銀色の真実
ライはシルバーの置かれた状況を話してくれた。
「そいつは平民街の孤児院出身でな。
『色彩の儀式』で、見たこともない『銀色』を出したんだよ。
神官たちは慌てふためいて、そいつをここに連れてきた。
こっちもびっくりだ。なにしろ何の魔法が使えるのかわからない。
お嬢ちゃんにしたようにゆるい魔法を浴びせたら、結界の能力だってわかった。
しかも魔法を防ぐだけじゃなく、反射するんだ。
こりゃあ魔物退治に使えるってんで、さっそく騎士団が連れて行った。と思ったらすぐに送り返されてきた。
反射結界の有効範囲が、半径5トール程度しかなかったんだ」
「5トールだと……!?
それでは魔物の突進はおろか、魔獣のブレス一つ防げないじゃないか。
なぜそんな不完全な状態で実戦に?」
元・第一線の騎士であるアルが、鋭く怒りの声を上げる。
(5トールってことは前世でいうところの5メートルだね。
確かに魔物相手じゃ、ほんの目と鼻の先ってところなんだろう……)
「ああ。だから、有効範囲を50トールに広げさせろって、騎士団長がねじ込んできた」
「団長が?」
「アンタも知ってるだろう? あの威圧感しかないおっかない団長様だ。
ヴァーゴ所長ごときが断れるはずがねぇ」
「そんなことができるのか?」
「ああ、できる。
……魔力を注入して魔力回路を拡大してやりゃあいい」
「だが、彼はたった一人の『銀色』だろう!?」
アルが驚いたように言った。
「そうだ。普通は、魔石にだって魔力しか注入できない」
ライは大きくため息を吐いた。
「そのお嬢ちゃんの金色が異常なんだよ。どの色にも適性がある。
黄色の俺だって、さっきみたいに平気でお嬢ちゃんの魔力を受け取ってる。
だが、あのときお嬢ちゃんはいなかった……」
(――そうか。この金色は、ただの便利なお掃除魔法だけなんじゃなくて、色を超越した特別なものだったんだね)
知らなかったとはいえ、普通なら私の魔力を流し込んだだけで、アルやクロエが大変なことになっていたかもしれない。
だから、アルは私が魔力回路をお掃除しようと言い出した時や、火魔法を分けてほしいと頼んだ時、あんなに悩んでいたんだ。
でも、私を信じてくれた……。
私はアルを見上げ、改めてその信頼に感謝した。
「……あらゆる色の魔法士が奴に魔力注入したよ」
ライは痛ましそうに顔を伏せた。
「俺もやったよ。魔力量測定の魔道具を改造してな。
奴を鋼鉄の椅子に縛り付けて、ヘルメット被せて、コードを通じて魔力を注入するんだ」
私は手で口を覆った。
「なんてことを……」
「ああ、魔力が身体に入っていくときの奴の悲鳴は……耳を塞ぎたくなるほどで……」
ライは辛そうに顔を歪めた。
「有効範囲は50トールになったよ。
奴がいるだけで、ほとんどの魔物は撃退できるようになったらしい。
……でも半年後に、また戻ってきた」
「なぜだ」
「『反射』魔法を連発し過ぎて魔力がすぐに尽きたらしい。
有効範囲が再び狭くなってきたんだと」
「そんな……!」
アルが悲痛な声を上げた。
「ああ、それ以来、奴は定期的にここで魔力を注入されている。
もちろん、適合しない色の……な」
シルバーの、あの感情の一切が抜け落ちた鈍色の目を思い出した。
「ああ、ああ、何ということなんだい」
私の目に熱い涙が込み上げてきた。
「悪い。いくらせがまれたと言っても、お嬢ちゃんに聞かせていい話じゃなかったな」
ライが頭を下げた。
「ううん、聞かせてくれてありがとう」
私は涙を拭った。
私はこの世界のことをまだ何にもわかってなかった。
わかってないのに、全世界をお掃除してやる! なんて、何という思い上がった生ぬるい覚悟で、そんな大それた目標を立てちまったんだ。
人生二周目だというのに、頭まで七歳になっちまったのかよ。
表面の汚れをサッと拭き取るくらいじゃ、この真っ黒に汚れた世界はきれいにできない。
もっと本気で、この世界の根腐れした部分に立ち向かう覚悟を決めなきゃいけないんだ。
内心葛藤する私を気遣ったのか、アルはライに礼を言った。
「貴重な話を聞かせてもらって助かった。
あの強引な団長に逆らえる者はいない。
貴殿の辛い立場、お察しする」
アルが右手を上げ結界を解除しようとすると、ライはそれを止めた。
「待った。もう一つ」
アルは手を下げた。
「このところ、奴がここに運ばれてくる頻度が多くてな。
何度も色の違う魔力を送り込んでいるうちに、無理やりこじ開けた回路がすり減って、魔力がもたなくなってるんだ。
団長から、面倒だから、魔力注入の魔道具を持ち運べるように改造しろと……」
「それは、戦地で注入するということか!
すでに回路が限界に近いというのに……正気とは思えん」
アルが頭を振った。
――――――――――
私たちは暗澹たる気持ちでライの部屋を出た。
「魔道具が出来上がったら、また声をかけるよ」
見送るライも暗い顔をしていた。
彼もきっとつらい思いをしたのだろう……。
(なんてこったい……)
私たちはため息を吐きながら、重い足取りで帰途についたのだった。




