75話 みんな、丸太は持ったな!! いいえ、持てません・・・
酸欠で意識がぶっ飛びそうになりながらも走り続けた威流。
恐ろしくも可愛い追撃者を振り切り、立ち止まって呼吸を整える。
「はぁはぁはぁはぁ、ふざけやがって野生動物め~」
やっぱり、野生の動物に餌を与えてはいけない。
普段から看板とかで目にしている事には、
ちゃんと意味があると理解出来ました。
もうしません・・・多分。
胸ポケットに居るこげちゃんの様子はどうだろうか?
うん、丸まってよく寝ている。
この場合は、今何が起きたか分かってないパターンだ。
一旦、地図を確認しておくか。
威流は鞄から地図を取り出し、現在地を確認すると、
かなりの距離を走った甲斐もあり、町へはもう間もなくといった所であった。
威流は歩くペースを落とし街道を進んで行くと、
山あいに夕日が沈んでいくのが見え、段々と夜の帳が降り始める。
「今日も野宿だぁ~」
街道から少し離れた見渡しの良い場所を選び、
威流は野宿の準備を始めた。
薪となりそうな木の枝を一箇所に積み上げ、
黄色の魔石でビー玉位の大きさに調整した火球を用意する。
集めた木の枝の中に火球を落とすと、
パチパチと音を立て、木の枝にゆっくりと燃え広がって行く。
焚火の用意が終わったら、
自身の背後を守る為に緑の魔石で石の防壁を張り、
そこにもたれ掛かりながら眠りにつく。
お守り代わりに紫の魔石を握りながら。
翌朝、威流が起きると、
こげちゃんはポケットから出て草を食んでいた。
威流は少しぼーっとしてから、
昨日持ってきた果物を齧って朝食を済ませる。
「しかし、じいさんとのキャンプ経験がここで生きるとは、
人生何があるか分からんもんだな」
見知らぬ土地での野宿など誰しもが不安で眠れなくなりそうなものだが、
キャンプ経験と併せて魔石もあるから案外眠れるものだな。
「いや、でかい蜘蛛が居るエリアでは無理か・・・」
町の近くの森だったよな・・・
あの近くでは絶対に野宿はしない。
俺は熊や狼より、得体の知れない大きな蜘蛛が怖い・・・
「よしっ!!先を急ごう」
ポケットに入りっぱなしの不満を解消すべく走り回る小動物を掴み、
また胸のポケットへ押し込む。
今日中に町に着けるかもと考えると、
疲れは溜まっていても、自ずと足取りも軽くなる。
威流が軽快なステップで街道を進んで行くと、
遥か前方に屋根付き荷台を引く馬車を発見する。
久し振りに誰かに会える嬉しさから、
威流はその場所へ駆け寄って行くが、
”また、あいつらかっ!!”と辟易してしまう。
馬車の前方を取り囲む黒い熊の群れ。
獣の群れのお目当ては馬車を引く二頭の馬だった。
御者の男は手綱を引き締めて動揺する馬を落ち着かせた。
他にも人が居るのか、熊に注意を払いながらも、
荷台に向かって声を掛けている。
「あれ、助けにいかないとまずいんじゃないか?」
紫と緑の魔石を手に威流は馬車に向かって駆け出すと、
勢いよく荷台から飛び出る者が居た。
パーマのかかった亜麻色の髪に凛々しい眉毛。
主張の強い大きな瞳に掘りの深い顔。
誰かのお下がりではないかと疑いたくなる丈不足の”へそ出し袖なしの上衣”と、どうしてその長さになったか分からない”短すぎる下衣”を身に着け、殆ど丸出しになっている長い腕と足。
着衣の随所から、雑草の様に茂り伸びて絡まってしまった体毛がはみ出している。
”知性”より”筋力”のステータスにポイント振りたい風貌の、
見た目は”子供”、頭脳は”筋肉”みたいな男が颯爽と姿を現した。
その男は熊の包囲に焦る様子も無く、馬車の荷台に両手を突っ込むと、
家の大黒柱級の太さがある丸太を当たり前の様に引き摺り下ろした。
その丸太を左脇に抱え、右手を木の下に添える。
筋力依存武器を装備した男は馬車の前まで歩いて行き、
堂々と熊の群れの前に立ちはだかる。
「まさか、あれを武器に・・・」
吸血鬼の物語に登場しそうな”丸太”を武器にして戦う男に、
威流は軽い興奮を覚えた。
だが、本当に手助けに行って大丈夫か?
敵と味方の識別が出来るタイプなのか?
よもや、熊ごと人を殴り倒すバーサーカータイプではないのか?
威流は走りながらも、危機管理に余念がない。
威流はあの男がどう戦うのかを想像していると、
男は丸太を右から左側に振り抜き、数匹の熊を吹き飛ばす。
そこから、男は丸太を上に持ち上げ振り下ろすと、
下敷きになった熊はピクリとも動かなくなった。
飛び掛かって来る熊も丸太で難なく打ち落とし、
男は筋力と技の冴えを獣と威流に見せつけた。
この男の戦い振りに、
バーサーカータイプである疑念が膨らむ威流であった。
挟み撃ちを画策していたのか、
馬車の後方へ回り込もうと走る一匹の熊がいた。
前方の熊の群れに意識を向けていた男は対応が遅れる。
熊は男が牽制に振り下ろした丸太を避け、馬車の荷台に乗り込もうと飛び上がった。
その瞬間、雷光が熊の腹部を貫く。
全身をビクビクと痙攣させながら、意識を失った熊はそのまま後方へ倒れていく。
続け様に、馬車の前方に居た熊の群れの頭上に石の雨が降り注ぐ。
致命傷は与えられずとも、威嚇の効果としては十分だった。
それなりの痛手を負った熊の群れは、
蜘蛛の子を散らすようにその場から逃げ出した。
丸太の男は手に持っていた武器を投げ捨てると急いで荷台に戻り、
御者は手綱を握ったまま、警戒を解かず辺りを見回していた。
威流が手を振りながら近づいていくと、
それに気づいた御者も手を振り応えてくれた。
威流が話せない程に呼吸が乱れているのを見て、
馬車から降りた御者は、黙って威流の様子を伺っていた。




