56話 良かれと思ってやった事が、相手にとって良いかは分からない・・・
謎の男が呼んだ奇跡の生物が戦いを終わらせ、僧侶達は窮地を脱した。
だが、この襲撃を起こした主犯が語っていた、
神の御使い” アリアンデル ”
そして” 七つの大功 ”の” 勤勉 のローム”。
その存在に不安が過る。
またいつか対峙する事になる、そう感じたアーク司教なのであった。
戦いが終わり、皆に安堵の表情が浮かぶ。
ビーフィーの豪快な笑い声が響く中、
謎の男は遠巻きにリリーとデイジーを見つめていた。
この戦いの立役者である謎の男は、
何も言わずに海岸へ向かった。
それを見たマティオンが謎の男に声を掛けようと追いかけるが、
ティキンはその肩を掴みマティオンを静止する。
「おいおい、ティキン。あいつに声を掛けなくていいのかよ」
「お前は本当に・・・。少しは察してやれ」
「はっ?何をだよ」
マティオンは不思議そうな顔をしてティキンに問い掛けるが、
マティオンのあまりの察しの悪さにティキンは呆れていた。
そんなやり取りを見ていたアーク司教は、
マティオンに近寄り、その問いをティキンの代わりに答える。
「マティオンよ。あの巨大な化け物にノーランの姿があったな」
「はい・・・」
「化け物に止めを刺したのは私になったが、
最初にあれを殺そうとしていたのは、あの男なのだよ。」
「そうですよ。リリーを助け、化け物と戦う姿勢も見せる。
正直、あの男の生き様に痺れましたね」
「そういう単純な話では無い」
「と言いますと?」
流石のアーク司教でも溜め息を吐く。
「いいか、マティオン。あの男は覚悟を決めたのだ。
リリーに嫌われようとも、ノーランを解放する為に」
「しっ、しかし、それは正しい事ではないですか。
リリーもデイジーも喜んでいると思いますよ」
「デイジーは分かっているかもしれんが、
リリーには”父親が死んでいる”と伝えていないのだぞ」
マティオンは言葉に詰まり俯く。
「私もあの男がどうやってノーランの事を知ったかは分からん。
だが、リリーの前でノーランを死に追いやったという事実が、
リリーにどう思われるかなど想像に難くない」
マティオンは悔しさのあまり唇を噛んだ。
自分はあの男の覚悟も気持ちも何も分かっておらず、
戦いの立役者をただ労いたいと思っていただけだった事を。
そんなマティオンの気持ちを酌んでか、
マティオンの背中をバンッと叩きティキンが声を掛ける。
「いいんだよ。俺だってあいつに礼の一つでも言いたいさ」
「ティキン・・・」
ティキンの顔を見るマティオンの目は潤んでいた。
「そうだな。だが、今は一人にしてやろう。
そして祈るのだ、あの男の心に救いがもたらされる様にと・・・」
アーク司教は静かに話し、空を見上げた。
戦いの音が止み、村人達は恐る恐る家から顔を覗かせる。
様子を見に行っていた男が村中に告げる、戦いは終わったのだと。
緊張の糸が切れ、その場にへたり込む者も居れば、
家族で抱き合いながら泣く者も居た。
村中に響き渡る歓喜の声と僧侶達への称賛は止む事無く、
まるで祭りでも催しているのかと思わせる程の騒ぎとなった。
一頻り騒いだ村人は各々家に戻り、
久し振りに不安の無い夜を過ごす。
暗い夜道、松明を持ったマティオンはゆっくりと歩いて行く。
疲れ切った身体に鞭を打ち、村を巡回していた。
この巡回はマティオンが自らアーク司教に申し出たのだ。
それならばと他の者も巡回を申し出たが、自分に任せて欲しいと伝え、
「何かあった時には呼ぶから、休んでくれ」と皆を説得した。
マティオンは一人思い悩む。
あの男を邪教徒と思い込み、一人で突っ走ってしまった事。
戦っていた理由が”ノーランの死に対する贖罪”であった事。
自分の身勝手さをティキンに救われていた事。
数え上げればきりが無い。
それが僧侶として正しい行いかと自問するも、
自身の価値観がそれを”違う”と、分かり切った答えを突きつける。
恥ずかしさや情けなさに身悶えしながら、
頭の中からそれを振り払う様に顔を左右に振った。
”村の中を巡回する不審者”になりつつあるマティオンは、
リリーの家の前を通ると、家の前にある木製の椅子にデイジーが座っていた。
泣きはらした跡が残る顔のデイジーに気まずさを覚えながらも、
マティオンは近付き声を掛ける。
「眠れないのか、デイジー」
「マティオン様・・・。はい、少し考え事をしていまして・・・」
「そうか・・・もし良ければ話を聞かせてくれないか」
そう囁きかける様に話すマティオンの顔は、
戦いに明け暮れる男ではなく、僧侶として慈愛に満ち溢れていた。




