65話 地図が必要なら、方眼紙と鉛筆だけで充分だ・・・
明確な意図も分からないまま、地図を渡された威流。
だが、どの様な意図があるにせよ、本来の目的の為に地図は必要だった。
アークに頭を下げ、教会を後にした威流は海岸へ向かう。
何故かマティオンが追いかけて来たので、地図の件についての説明を求めた。
いつも通りに、マティオンは砂浜に絵を書いて説明してくれたが、
その内容は案外単純な事だった。
まずは、俺に言葉を覚えて欲しいという事。
アークは「言葉を覚えるなら、多くの書物に目を通すのが最善」と考えたらしい。
あの男には”教える”という発想は無いのか?
この説明の時に、何故かマティオンの目が泳いでいた・・・
マティオン曰く(絵で説明)、その町には地域の住民が集めた書物を保管する建物が有り、持ち出しは厳禁ではあるが、無料で誰でも書物が読めるそうだ。
いわゆる”図書館”が有るという訳だ。
帰還方法を調べるのにこの世界の言葉を覚えるのは必要不可欠だし、
図書館で情報収集が出来るのも有難い話だ。
次に、この地域の風習や文化に慣れておいた方が良いという事。
”僧侶にピース。この背教者め!出て行け!!”事件の例も踏まえて、
俺の行動があまりにも危なっかしいみたいだ。
この説明の時に、何故かマティオンが苦笑いをしていた・・・
この地域の風習や文化を学び、一般的な振る舞いを理解するのに、
そこに住む人々の生活を見て来いとアークからのお達しである。
言われた通りにしないとアークの不思議な力で ”灰” にされたり、
”いしのなか” に強制転移とかされそうで怖いから逆らう事は出来ない。
随分と親身になってくれるのは「僧侶だからなのだろうか?」と、
一瞬騙されそうになったが、アークの事だから絶対に違うと気付いてしまった。
説明が終わったマティオンは、振り向き様に手を振り教会に帰っていった。
池の広場に戻る途中、
威流は二つの問題について頭を悩ます。
第一の問題は”町まで僧侶が護衛をしてくれない”という事だ。
地図に書き込まれた危険地帯の印は、”行く時は気を付けろ”という意味だから、
独りで行って来いよって事だよな・・・
「そうだとは思ってたけど、無事に町まで辿り着けるか不安」
マティオンが「あいつ一人で行かせて大丈夫ですかね?」とか聞いても、
アークが「死んだらのなら、それまでの男だったという事だ」とか言ってそう。
もし死んだら、化けて出てやるっ!!
速攻祓われて終わりだと思うけどなっ!!
第二の問題は”金”だ。
考えたくも無かった問題だが、異世界であろうと何をするにも金が必要だ。
だが、貨幣の種類も知らなければ、物の価値も分からない。
金が全く無く生活が出来ていた今迄が奇跡みたいなものだったんだ。
町で物乞いをする訳にもいかないし・・・
いや・・・知り合いが一人もいないからワンチャン有りかも?
ダメだっ!!
そんな所をリリーとデイジーに見られたら俺は生きて行けない。
金の工面をどうするかは行ってから考える事にしよう。
行き当たりばったり過ぎるが本当に大丈夫なのか?
獣に襲われるのが先か、餓死するのが先か。
天に召される以外の明るい未来は無いのでしょうか?
解決方法が無い問題を抱えつつも、威流は歩みを進める。
ただ、その足取りを鉛の様に重くしているのは、
”一番重要な問題”が別にあるからだった。
「リリーとデイジーに言い難いなぁ・・・」
二人共、きっと悲しそうな顔をするんだろうなぁ。
俺も凄く寂しい・・・
だけど、俺は元の世界に帰らなければいけない。
いつかはこうなると分かっていても、やっぱり気持ちがついてこない。
「はぁ~」
溜め息を吐いたところで二人の事が頭から離れず、
項垂れながらトボトボと歩いっていった。
池の広場に戻った威流は旅立ちの準備を始めるが、
そもそも持っていく物など地図と魔石以外に何も持っていない。
森の主から貰った”緑の指輪”は薬指に着けており、
リリーから貰った”貝殻の首飾り”も肌身離さず着けている。
植物の蔓で編んだ肩掛け鞄は、つい先日に出来上がっていた。
以前から地道に作業していた自分を褒めたい気持ちになった威流であった。
肩掛け鞄は少年漫画の週刊誌が入る程度の大きさが有り、
細かく編み込んだ事で強度も充分だった。
そこに魔石を詰め込んでみると各色六個ぐらいは入りそうだったので、
赤は起動しないから一個にして、代わりに紫、青、黄色を多めにしておいた。
直ぐに取り出せるよう、隙間に地図を差し入れ、
旅の準備はあっと言う間に終了した。
「しらがみ様、明日から旅に出ます。色々お世話になりました」
威流は、一応お世話になったしらがみ様にも挨拶を済ませた。
いつも通り聞いているとは思えなかったが、それでも良かった。
その夜、意外な事にヘビーアーマーエルフが夢に現れ、
ご褒美アイアンクローからの地面に魔石をぶっ刺しで、
魔石の使用数上限が七個になった事を教えてくれた。
とんだ”ツンデレ”さんである。
モーニングのスターで殴られた威流は目を覚まし、
しらがみ様に怯えるこげちゃんは、どこかへ走り去ってしまった。
威流は鞄を肩に掛け、
草むらに隠れているこげちゃんを掴み、胸ポケットに突っ込む。
海岸にある目印をしっかり補強して、
焼け焦げた砂浜と乱雑に切り倒された木々の跡を見なかった事にして歩き出した。




