57話 間違っていた事を認めるのは、恥ずかしい事じゃない・・・
デイジーはポツリポツリと語り始める。
「私は間違っていたのでしょうか・・・
夫が死んだ事をリリーに伝えなかった」
マティオンは何も答えずに黙って聞いていた。
「さっきリリーに聞いたんです。
なんであそこに行ったのかって・・・」
「そうしたら、
”お父さんがリリーの事を呼んでた”って言ったんです」
「何を言ってるか分からなかったんです。
けど、あの子は父親が帰って来るってまだ信じていて」
デイジーの瞳から大粒の涙が零れた。
「リリーに本当の事を伝えるのが怖いんです」
顔を手で覆いながらデイジーは涙を流す、
その肩にそっと手を乗せマティオンは語る。
「よいのだ、よいのだ、デイジー。
その怖さは娘を想う母親のものだ」
「いずれリリーにも分かる時が来る。
その時までゆっくり待てばいい」
優しく諭すマティオンは過去の自分の言動を思い出し、
デイジーの苦悩も分からぬ己の浅はかさ加減に嫌気が差す。
後悔の念を抱きながらも話すマティオンの言葉には力が宿っていた。
デイジーには娘を想う母親ならではの苦悩があり、
それを他人が勝手に判断すべきでは無いとの心からの内省。
だからこそ、マティオンの偽らざる気持ちから出た言葉が、
たとえ拙いものだとしても、デイジーの心に救いをもたらしたのかもしれない。
マティオンは泣き続けるデイジーをずっと見守った。
暫く泣き続けたていたデイジーも、ようやく落ち着きを取り戻した。
「あの、マティオン様。お聞き下さり、本当にありがとうございました」
立ち上がり深々とお辞儀をするデイジーに、
マティオンも深い礼をもって感謝の意を示す。
「デイジー。君の想いを聞かせてくれた事に感謝する」
いつも暑苦しいマティオンの笑顔と白い歯が、
今日はなんとも清々しく見えるデイジーであった。
急にデイジーがもじもじしながら顔を赤らめているので、
「どうしたのか?」とマティオンが尋ねる、すると。
「あっ、あのっ、その・・・
リリーを助けてくれた方はどちらにいらっしゃるのでしょうか?」
謎の男の所在を尋ねられ、あいつは多分海岸にでも居るのだろうと思ったが、
アーク司教に「一人にしてやれ」と言われていたので、なんとも言葉に詰まる。
「あっ、あの、お礼をっ、お礼を言いたくて、その・・・」
「そうですね・・・あの男も疲れていると思うので、
明日になったら話せると思いますよ」
デイジーとアーク司教の板挟みになり、
つい適当な事を口走ってしまう修行不足のマティオン。
「そっ、そうしたら、明日リリーを連れて教会に行きますね」
「そっ、それが良いでしょう。そそそ、それではここらで」
マティオンは足早にその場を後にするが、心中穏やかでは無かった。
もし明日あの男がこの村に来なかったら、適当な事を言ったとして、
アーク司教に大目玉をくらう事が想像でき、冷や汗が止まらない。
村を巡回して回り、教会に戻ったマティオンは覚悟を決め、
事の経緯をアーク司教に話したが、想像の通りの結果となった。
ビーフィーとポーキーは笑いが止まらず、ティキンはただ呆れていたが、
アーク司教に「あの男を探して来い」と言われ、傍観者気取りの他の者も、
マティオンと共に村中を探す羽目となる。
海岸や村中を探してもあの男の姿は無く、
夜が明けたら、また探しに行かなければならなくなった。
マティオンをしかりつけたアーク司教だったが、
この戦いでマティオンの精神的な成長が垣間見え、
内心では喜んではいたが、それは胸の内に仕舞っておいた。
そんなこんなで、夜は明けっていった。
疲れ果てていた僧侶達は、自室に戻る気力など全く無く、
教会の椅子に腰を掛けたまま眠りについた。
その様子を見ながらアーク司教はほくそ笑む。
「あの男、私の見込み通りだったな。
いいぞ、いいぞ。これからだ、これからが楽しみだ」
アーク司教は教会の外に出る。
そして、両手を広げ天に向かって叫ぶ。
「神よ!!あの男を私の元へお導き下さり、感謝致します」
「ふふふっ、はははっ、はぁっはっはっはっーーーー」
アーク司教の笑い声は、明け方の静かな村に響いていった。




