77話 人生には運命という名の”強制イベント”が存在する・・・
威流は黄色い魔石で出した光源を頼りに、
暗い森に足を踏み入れていた。
「出るなよぉ~、何も出るなよぉ~」
どこぞの狂言師の様にそろりそろりと一歩一歩慎重に進んで行く。
時折聞こえる草木の騒めきにビクつきながら辺りに目を凝らす。
ポチャンと水面に水滴が落ちる音が聞こえ、その方向へ向かって行く。
すると暗い森の中、木々の間から眩い光を放つ場所を見つけ、
恐る恐る近づいて行くと、水面が七色に輝く池を発見する。
「やっぱりあった!!」
運命の導きに従い、威流は新しい池の広場を見つけたが、
その導き方が少々疑問の残る強引な手口であったのを語らねばなるまい。
カレキと別れた後、威流は街道を順調に進み、
日が暮れた頃には町の明かりが見える所まで辿り着いていた。
なんとか町の付近まで辿り着き安堵する威流。
危険な野宿からも解放されると思ったが、
先立つ物が無ければ宿には泊まれない。
「異世界に来ても世知辛い・・・」
異世界のルールが分からないから、
町付近での野宿は止めておこう。
目ぼしい場所を探す為に、威流は地図を開く。
「この辺りの森となると・・・」
町のすぐ隣の森か、今いる場所から行ける森の二箇所か。
げっ!!ここから行ける場所って巨大蜘蛛の居る森だ。
無理無理無理、ここは安らかに眠れない。
いや、むしろ安らかに眠らされてしまう。
町の近くの森も油断は出来ないぞ。
衛兵が「不審者を見つけたぞ」からの”槍でズン”、
若しくは狩人が「茂みが動いたぞ」からの”弓でピュン”
天に召される選択肢しかない。
言葉が通じれば事情を話せるが、
僧侶達の時と同様に誤解が生じたらまた大事になりそうだ。
言葉か通じないという状況では、
野生動物も人間も脅威度はそう変わらないと思う威流であった。
判断が定まらず、威流その場に座り込むと、
ポチャンと水面に水滴が落ちる音が聞こえた。
「なんだ?何か聞こえたぞ」
目を瞑り、耳に意識を集中する。
風の吹き抜ける音、夜空に響く鳥の声、
揺れる草木の音に混ざり聞こえてくる滴り落ちる水の音。
その音に誘われるかのように威流は歩き出す。
街道から外れ、草地を進んで行くと森に差し掛かる。
威流は息を呑んだ。
「ここは、蜘蛛の森だよな・・・」
この森に入って大丈夫なのか?
どこからともなく現れる蜘蛛に対応が出来るのだろうか?
「蜘蛛の糸でグルグル巻きにされている未来しか想像できん」
不吉な予感がするで片付かない。
威流が「やっぱり行くのは止めよう」と思っていると、
先程から聞こえてくる水の音が突如激しくなってくる。
当初は水滴が水面に落ちるポチャンという小さな音だったものが、
バシャバシャと小魚がのたうち回っている音に変わっていった。
威流は気付く、
これはゲームで言うところの「必須イベントなのでは?」と。
「まさか、俺が行くのを迷ってるから音の主張が強くなったのか?」
さっきまではちょっとだけ神秘性があったのに、
今は「ほらっ、来いっ、早く!!」感が強くなってしまった。
けど、巨大蜘蛛だよ。ビーム兵器も戦車も無いんだよ。
そんな気軽に言われましても・・・
威流の迷いに比例して、
水面を打ち付ける音の主張も激しさを増す。
「バッシャバシャうるさい!!行けばいいんでしょ、行けば」
威流の耳元で騒ぎ散らかす”水面を尻尾で打ち付ける人魚姫”並みの騒音に耐え切れず、森に入る覚悟を決めると水の音は神秘性を取り戻した。
「なんのイベントなのこれ?」
それから、森へ入った威流は新たな池の広場を見つける事となる。
「池の広場は一つじゃないのか」
威流は見慣れた七色の池に近づき、
中を覗き込むと白い魚が一匹、優雅に泳いでいる。
「あぁ、しらがみ様が居る!!」
威流が手を振ると、白い魚は池の縁に近寄ってくる。
「あれ?無視すると思ったのに」
白い魚はその場に留まり、威流をじっと見つめている。
「初めまして、俺は赤音威流って言います」
威流は白い魚に頭を下げ挨拶をすると、
白い魚は円を描いて泳ぎ、その場から離れた。
「なんか、あっちのしらがみ様より反応がいいな」
こっちのしらがみ様は左側に一つ”青い鱗”があるから、
”あおがみ”様って呼ぼうかな。
そんで、あっちのしらがみ様は”あかがみ”様にしよう。
「 ”しらがみ家の一族”を見つける日が来るとは」
そうだっ!!俺を勝手に異世界に飛ばしたあのしらがみ様は、
色の付いた鱗が無いから適当に”スケキヨ”と呼ぼう。
威流は池の周りを見渡す。
大きな石の台、水の湧き出る石柱と木の器、
以前の場所と変わらずといった様子であった。
「ここにも誰かが居た形跡が残っている」
もしかして、以前の池の広場と同じ人物が居たのかもしれないな。
何はともあれ、有難く使わせてもらうとしますか。
拠点を手に入れたはいいが、本当にでっかい蜘蛛は居ないのか?
ここに来るでに蜘蛛の巣は無かったし、鳥の鳴き声も聞こえたって事は、
少なくとも蜘蛛の餌にならずに生きていける環境って事なのかな?
「もし出て来たら魔石で追い払ってやる」
七色の池があるから魔石の補充は出来る。
魔石が無くなる前に池の広場まで戻らないとって考えてたけど、
問題が一つ解決出来たのはラッキーだったな。
取り敢えず、今日はもう疲れた。
明日になったら町に行ってみる事にしよう。
威流はこげちゃんを地面に放ち、
寝床に横になって休む事にした。




