79話 目的を忘れて遊び惚けてはいけません・・・
威流は飛び起き、身体の至るところを触って確かめると、
傷一つ無いが悪夢にうなされた時の様に冷や汗でびっしょりとなっていた。
「はぁ、寿命が数年縮んだ」
そういえば、こげちゃんは居なかったけど、
あおがみ様は動物が苦手なのかな?
威流が目覚めた頃には夜が明けていた。
陽の光が木々の間から射し込み、
朝露に反射してキラキラと輝いている。
夜は暗く陰鬱で不気味な雰囲気が漂っていた森が、
今は静かで清々しい穏やかな場所へと変貌していた。
足りなくなった水分を補給し、威流はあおがみ様に声を掛ける。
「おはようございます。ちょっと、弓で射るのは勘弁して下さい」
威流の言葉に反応しているのか、
また円を描いて泳いでから、どこかへ行ってしまう。
「あの円はマルって意味じゃないな。
あおがみ様は絶対に何も分かっていない」
威流の落胆を尻目にこげちゃんは今日も草を食んでいる。
その姿を見て、解決出来ていない問題を思い出す。
「そうだ、食料をどうにかしないと・・・」
以前の池の広場は海の近くで毎日魚を食べて過ごせていたが、
ここには川もなければ海も無い。
その上、この森には巨大な蜘蛛がうろついている可能性があり、
気軽に探索を行える場所では無かった。
「早く言葉を覚えて金を稼がねば、飢え死に路線待ったなし」
威流の中で勉学への”意欲”が”危機感”に変わった。
残り僅かとなった果物を食べ終え、
鞄を寝床の横に置き、入っていた魔石をポケットに移す。
「とにかく町に行って図書館を探そう」
池の広場を後にした威流。
森の中を歩いていると余りにも平和な森に疑問を覚える。
「蜘蛛なんて全然いないけど、何の情報を参考にしたんだか」
まあ、ネットも無い社会で情報なんて案外曖昧だったりするもんだ。
昔住んでいた場所に行ってみると馴染みの店が全滅してたなんて話は珍しい事じゃないし、環境の変化で蜘蛛が死滅したとか、誰かが退治したとかあってもおかしくは無いよな。
威流は森を出て草地を進み、街道まで戻ると町を目指して歩き出す。
町までの道の途中、大きな荷を背負った出稼ぎ労働者や馬車に乗った商人など、
すれ違う人々の姿が見え始め、この町にはそれなりの経済活動があると伺えた。
「流石に海辺の集落とは経済規模が違う感じだな」
経済活動が盛んな地域であれば輸送などの業務を外注したり、
素材採取や鑑定とか専門スキルが必要な案件などもある。
それに伴って業務を斡旋する機関が必要になるから、
所謂”ハローワーク”的なものが存在するはずだ。
ここでだと冒険者ギルドって言うのかな?
「図書館以外にも、町にある施設の把握もしておかねば」
考え事をしながら歩き、威流は町の入り口に着く。
見上げる程の高さに積み上げられた石材で出来た壁の間に、
開け放たれた重々しい木製の扉が見える。
石材の壁は町の外周を囲み、
野生動物の侵入を拒む役割を担うものであった。
町の入り口には槍を持った数人の衛兵が居るが、
特に警戒している様子も無く、威流はすんなりと町に入る事が出来た。
入り口を抜けた先の道はまっすぐと伸び、それを挟んで商店が軒を連ねている。
力強い声で呼び込みをする店主や店頭で剣を手に取り悩んでいる様子の客。
煌びやかな宝石もあれば、質素な木彫りの人形を販売する者も居る。
色取り取りの果物が並び、芋や豆、野菜なども豊富な種類が用意されている。
肉の焼ける良い匂いがどこからともなく漂い、威流の食欲を刺激する。
「夏祭りの屋台みたいだ。異世界でもワクワクするもんだな」
威流は雑踏の中に足を踏み入れ、ただ熱に浮かれされていく。
どこを見ても目新しい物ばかりで、眺めているだけでも楽しめていた。
当初の目的も忘れ、物見遊山で威流は商店街を進んで行く。
どれだけの時間が経ったのだろうか、楽しい時間も終わりに差し掛かり、
入った時とは別の入り口まで来てしまった。
「もう終わりか~残念・・・」
そういえば図書館無かったけど、見逃した!?
主要の通りに有ると思ったけど違ったのか?
流石に繁華街的なところには図書館は建てないか。
居住区らしきところもあるから、そこへ行ってみるか。
威流は外壁に沿って歩き、注意深く建物を観察していく。
ここの建物は木造の二階建てが多くて、扉や壁面の装飾に拘りを感じる。
住人の身なりも質素ではあるが、布の素材や色合いを楽しむ余裕がありそうだ。
同じ異世界の住人でも生活水準が海辺の集落とは雲泥の差じゃないか。
もっと大きな街になると、更に生活水準は上がっていくのだろうか?
異世界でも目の当たりにする格差社会に対して釈然としない気持ちを抱えながらも、威流は目的の建物を探していると、住宅とは思えない一回り大きい建物を目にする。
石材で造られたその建物が頑丈さと防火を重視したと推察でき、盗難対策で衛兵を扉に配置しているという事で、建物に何が所蔵されているのかがすぐに分かった。
「あの建物っぽいな」
威流は遠巻きに様子を伺っていると、
商人や農夫、武器を携えた男や妖艶な衣服を身に纏う女性、
子供からお年寄りまで自由に出入りしている。
「図書館を見つけたぞ。誰でも利用出来るっていうのは本当みたいだな」
威流は衛兵に怪しまれぬ様に、
落ち着いているフリをしながら図書館の中へ入って行った。




