58話 考えても分からない事はある。だが、考える事を放棄するな・・・
集落での戦いは終わり、真っ暗な海岸を威流は歩いて行く。
球体の光源は既に効力を失い消え去っており、
村で拾った火の着いた木材の小さな光をだけを頼りに歩く。
威流はリリーと母親が抱き合う姿を見てから、
胸の中に靄が掛かったまま、思考は堂々巡りを繰り返す。
本当にこれで良かったのかと・・・
リリーの父親が死んだのも、その死体をあんな化け物に変えたのも、
あの変な恰好をした男が関わっているんだと思う。
当然、そんな確証は無いけど、あのタイミングで出てきて、
AEDが何かあの男に向かって怒鳴っていたのは、
そういった話を聞いたからじゃないのかなって・・・
リリーに死んだ父親を見せるなんて鬼畜の所業を到底許せる訳もないが、
だからといって、その父親に止めを刺すのを見せるのもまた鬼畜の所業。
俺のやった事は、あの気持ち悪い男と同等なのか・・・
怒りに任せて何をやっているんだ俺は。
リリーだけじゃくて、リリーの母親にも謝りたい。
言葉が通じないという事がこんなにも擬しいなんて、異世界に来て初めてだよ。
どの面下げてリリーに会いに行けるのか・・・
せめて、遠くから二人の様子だけでも見て来よう・・・
ここの言葉を覚えたら、その時は二人に謝りに行けるかな。
肉体的にも精神的にも限界だった威流は、
暗い海岸をトボトボと歩いて行き、池の広場に戻った。
直ぐに寝床に横たわり目を瞑るが、
威流は眠れる気がしない。
起き上がった威流は池の縁まで行き、
足を水の中に入れ、ボーッとした表情をしていると、
しらがみ様が威流の足元まで近づいて来る。
そして、そのままその場に留まった。
”寄り添ってくれている”と威流は微塵も思わなかったが、
それでも”一人では無い”と思えて、本当にささやかな救いにはなった。
威流が目を開けると、外は随分と明るくなっている事に気付く。
池に足を突っ込んだまま、威流はいつの間にか眠ってしまっていた。
顔を洗ってから、ポケットに入れっぱなしのこげちゃんを地面に放す。
ポケットに溜まっていた糞を捨ててから、
着ていたシャツを洗い、そこいらの木に引っ掻けて干しておいた。
食欲は湧かずに、海岸に寝そべって時間を潰した。
乾いたシャツを着てから、こげちゃんを掴んでポケットに押し込み、
いつも通りに目印から歩いて集落へ向かう。
相変わらず海には巨大な背ビレが飛び出ているが、
見慣れた光景に驚く事は無くなった。
集落近くの海岸に着くと見た事のある光景が待ち構えていたが、
そっちには大分驚かされる事になる。
以前、戦いになった時と同じく、
山賊僧侶が海岸で腕を組んで待ち構えている。
流石に「えっ!?なに、なに?」と威流が狼狽えていると、
十年来の旧友に久し振りに会ったかの様に、素敵な笑顔で手を振っている。
行こうかどうか威流が迷っていると、
戦いの時以上の速さで山賊僧侶が手を振りながら突っ込んでくる。
「逃げようかな?」と威流に警戒心を抱かせたのは、
不安と焦りを隠しきれない、山賊僧侶のその笑顔だった。
じりじりと後ずさりをしてしまう威流だが、
山賊僧侶は威流の前まで来ると何か早口で説明を始め、
話が終わるやいなや首根っこを掴まれ、そのまま連行される形となった。
教会の前に辿り着くと、AEDが待ち構えている。
威流はすぐに察した「これは罠だ」と・・・
山賊僧侶に襟を掴まれたまま威流は逃げ出そうとするが、
山賊の握力を持つ男の拘束から逃れる事が出来ずにもたついていると、
回り込んだAEDに逃走経路まで塞がれてしまう。
前門の”悪魔”と後門の”山賊”、虎や狼など生温い布陣の完成である。
観念して、大人しく悪魔の裁きを待っていると、
AEDは両手を合わせ普通に一礼をしてくる。
威流も両手を合わせて礼をするまでは良かったが、
つい、また普通のピースをしてしまった。
「あのっ、そのっ、すすすすす、すいません」
威流は急いで謝ると、AEDがおもむろに突き出した二本の指を掴む。
心の中で「指を圧し折るつもりだぁぁぁーーー」と思っていたが、
AEDは首を横に振り、指を放してからギャルピースをする。
威流は普通のピースをギャルピースに変え、
「許されたっ!!」と表情には出さず、心の中で叫んだ。
山賊僧侶にも同じ一連の流れを行うと、また勝手に何かを話し始めている。
AEDも話に加わってくるが、いつも通り愛想笑いしか出来ない。
AEDと山賊僧侶の意図が全く分からないまま、
威流が一番恐れていた教会内部へのお誘い。
AEDが先頭を歩き、威流、山賊僧侶と続く。
この男を逃がすまいという意思をこの二人からヒシヒシと感じる威流であった。




