78話 「閃いた」と言っている時は、良いアイデアであったためしが無い・・・
ズドーンというけたたましい音と共に強い衝撃が地面を伝わり、
威流は目を覚ます。
蜘蛛でも落ちて来たのかと辺りを見渡すと、
巨大な生き物の姿は無いが、なにやら人の気配がする。
池のほとりに独り立つ女性。
腰まで伸びた美しい銀色の髪と横に長いエルフの耳。
スッとした切れ長の目にすっきりとした鼻筋。
控えめな口元が奥ゆかしさを感じさせ、
左頬には銀杏の形をした青い痣。
凛としたその佇まいが可憐な花をも想起させる・・・のは一瞬の出来事。
胸元には白い鉱石を荒々しく削ったヘビー系胸当てを着け、
露わになった白い太腿の前方にも胸当てと同様のゴツイ防具を着けている。
もう”アスファルトに咲く花の様に”なってしまっていた。
「あれ・・・多分、あおがみ様だ」
威流は起き上がろうと思い、
寝床のすぐ横にあった棒を支えに立ち上がる。
「うんっ?なにこの棒・・・」
威流は掴んだ棒をよく見てみると、
先端は地面にめり込んでいるのでどういった物かは判別不能だが、
言うなれば捕鯨で使う銛にも見える形状をしていた。
「あのエルフの一族ですもんね~」と威流はエルフの手元を確認すると、
持ち主の身長を越える長くて太い湾曲した物体を手に持っている。
両端は細く尖っており、中心に向かって太くなっていくが、
持ち手となる中心部は細く握りやすい造りとなっていた。
金属で編まれた極太ワイヤーが両端を繋いでいる、
いかにもエルフな代物であった。
「先端がちょこっと地面にぶっ刺さってますけど、それ弓ですよね?・・・」
さっきの衝撃は、
”弓”で”棒”を打ってきたって事ですか?
えぇ、分かっていましたとも、
ただの可憐で清楚な和風美人だけでは無いって事は。
それにしても弓のサイズ感、おかしくありませんか?
普通の弓がワインボトルだとすると、
あなたが持っている物は”業務用の焼酎ボトル”です。
しかも、何故それを今打つ必要があったのでしょうか?
寝床ごと砕け散るところだったんだが・・・
威流はこの攻城兵器エルフを、
”バリスタ”エルフと呼ぼうと決めた。
威流が茫然としていると、
頬を薄い桃色に染めたエルフは、もじもじしながら勢いよく頭を下げて来た。
そのいじらしい姿に、不覚にも「可愛い」と思う威流であった。
可愛らしさによって”棒を打ち込む”という蛮行を帳消しにした威流は、
挨拶がてら頭を下げるとエルフの表情は明るくなった。
気性の荒いヘビーアーマーエルフとは違うなぁ。
全く喋らないし大暴れしないのも新鮮だ。
「あの・・・どういったご用件でしょうか?」
話し掛けても無駄か、言葉が通じてないもんな。
しかも、もじもじして何も言ってこないし、
ある意味ヘビーアーマーエルフより厄介かもしれん。
なんかあんまり用とか無さそうなんだけど・・・
どうすればいいの、こういう時。
こっちをチラチラ見てるし微笑んでるしで、
この人、一体何がしたいの本当に。
「取り敢えず挨拶は出来たし、起こしてもらうか」
威流はバリスタエルフに手を振り、
握った拳を自分の頭に当てて見せる。
バリスタエルフは小さく頷き、
モーニングのスターを取り出すが、一向に近づいて来ない。
このままでは埒が明かないので威流が歩み寄ると、
バリスタエルフは歩み寄った分だけ離れていく。
「この人、めっちゃ人見知りのコミュ障だ・・・」
どうしよう!?逃げ続けられたら夢から覚めない。
自分で頭を殴ればいいのか?
威流は手を差し出して、
「お前が手に持っているそれをよこせ」と合図するも、
バリスタエルフは首を横に振る。
関西人でもないのに「なんでやね~ん」と叫びそうになったが、
怖がらせるともっと大変な事になりそうなので、グッと言葉を飲み込んだ。
威流は何か良い方法がないか考え始めると、
バリスタエルフも何故か一緒に考え始める。
暫し、考察の時間となるが、
バリスタエルフが「あっ!?」って顔をしたので、
威流は何か碌でもない事を思いついたのではと思った。
バリスタエルフは背中に手を回すと、矢という名の銛を手に取り、
その鋭い先端にモーニングのスターを押し付けている。
銛の先端にトゲトゲ鉄球が付いた、通称”モーニングアロー”を弓に番え、
威流に狙いを定める。
バリスタエルフは左手で矢を引き絞ると、
ワイヤーが軋みだしミシミシと音を立てる。
「あんな物で打たれたら上半身が吹き飛ぶ」と思った威流は、
その場から逃走を始める。
死なないと分かっていても怖いものは怖い。
だが、必死に逃げたところで、
あの弓の射程距離と発射速度から逃れる術は無いと分かっていた。
バリスタエルフの動きが止まる。
それは発射準備が整った合図であった。
バリスタエルフの左手から矢が放たれ、
弓の弦が芯の有る重低音を響かせる。
轟音と共に飛んで行った矢は「あっ」と言う間も無く威流に届き、
意識と一緒に身体のどの部分が吹き飛んだのか分からないまま、
意識は深い闇に沈んで行った。




