61話 男はアホで愚かだとっ!? あぁ、その通りだ・・・
リリーと手を繋いで村の中を歩いて行く。
集落の中に目立った被害が無い様に思えるが、
AEDや山賊僧侶、チキン達の活躍の賜物なのだろう。
途中で出会った村人がリリーに声を掛けて来るが、
その度に手を振ってちゃんと挨拶をしている。
リリーは本当に良い子だ。
繋いだ手を振りながら、リリーは何かを口ずさんでいる。
昨晩の事を何も気にしていない様にしか見えないが・・・
リリーの母親も何も無かったかの様に振舞っている。
ただ、少し先を歩きながらチラッチラッと後ろを振り返る。
たまに視線が合うと、急に前を向いてしまうのだが・・・
あんまり警戒していると思わせたくないのかもな。
三人は程なくしてリリーの家に着き、
威流はリリーに手を引かれ、そのまま家に入る。
「おっ、お邪魔します」
異世界の村人の家に興味が湧かないはずも無く、
失礼にも威流は部屋の中をしきりに見回してしまう。
平屋の一軒家の中は、15畳位の部屋に所狭しと古びた家具が置いてあり、
お世辞にも裕福な家庭とは言えないのが見て取れる。
台所とおぼしき場所にある食卓には、椅子が三脚置いてあった。
食卓を挟んで一脚づつと、その間にもう一脚。
一回り大きな椅子とその斜め前に子供用の椅子が置かれており、
子供用の椅子の前には、小さな子供が悪戯した痕がくっきりと残っている。
家族三人で仲良く食卓を囲んでいた、そんな情景が脳裏に浮かぶが、
今となっては”その名残”だと思うと込み上げてくるものがある・・・
リリーは大きな椅子に威流を座らせ、
斜め前に座ったリリーは両肘を突いて満足そうに威流を見ている。
リリーの母親は頭に白い三角巾を巻き、
竈に火を熾し、食事の支度を始めた。
その家庭的な母親の後ろ姿に薄っすらと惹かれるものがあったが、
久々の”常識人モード”で、下心とも取られかねない緩んだ顔つきを引き締め、
その気持ちの痕跡を残さず、さっと隠蔽する。
食事の支度の途中、客人に気を遣ってか、
鍋で煮出したものをリリーと威流の前に置く。
木製のコップに並々と注がれた緑色の液体からは湯気が立ち上り、
当然、緑茶であろうはずが無く、その見た目は青汁の亜種と言った具合であった。
好き嫌いの激しい威流には「これ飲めるかな?」案件となったが、
どの様な相手であろうと人の好意を無下には出来ない威流は、
”気合”という名の精神論で、その窮地の全てをどうにかして乗り越えて来た。
熱い青汁の亜種をフーフーしてから飲む子供を前にして、
ここで日和るなど大人の男としての矜持に反する行いだ。
”常識人モード”発動中の威流は顔色一つ変える事無く、
笑顔で「いただきます」と言い、熱々の青汁の亜種を口に運ぶ。
この男は以前、付き合っている女性から心の籠ったお手製の弁当を貰った。
威流の嫌いな物を”これでもか”と愛情よりも多く詰め込んだ、
”好き嫌いを減らそう、愛しの彼女の思いやり弁当”を受け取り、
半ベソになりながら見事に完食した経験がある。
弁当を食べ終わった後に「ありがとう、美味かった」と彼女に言い放てる程、
彼女という存在を中心にして生きる恋愛豪傑でもあった。
その彼女と別れた後に、
あの弁当の事を”開けてしまうと災厄が降りかかる箱”として、
”パンドラ弁当”と呼んでいたのは、威流の名誉の為、秘密にしておこう。
それと比べれば熱々の青汁の亜種など”もはや水”と言っても過言では無い。
ましてや、それを可愛い若奥様が淹れてくれたとなれば、
「それを断る軟弱な男に生まれた覚えは無い」と昭和世代並みの気合を見せる。
流し込まれた青汁の亜種は、見た目の通りの苦み走った大人の味だった。
だが、飲めない程の酷い味では無く、ハーブの清涼感や茶葉の深みも感じる、
思っていたよりもちゃんとした飲み物であった。
リリーと一緒にゆっくりと味わって飲んでいると、
リリーがこちらを見て聞いて来る。
「うまい?」
俺は直ぐに笑顔で答える。
「うまい」
リリーは嬉しそうに母親に何かを伝えていると、
母親は振り向いて小さく笑った。
その時、ふと威流と目が合う。
直ぐに視線を逸らし料理に戻ったが、
その耳が赤みを帯びていた事に威流は全く気付かなかった。
だが、仕事ばっかりで恋愛から遠ざかっていた男には、
この仕草の一つ一つがあまりにも可愛過ぎた。
「これが異世界でなければっ!!」と信じてもいない神を呪う威流であったが、
「異世界で無ければ何なのだ?この腰抜けっ!!」と、きっと神様もそんな話は知った事では無い。
漂い始める良い匂いに食欲を刺激され、
否が応でもこれから出てくる料理に期待が高まる。
「誰かに料理を作って貰うの、なんか良いよなぁ~」
働いていた時は外食ばかりで、誰かに何か作って貰うなんて事は無かったな。
彼女作るどころか、デートする時間さえ碌に確保が出来なかったし・・・
威流がぼーっと考え事をしている内に、出来上がった料理が運ばれてくる。




