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66話 旅立ちを悲しまなくていい。レベルが上がれば魔法ですぐ戻って来れる・・・

集落に着いた威流たけるはリリーの家に向かった。



家の前まで来た威流たけるは軽めに数回扉を叩く。

中から声が聞こえ、その場で待っていると扉が開く。



扉を開けたデイジーは、突然の訪問に少し驚いていたが、

いつも通りの笑顔を見せ、家の中に通してくれた。



寝坊助のリリーはまだ起きたばっかりなのか、

ぼーっと椅子に座りながら、目を擦っている。



俺が手を振って「リリー」と声を掛けると、

「タケルー」と元気な声で俺を呼んでくれた。



足元に駆け寄るリリーを抱き上げると、

手足をバタつかせ喜んでいる。



そんな様子を眺めるデイジーはいつも通りに見えるが、

その表情の中にかげりが微かに浮かんでいる。



あぁ、そうか・・・

マティオンに聞いたんだな。



俺は旅立つ身ではあるから、別れの瞬間を耐えればいいが、

デイジーは悲しむリリーに寄り添ってあげなければいけないから・・・



リリーが悲しむ姿を見るのは、母親として辛い事だよな。

父親を亡くした時もデイジーは同じ様な気持ちだったのだろうか。



リリーが人間不信にならないか本当に心配だ。

だけど、元の世界に帰る為、どうしても行かなくてはならない。



ごめん、リリー。

ごめん、デイジー。



今は言葉で伝えられないけど、また必ず会いに来るから許して欲しい。



威流たけるは言葉に出来ない想いを胸に秘める。



そして、威流たけるとリリーを見つめるデイジーにも、

胸に秘めた伝えられない想いがあった。



タケルさんが居なくなったら、また悲しみに暮れる日々がリリーに訪れる。

きっとノーランの時と同じ。



帰らぬ人を待ち続け、期待外れの日々に落ち込んでいく。

元気なフリをしているけど、リリーは心配させない様にと無理して笑っていた。



母親としてそれを見るのが何よりも苦しい。

その気持ちに嘘なんて無い。



でも、私の心の奥底から湧き上がってくるのは、

タケルさんにずっと一緒に居て欲しいという気持ち。



リリーの心配よりも自分の想いが優っていると感じてしまう。

だから、この気持ちをタケルさんに伝えられない・・・



デイジーはこの感情を押し殺して笑う。



だが、いくら気丈に振舞おうとしていても、

押し寄せる感情が溢れ、隠しきれず表情に微かににじむ。



「いっそ、タケルさんと出会わなければ、こんな想いは・・・」

とさえ思ってしまう。



それでも、泣きたい気持ちをグッと堪えて笑顔を作る。

威流たけるの前では、そんな芯の強い女性でいたかった。



無邪気にはしゃぐリリーを抱き寄せる威流たけるの表情に、

デイジーと似た感情が浮かび上がっているのを察してなのか、

何も言わず送り出そうとデイジーはそう決めていた。



リリーが外に遊びに行こうと手を引いて来るが、

それをデイジーが止めて、何かを話している。



リリーは不満そうな顔をしているが、

デイジーが上手く取りなしてくれた様だ。



不満そうなリリーにこげちゃんを渡して、

ご機嫌を直してもらった。



するとデイジーが手招きをしてくるので付いて行くと、

まだ俺が入った事の無い部屋に呼ばれた。



部屋に入ると年季の入った寝台が目に入り、

その上に薄い布が引かれ、その上に少し厚手の布が乗っていた。



デイジーは寝台の傍にある三段の衣装棚へ向かい、

一番上の棚から一組の服を取り出し、寝台に置き部屋を出た。



一瞬でも「まさかっ!!」と思った自分が恥ずかしくて情けない・・・


とは思いつつも、威流たけるは心の中で血の涙を流した。

本当に恥ずかしくて情けない奴である。



置いてあるのは男物の服。

麻っぽい素材で造られたシャツとパンツ。

どちらにもいくつかのポケットが付いていて利便性が高そう。


「これに着替えろと?」


取り敢えず着替えてみると、思ってたよりもサイズ感は悪くない。

すこし肌触りにゴワつきもあるが、動き易さを重視した服装だと思う。



威流たけるが全身を隈なく確認していた所にデイジーが戻ってくる。


寝台に脱ぎ散らかした服をデイジーが畳み始めると、

大人としての恥ずかしさから、威流たけるはそれを止めに入る。



すると、威流たけるが脱いだ服を全て胸に抱え込み、

”これは絶対に渡さない”とデイジーは必至の表情で想いを示す。



女心に鈍い威流たけるでも、これは理解が出来た。


「うん、分かった。それは預けておく」


言葉が通じなくても、威流たけるの笑顔が充分に想いを伝えた。



デイジーもまた会いたいと思ってくれている、

威流たけるは嬉しくなり、つい勢いでデイジーを抱き締めてしまう。



お互いの気持ちが通じ合い、幸せな気持ちに浸っていたが、

センサーに異常を検知した混沌製造機カオスメーカーの来襲。



こげちゃんを小脇に抱えながら「どうしたの?」と言った瞬間に、

二人の距離はいつも以上に離れる事になった。



その後、デイジーは芋を炒めたものを植物の葉で包んだ

”お手製弁当”を威流たけるに渡した。



リリーとデイジーは村の入り口まで見送りに来てくれた。


俺はリリーの頭を撫でて「また遊ぼうね」と伝え、

デイジーには頭を下げてから歩き出した。


これ以上居ると、俺の涙腺がもう持たないし、

酷い顔になっているから振り返る事も出来ない。



この時のリリーは、威流たけるが旅立つという事を分かっていなかったが、

父親の服を着た威流たけるの背中を見て、急に泣きじゃくるのであった。



威流たけるは歩きながらふと思う。


僧侶達は誰も見送りに来なかったな。

リリーとデイジーの事で気を遣ってくれたのかもな。


まあ、確かに会うのが最後になるかもしれないし・・・



うん!?つまり、あいつら・・・


「やっぱり、俺が死ぬと思ってんじゃねぇか!?」


絶対にそうだ!!

あの野郎共め、ふざけやがって!!



「言葉を覚えたら問い詰めてやる。 俺が死ぬかもと思ってたろって!!」


こうして、勝手な推測で闘志を燃やす異世界人の”威流たける”と、

緊急時にしか発動しない不安定召喚魔法”こげちゃん”の新たな旅が始まる。


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