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62話 あなたの事が気になって気になって、夜しか眠れない・・・

台所に立つデイジーは少し心配していた。



丁寧に作るといっても、どこにでもある普通の家庭料理。

タケルさんを強引に連れてきてしまったけど、

この地域の料理はお口に合うのかしら?



けど、久し振りに誰かの為に作る料理。

喜んで貰えたら凄く嬉しい・・・



ノーランが戻らなくなってから、

リリーと自身の食事しか作っておらず、

久し振りの客人の登場に、自ずと調理にも熱が入る。



本人に自覚は無いが、デイジーは少々浮かれていた。



夫に先立たれ、娘との二人暮らしを余儀なくされたが、

母親である以上にデイジーも一人の若い女性。



同年代の男性と知り合ってから直ぐ家に招く事になり、

今まさにその人の食事を作っている。



決して夫の事を忘れたわけでは無いが、

その人が”自分好みの男性”であるならなおさらだ。



この村に限らず、貧しい村に住む男は戦場や都市に出稼ぎに出てる者が多く、

故郷から出た者がそのまま行方知らずとなる事など、そこまで珍しくも無い。



訃報が届くのは稀有な例で、”夫が死んだ”と知る事は、

帰らぬ人を待ち続けるよりかは幾分かマシとも言えた。



”寂しさ”の為か、はたまた”生活”の為か、未亡人となった女性の再婚は早い。

だがそれは、人から後ろ指を指される類の話とはされていない。



デイジーは料理を作りながら、かなり先走った事を考えていた。



ノーランとは似ても似つかぬ見た目ではあるけど、

タケルさんの纏う穏やかな雰囲気は夫とよく似ている。



リリーを助けてくれた時のタケルさん。

目が少し怖かった、だけど力強い信念と覚悟を持った男の顔をしていた。



なのに、教会に居た時は何か少し頼り無い感じだったけど、

リリーを大事に想ってくれているのは、あの子の顔を見ていれば分かる。


どっちが本当のタケルさんなのかな?



デイジーは料理をしながら、チラッと後ろのタケルを見ると、

出された飲み物をゆっくりと楽しんでいる様だった。



何故か今は表情がちょっと硬い気もするけど、

初めての場所に来て緊張しているのかしら?



リリーもタケルさんを好きみたいだし・・・

一緒に居てくれたら、私も・・・



「お母さん、タケルが美味しいって」


「良かったわね、リリー」



デイジーは振り向いて、クスッと笑う。



その時に、ふいに威流たけると目が合い、

デイジーはつい視線を下に逸らした。



デイジーの頬は僅かに紅潮していたが、

それを気付かれない様に台所へ向き直す。



リリーのお腹がご飯を待ちきれずに音を立てて催促する。



「ごめんねリリー。すぐ出来るから、もう少し待ってね」



デイジーは急ぎ、調理を進めた。

出来上がった料理を皿に取り分け、汁物を器に注ぐ。



各々の前に料理と食器を並べると、威流たけるが食器を手に取り、

目の前で角度を変えながら、驚いた表情で凝視している。



威流たけるが眺めているのは、

持ち手の先に丸くて窪んだ箇所が有り、

その先端部分に食材を刺すための細い四本の棒状の物が付いている。



元の世界でも実際に見た事が無い”スポーク”と類似性の有る別物であったが、

威流たけるは初めて見る異世界の食器が気になって仕方が無い。



「ふふ、タケルさんには珍しい物みたいね」



その光景にデイジーはまたクスッと笑う。



「お母さん、もう食べてもいい?」


「ゆっくり食べるのよ」



リリーは食器を手に取り、汁物の器を手元に手繰り寄せ食べ始める。



「タケルは食べないの?」



リリーに声を掛けられ、食器を凝視していた威流たけるはハッとする。



照れながらも、背筋を伸ばし両手を合わせ言葉を発した。


「イタダキマス」



すると、リリーも背筋を伸ばし手を合わせて威流たけるの真似をする。


「イタラケマス」



その姿を見て、威流たけるは嬉しそうにリリーの頭を撫でると、

リリーも満足そうな顔をしてる。



デイジーも席に着き食事を始めるが、少し不安であった。



私の料理はタケルさんのお口に合っているのかしら?

タケルさんは大人だし、好き嫌いとか無さそうではあるけれど・・・



デイジーの予想は大外れである。

あいつは今、”常識人モード”で全てを耐え忍ぶ覚悟で臨んでいる。



食べ物の好き嫌いが並々ならぬ量の威流たけるだが、

芋や葉物の野菜、豆は一部を除いて好みの部類であった。



偶然にも、この地域での一般家庭の主食と言ったら、

豆や芋、人にも寄るが海藻などが挙がる。



リリーはあまり海藻が好きでは無い為、食事には芋が多様されている。

粗食ではあるものの、威流たけるにとってそれが何よりも良かった。



味覚のレベルが子供リリーとそう大差の無い威流たけるには、出された料理の味付けには特に問題は無く、人様の家で出された物に嫌いな食材が入っていないというだけで幸運であった。



更に、焼き魚と果物だけを食べ続けていた威流たけるには、

芋や豆を使った料理が”寿司”や”すき焼き”と同等の輝きを放っていた。



しかも、それが可愛い女性のお手製ともなれば、

もう「ここは三ツ星レストランかっ!!」と言いたくなる程の感動であった。



リリーも威流たけるもお行儀良く食べ、

いつの間にか器の上の料理は無くなっていた。



それを見たデイジーは、ほっと胸を撫で下ろす。



ご飯を残さず食べたリリーの頭を撫でる威流たけるを見て、

デイジーは思う、”料理を作った私の頭は撫でてくれないのか”と。

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