74話 予定通りに進まない事も踏まえて考えるのが”計画を立てる”という事だ・・・
新しい冒険が始まった威流は、
脇目も振らず全力で街道を走っていた。
威流の後方には、
涎を垂れ流した子熊が群れを成し追って来る。
「マティオンめっ!!書くならサイズ感も反映させておいてくれ」
飢えた子熊の群れに追われる事になったのは、
威流の勝手な思い込みに原因があった。
アンブリラでリリー達との悲しい別れが有り、
意識を全てそこへ持って行かれたのは当然の結果とも言えよう。
だが、これからどの程度の距離かも分からない旅に出るにしては、
どう考えても ”準備不足であるのは否めない” どころの騒ぎでは無い。
デイジーが用意してくれた弁当以外に手持ちの食料は無く、
水筒なども持ち合わせてはいないのに、威流は随分と楽観的であった。
”八月の終盤まで宿題に手を付けない小学生”や、
”意中の女性とのデートで店の予約を取らない男”。
”盗んだバイクで走り出す”くらいの無計画さではないであろうか。
幸いにも街道沿いには旅人の為に用意された休憩所が点在しており、
水についてはそこまで困る事は無かった。
だが食料については、そう簡単に事は進まない。
威流は「食料などは途中で調達すれば良い」と気軽に考えていたが、
当然、この街道沿いに店などがあるはずは無く、旅立ち初日で食料が尽きた。
不安になり地図を見直すと、町はそう遠くない様に思えていたが、
”ゲームの地図”ばかり見ていた男の距離感などを当てにするのがおかしいのだ。
空腹をちょっと我慢すればすぐに町に着くという考えが、
実に甘いものだったと気付くのは手遅れになってからだった。
どんなに歩いても草と木と舗装されていない街道しか見えず、
「次の町に行くのって、こんなに苦労するものなの?」と現実が見え始めた。
RPGだと、次の町に行くのをそんなに遠くだと感じた事は無い。
だが、現実はこんなにも非情なのだ。
「ゲームのキャラクター達は、とんでもない速度で走っている」
ゲームのキャラクターと同じ境遇になってみて、
威流は人生における新しい学びを得た。
空腹に耐えきれなくなった威流は、
街道から外れた森に果物か蛇を探しに入ってしまう。
その森に入る前に威流は地図を確認したのだが、
マティオンが”熊のマーク”を書いた場所であった。
無駄に可愛い熊さんの絵が緊張感を無くし、
威流の油断を誘う事になったのは、
マティオンの過失であると言っても過言では無い。
当然、威流は熊が居るという認識ではあったが、
「巨大な熊が近寄ってきたら、見てすぐに分かるだろ」と、
素人のマタギでも絶対にしない判断を下していた。
森に入ってから直ぐに、池の広場で食べていた果物が見つかった。
飢餓状態だった威流はその場で食べ始めたのだが、
当然、そういった場所には他の動物も集まって来る。
威流とこげちゃんが果物を食べていると、
草むらから黒く短い毛をした子熊が顔を出した。
「子熊が居るっ!!可愛いねぇ~」
威流は果物を一つ子熊に向けて投げると、
それを咥えて走り去っていった。
”子熊が喜んでくれた”と、威流はそう思っていた。
これが動物園であれば間違いではないのかもしれない。
だが、あの子熊はこの森に生きる野生の動物。
縄張りを荒らされたと思った熊は、
”荒しに来た外敵を排除する必要がある”と考えた。
そして”新鮮な肉にありつける”とも考え、
それを群れの仲間に伝えた。
熊の群れは草むらや岩の陰などに身を隠し、
ゆっくりと標的に近づいて行く。
威流の中にある熊のイメージは、
大人になれば体長が自分の身長を優に越す巨体になり、
近付いてくれば一目瞭然であると高を括っていた。
だが、それは思い込みというものだった。
この熊は大人でも体長は大型犬とそれ程大差が無く、
その可愛い見た目に反して、かなり獰猛な種類なのだ。
接近してくる熊に気付かず、
威流はお持ち帰り用の果物を鞄に乗せている所だった。
獲物が油断しているのを確認すると、
熊が次々と草むらから飛び出て襲い掛かる。
その瞬間、熊の獲物の前に石が集まって壁を作りだし、
最初に飛び出した数匹は石の壁に当たってその場に転げ落ちる。
他の熊が壁の横を通り過ぎようとした時、
壁となっていた石が四方八方へ弾け飛び熊の群れを襲う。
森を出て街道まで逃げてきた威流は、振り向き様子を確認する。
「あっぶね~、やっぱ、子供でも熊は熊だな」
いくら空腹だからといっても、
大型の熊に襲われる可能性を考慮しない程の馬鹿ではなかった。
威流は予め緑の魔石を起動しておき、
何かあったら「誰が相手でもぶっ放す」と決めていた。
街道まで逃げて来たし、もう追ってこないだろうと、
威流は根拠の無い勝手な思い込みをしていた。
当然、外敵から攻撃を受けた熊は怒り狂い、
威流を”今日の食料”と認定し追跡を始めた。
森から走って来る可愛い黒熊の集団を見た威流は理解する。
”果物をくれてありがとう” というファンシーな世界など自然界には存在しない、
”石ぶつけやがって、こんちくしょう!!” というバイオレンスな世界しかないと。
威流はそこから街道をひた走る事となるが、
唯一の救いとなったのは、起こるべくして起ったトラブルのお陰で、
奇しくもゲームのキャラと同じくらいの速度で道を進む事となった。




