71話 その人にとって、何が救いになるかは分からない・・・
白い鯛焼きを二つ置き、”お願い”体勢が万全となった。
本当にこれでいいのかと蓮は考える。
そもそも威流が異様な願いをしたからで、
普通の願いであれば問題は無いはずだ。
冷静になってみれば、願いを叶えるなんて眉唾なものを信じるとか、
昨日の時点では思ってもみなかった。
蓮は深呼吸をして落ち着きを取り戻したが、
葵は既にお祈りモードに突入していた。
念の為、蓮もお祈りを始める。
当初、葵の願いは「赤音さんと両想いになれますように」であったが、
両想いになりたい相手が行方不明では意味が無いので、
「赤音さんの傍に行きたい」に変更していた。
蓮の願いは「威流が見つかりますように」であった。
二人共、何をお願いしたのかは敢えて口にせず、
威流の家へ向かう事にした。
会社前まで戻り、タクシーを拾う。
葵が行き先となる威流の住所を”何も見ずに”運転手へ伝え、
「この女、既に住所を暗記している!!」と蓮を驚かせた。
威流の家に向かうタクシーの中で、
蓮は疑問に思っていた事を静かな口調で聞いてみる。
「久城さんは、
何で威流をそこまで気に掛けているんだ?」
「なっ、何故それを柾黄さんに言わなきゃならないんですか?」
「別に言いたく無いのなら、これ以上聞かないけど・・・」
葵は顔を赤くしながら質問の回答を拒否したが、
少し考えた後、口を開き始める。
「赤音さんって、
何を考えているか分からない所あるじゃないですか」
「まあ、そうだな」
「だから、何て言うかミステリアスっていう訳ではないんですけど」
「ああ」
「誰かに何かをする時、何も考えてなさそうに見えて、
そうでも無いというか」
「言いたい事は分かるよ」
「全然知らない人に親切にしていたり、
自分の仕事では無い事でも手助けをしてくれたり」
「そうだな」
「それなのに、あんまり覚えていないんですよね、自分のやった事」
「確かにな」
聞き覚えの有る話に蓮はつい笑いが込み上げてくる。
「なんで笑っているですか?」
「すまない、ちょっと懐かしい事を思い出してね。
続けてくれ」
「はい。電参に入社した時に、
色々な男の人に声を掛けられて、ちょっとうんざりしてました」
「ああ、結構話題になっていたな」
「そうなんですか?」
「新入社員に可愛い子が居るって、男共が色めきだっていたぞ」
「だからなんですかね。
やたら声を掛けられるし、過剰なまでに手伝おうとしてくるんです」
「そりゃまあ、そうなるかもな」
「手伝おうとしてくれるのは嬉しいのですが、
食事に誘われたり連絡先を渡されたりで、
それが無いと手伝うつもりも無いみたいに感じて」
「そうか・・・」
「赤音さんだけだったんです。何も言わなかったの」
「だろうな」
「それで、困っていた所を助けてくれたお礼を次の日に言いに行ったんです」
「どうだった?」
「そうしたら、他の人と勘違いしていたんだと思います。
全然私に関係の無い話をしていて」
「それで」
「”その件じゃないですよ”って言ったら目が泳ぎ始めて、
焦ってアワアワしてなんとか取り繕おうとしてるんです」
蓮には想像通りの威流の話に笑いが堪えられず、
ついに噴き出してしまった。
それに釣られて葵も笑い出す。
話を聞いていたタクシー運転手もにやけ顔が止まらない。
「だから、私を助けてくれた事に下心なんて無かったんです。
きっと、私以外の人にもそう」
「俺の時もそうだったから分かるよ」
「柾黄さんのも同じ様な事があったんですか?」
「俺が困っていた時に来てくれたよ。
その時はちょっと普通の人っぽい感じ出すんだよ、あいつ」
「そうなんですよ。なんか凄く冷静な人って感じでした」
「照れ隠しなのかもしれんが、かなり無理をしてたんだろうな。
すぐボロが出ていたから」
「私の時は終始冷静な感じでしたけど?」
「けど、礼を伝えに行った時に、”あれ?”って思たんだろ」
「まあ、そうですね」
「それがきっかけみたいな感じ?」
「そこから、お仕事で関わる事もあって・・・」
「威流を好きになってしまったと」
その言葉を聞いた葵は目を見開き蓮を見る。
先程よりも顔が赤くなり、顔には”なんでバレた?”と書いてある。
蓮も流石に”おいっ!?”とツッコミを入れたくなったので、
話を続ける事にした。
「まさか!?バレて無いとでも思っていたのか?」
「赤音さんにその事話してませんよね?」
葵は笑顔で圧を掛けてくる。
「そこまで無粋な事はしないよ。
つまり認めるって事でいいんだね」
「私は何も言ってませんよ」
この時の葵は「この男を早急に始末しなければならない」と
思ったとか、思ってないとか・・・
話が盛り上がり始めた所で、
威流の家の前でタクシーが停まる。
財布を出そうとする葵を静止した蓮は、
黒いクレジットカードで支払いを済ませタクシーから降りた。
金銭的な気配りを良しとしない葵は、
財布を出して蓮に伝える。
「あの、半分払います」
「いいよ、大した金額じゃないし」
「奢られたりするの、あまり好きじゃないんです」
「それじゃあ、今度飯でも奢ってよ。
威流も連れて行くからさ」
「えっ!!・・・はい」
自分から食事に誘えない葵に訪れた、またと無い好機。
この件で蓮が手に入れた葵に対するアドバンテージは、
後に強い効力を発揮する事となる。




