63話 ” ドラ ”マチックな恋愛は、” オラ ”には” 無駄 ”なのか・・・
食事を終えた威流が大人しく座っていると、
母親に何かを伝えたリリーが威流の手を引いて家から出ようと誘う。
家を出る時、リリーの母親に頭を下げ「ご馳走様です」と伝え、
威流は何だかよく分からないが付いて行く事にした。
リリーは扉を出ると、家の裏側に続く道を進んで行く。
家の裏側には、木の柵で囲まれた小さな庭があったが、
手入れが行き届いておらず、少々荒れた印象を受ける。
庭に着いたリリーがこげちゃんを欲しがるので、
胸のポケットで寝ていたこげちゃんを渡した。
その時、威流はリリーを指差し「リリー」と言い、
次に家を指差すとリリーは威流の意図を酌んで答える。
「デイジー」
「デイジー?」
リリーは頷き、母親の名前を教えてくれた。
あの人はデイジーさんと言うのか、可愛らしい名前だ。
料理も上手だったし、本当に素敵な人だなぁ~。
威流は素朴で可憐なデイジーみたいな女性はタイプなのだが、
恋愛に現を抜かしている場合では無いと自分を戒める。
元の世界に帰る方法を探す為にも、村人と仲良くして情報収集をする必要はあるが、村の女性と恋愛などしようものなら、帰還は早々に諦めて現地人となるしかない。
「そもそも、相手が俺を好きになるという大前提が・・・」
相手の親切心に浮かれてしまっている自分が恥ずかしい。
今日、食事に誘われたのはリリーの希望だと思うし、
昨日会ったばっかりで好きになるとか漫画の見過ぎだよ。
庭の隅に置いてあった手作り感のある三人掛けの椅子に腰を掛け、
庭を駆け回るこげちゃんとリリーを威流は眺めている。
海側から吹き抜ける風が潮の匂いを運び、
森の木々や草、そして土の匂いも混ざり合っていく。
大自然が作り出すこの心地の良い風と匂いに、
威流が忘れていた子供の頃の思い出が脳裏に浮かぶ。
祖父とよく行った軍事訓練。
マラソンとサイクリングと海水浴を祖父と立て続けに遊んだが、
小学校で「それ”トライアスロン”って言うんだぜ」と友人に教えて貰った。
どうでもよい事を考えていると、
食器の片付けを終えたデイジーが庭に顔を出す。
威流は食事のお礼を伝えようと立ち上がる。
言葉が通じなくても気持ちは通じる、そんな想いで声を掛ける。
「あの、デイジー・・・」
だが、威流は直ぐに口ごもる。
うん!?・・・
どうしよう” 敬称 ”が分からないっ!!
このままだと、馴れ馴れしくも呼び捨てになってしまう。
いや、現在進行形で呼び捨てをしてしまっている。
リリー助けて・・・
リリーの助けを必要とする威流の期待も空しく、
リリーはこげちゃんと楽しそうに走り回っている。
慌てる威流がデイジーの様子を伺うと、
顔を赤らめながら手で口元を隠し、視線を逸らし威流の言葉を待っている。
体育館裏に呼び出した女子に告白する雰囲気になったが、
相手にその気が無ければ、ただの”勘違い野郎”で済む。
だが、そうは問屋が卸さない。
デイジーの”その気がありそう”な雰囲気が更なる混乱を呼ぶ。
そして、二人だけの ” 世界 ” の ” 時が止まる ” 。
膠着状態に入った威流の頭の中はもう真っ白だ!!
時が止まってから、何秒過ぎたのか?
そんな事はもう分からない。
「タケルー」
救世主の呼び声に ” 時は動き出す ”。
二人は視線をリリーに移す。
リリーはしゃがんで手を振りながら、
こげちゃんのお尻から転げ出る物を指差し笑っている。
「△□✖〰◑♪」
それを見たデイジーさんがリリーに何かを言っていたが、
リリーは嬉しそうに何度も同じ言葉を繰り返していた。
そして、威流はリリーに新しい言葉を教えて貰った。
異世界であろうと子供の好きな単語 ”う〇こ” だ。
リリーが”壊した”恋愛ムードがすぐに”元に戻る”事は無く、
危うく勢い任せの告白をする所だったのを救われた威流であった。
その後のリリーは混沌製造機となり、
二人の恋心を掻き乱し、引っ掻き回し放題であった。
椅子に座っている威流とデイジーの間に座り”家族の絆”感を醸し出したり、
転びそうになったリリーを支える二人の手が触れあったり、
デイジーの飲み物をリリーが飲んでから威流に渡したりと、
二人の 恋心 に 刺激 が止まらず、
もう少しで 心臓発作 を引き起こす所であった。
しかも、要所要所でしっかりと恋愛ムードをぶっ壊しにくるので、
二人の関係は何の進展を見せる事も無く、威流は家路に就く事となる。
とはいえ、”敬称”が分からないままの威流は、
結局「デイジー」と呼ばざるを得なかったが、
それだけは進展があったと言えるのかもしれない。
威流にノーランとリリーの件でちゃんとお礼を伝えたいデイジーと、
デイジーに父親の件で謝罪をしたい威流。
折角の機会を逃してしまった二人は、この日以降、言葉が通じない事もあってか、
お互い言い出し難くなってしまった。




