67話 流れに違和感を感じるなら、それは”軸”がずれている時だ・・・
威流の新しい旅が始まった。
その頃、株式会社 電参では騒動が巻き起こっていた。
落ち着かない様子で自分の机の前を行ったり来たり、
不安と焦りで大人しく座っている事も出来ない白長部長。
「赤音はどこに行ったのだ?」
始業時間を過ぎても出勤しない威流。
今迄に、欠勤はおろか遅刻も無い男が突如の無断欠勤。
ましてや、その男が第一営業部のエースであり、
その存在無くして部の目標達成はあり得ない。
白長部長が心配しているのは、
威流の安否では無い。
自分の立場と成果だけだ。
その様な事は誰しもが分かっており、周りの者は口を揃えて言う。
「赤音さん、もう限界来てたんじゃないのか」と。
確かに、威流の限界はもう直ぐそこまで来ていたのは事実だ。
だが、異世界に飛ばされてしまっているなど分かりようがない。
騒ぎを聞きつけた柾黄蓮は第一営業部まで足を運び、
営業アシスタントをしている峰岸に状況を聞く。
「騒がしいけど、何かあったの?」
蓮に声を掛けられ舞い上がり、
どうにかお近づきになりたい峰岸は素直に答える。
「なんか~、赤音さんが無断欠勤したって部長が騒いでるんですよ~」
「はっ!?威流が来てないの?」
「そうなんですよ~。みんな、仕事が嫌になったんじゃないかって~」
「そうか・・・忙しい所、ありがとうね」
峰岸は蓮とおしゃべりが出来たと喜んでいたが、
蓮は怠い話し方をする女性に全く興味が無い。
「あいつ、マジで毒キノコでも食べて野垂れ死んでるんじゃないのか?」
蓮はスマホを取り出し、威流に電話を掛けるが、
コール音は鳴るものの、いくら待っても電話に出ない。
「あの馬鹿。何やってるんだ!!」
蓮はうろつく白長部長に「威流から連絡がなかったか?」と聞こうと思ったが、
余りにも狼狽えているので、その必要性が無い事を察した。
何か手掛かりが欲しい蓮は、威流のデスクまで向かうと、
そこには不安そうな顔をした男が立っており、呪いでも唱えているのか、
ブツブツと独り言が止まらない。
蓮はその男の肩を叩き、何をしているのかを尋ねる。
「えっと、威流の後輩の山田君?
ここで何をしているのかな?」
突如声を掛けられた事に驚いた男は振り向くと、
あからさまにがっかりとした様子を見せる。
「柾黄さんですか・・・」
「威流じゃ無くて、申し訳ないね。
まあ、その様子だと、君も威流がどこに居るか知らないみたいだね」
「そうなんですよっ!!
赤音さんが居ないと何をして良いか分からなくて・・・」
話には聞いていたけど、想像以上に手強い子だな。
威流が面倒見が良いのは分かるけど、
これだと流石に逃げたくもなるかもな。
蓮は溜息を吐きながらも、フォローを入れておく。
「威流と連絡が取れない時は、どういう事をして欲しいって言ってた?」
その問い掛けに何か閃いた顔をする山田を見て、
蓮はまた溜息が出そうになった。
「そうでした。今出来る事を探してやりなさいって言ってました」
「じゃあ、それでお願いね」
「はい、分かりました」
晴れ晴れとした面持ちで席に戻る山田にある種の狂気を感じ、
絶句する蓮であった。
気を取り直して、威流のデスクを確認する。
デスクの上は小綺麗に纏まっており、
昨晩に何かが起きた様子は見受けられなかった。
引き出しを開けようとした所で蓮は声を掛けられ顔を上げると、
そこには両手でファイルを抱えた久城葵が立っていた。
「柾黄さん。赤音さんのデスクで何をしてるんですか?」
「何って、あいつがどこに行ったのか分かる物を探しているんだが」
「えっ!!赤音さん、来てないんですか?」
「俺もさっき聞いたんだけど、なんか無断欠勤してるみたいなんだよ」
「そんなっ!?まさか毒キノコでも食べたんじゃ・・・」
「はぁ・・・久城さんの知ってたの?毒キノコの話」
蓮は毒キノコの件を自分以外の人間に知られている事に呆れてしまう。
「知ってましたよ。
何かネットで調べてると思ったら毒キノコでした。
赤音さん、確かキノコ嫌いなはずですけど?」
葵の話の内容から”何故、毒キノコなのか?”は知らないと分かり、
そこは敢えて伏せておく蓮。
「なんでだろうね~?」
蓮は適当に返答をしながら、威流のデスクを漁る。
次々と引き出しを開け、その中にある物を手に取り確認するが、
手掛かりになりそうな物は見つからず、異様にカラフルな袋に入ったお菓子が目に付く。
「あいつ、またコッソリこんな物ばかり食べてるのか!?」
高カロリーのチョコバーやら、飴やラムネ、綿菓子なども入っている。
そのどれもが、威流の昼食になっているのを蓮は知っている。
「これは没収だ!!久城さん、これいる?」
蓮はいくつかのお菓子の袋を引き出しから取り出すと、
葵の目の前に差し出す。
25歳のうら若き乙女の葵は普段から体重の管理には余念が無く、
カロリー制限で甘い物を我慢したり、運動も積極的に行っている。
威流に出会ってからは、より容姿の変化に気を遣う様になった。
そんな葵は、有ると食べたくなるという理由から、
お土産などではなければ、極力お菓子は受け取らない。
だが、今回は威流の好きなお菓子。
「赤音さんの為だから、しょうがないですね」と言い訳しつつ、
蓮からお菓子を受け取る、捻くれた素直さを発揮する葵であった。




