」
威流は顎を指先で擦り思考を巡らす。
もし”シンラン”や”シモツマ ライレン”という歴史上の人物がこの世界に来ていて、
死んだという話が元の世界に残っているという事は、それは何かしらの帰れる方法が有るという事だ。
フォンガンディ教の持つ古い蔵書を調べれば帰還方法について何か分かるかもしれない。だが、部外者に大事な書物を見せたりはしないだろうな。
う~ん、アーク司教にお願いするのも難しいかな。
なんか、フォンガンディ教に勧誘されて現地人になるのがオチだな・・・
それにしても、シモツマライレンはこっちでも魔王と戦い、
戻っても第六天魔王と戦うなんて皮肉な運命だ。
異世界の魔王は第何天魔王だったのだろうか。
「どうしたタケル、質問してきた割には急に黙りおって」
「失礼致しましたアーク司教。少々思案する事がありまして」
「フォンガンディ教の歴史に触れたいというお主の心意気。
私は大いに歓迎するぞ」
「アーク司教、タケルには別の意図がある様に思えますが・・・」
「ご説明が難しいところではあります。
しかし、フォンガンディ教の歴史に関心が有るのは嘘ではございません」
「なんじゃ、フォンガンディ教に入信したいのかと思ったが違うのか?」
「私は無神論者でございます。
ですが、宗教を否定しているという事ではございませんので誤解無きよう」
先程までウッキウキ気分だったアーク司教であったが、
威流が入信を希望しないと言った途端、
今度はギラついた目で威流を見据える。
「まあ、今はまだそれでよい。
いずれフォンガンディ教に入信したいと思えれば良いのだ。
今後もゆっくりと教えを説こうではないかタケルよ」
アーク司教は続けざまに僧侶とは思えぬ発言を威流に叩きこむ。
「よもや、この町まで来れた恩を忘れた訳ではあるまいな」
「えぇ、まあ・・・」
半分以上マティオンのお陰だろと威流は思ったが、
それも含めて”恩”と言われたら言い返せないので黙っておく事にした。




