待遇改善大成功
作業員たちの体調不良が回復し、あわせて私の熱が下がるまで、丸三日かかった。
その間、ヴァーゴと魔法士たちは、ヘロヘロのヘトヘトになるまで魔力注入作業をさせられる羽目になったらしい。
指一本動かすのも億劫なほどの魔力切れを起こした魔法士たちは、一斉にヴァーゴを非難したんだそうだ。
「そもそも、なんでこんな集団食中毒みたいなことになったんだ!」
「作業員たちにまともな食事も与えず、劣悪な環境で働かせていたからだろう!」
「魔力の回復には、適切な休養と栄養が不可欠なことくらい、魔法学校で習わなかったのか!」
エリート魔法士たちから散々な突き上げを喰らったヴァーゴは、渋々ながら『交代制』の導入を決めた。
作業員たちからそれを知らされた私は(しめしめ、大成功!)と心の中で快哉を上げたのだった。
――――――――――
だけど、これで終わりなんかじゃない。
「――で、所長さん。私の待遇はどうなるんだい?」
私はアルを従え、扉を蹴り開ける勢いで所長室に乗り込み、ヴァーゴに直談判を仕掛けた。
「ふざけるな、クソガキ! お前のような測定不能のできそこないに払う給料なんか、1クローネだってあるもんか!」
ヴァーゴは三日間の激務が堪えたのか、げっそりと痩せ細り、目の下には真っ黒なクマを作りながらも、狂ったように速攻で拒否してきた。
(ふん。労働の尊さを実感しただろうに、つれないもんだ)
私は天井を見上げてちょっと考えた。
「お金じゃなきゃ払うってことかい?」
「あぁん?」
「みんなには『休息』を与えたんだろ?
それなら、私に『週二回の休日』と、外にいるお父さんとお母さんに会いに行くための『外出許可』を出しとくれ」
鼻息荒く詰め寄ると、ヴァーゴは忌々し気にそっぽを向いた。
「……フン、いいだろう。お前の『週休二日』とやらは認めてやる。
だが、外出許可は俺の権限では出せん。お前はギルバート殿下の監視下にある身だからな。
……だが、殿下に『相談』することくらいはしてやってもいい」
あの横暴なヴァーゴが私に譲歩した!?
三日もの間、魔力をチャージし続けて、その横柄な性格も吸い取られたんだろうか……。
私はそんな魔力を吸わされた魔石に同情しつつ、ヴァーゴを持ち上げた。
「よっ! さすが所長! 頼りになるねぇ、なるべく早く頼むよ!」
――――――――――
こうして始まった交代制だったけれど、蓋を開けてみれば、しっかり休んで万全の体調で働くようになったおかげで、皮肉なことに以前よりもグンと作業効率が上がったんだという。
前代未聞の「集団食中毒」からの「待遇改善」「作業効率向上」となれば所内はこの噂で持ちきりらしく、魔法士たちが代わる代わる、地下の作業部屋を覗きに来るようになった。
魔力注入に駆り出された魔法士たちは「お前たちも大変なんだな」と今までの高圧的な姿勢はどこへやら、作業員たちへ同情的な視線を送るようになっていた。
「とんでもない、みなさまが所長に要求してくださったおかげです」
作業員たちも感謝の気持ちを伝える。
(うんうん、みんな仲良くが一番さね)
私は魔石に向き合いながら、うふふと笑った。
――――――――――
作業部屋に入り浸り始めた魔法士たちは、やがて一つの異変に気づいた。
私が魔力注入をしている側にいるだけで、なぜか彼らの慢性的な体調不良や魔力不足が、不思議と回復していくのだ。
「なんだか、この部屋にいると身体が軽くなるぞ……?」
「昨日使った魔力が、もう回復している……!?」
「これもあの娘の魔法なのか……」
部屋中に満ちた金色の魔法が、魔法士たちも含めてみんな「お掃除」しちゃっているんだろう。
(……もしかして、私は空気清浄機か?)
気づけば作業部屋は、疲れきった魔法士たちの「憩いのオアシス」と化していた。
彼らの目には、私が『こんなに貢献しているのに、1クローネももらえずただ働きさせられているかわいそうな少女』に見えてきたらしい。
「メイシーちゃん。これ、実家から送られてきた高級なキャンディだ。甘くてうまいぞ。こっそり、持っていけ」
「クッキー食べるか? 所長には内緒で食べなさい」
などと、あれやこれやとお菓子を差し入れてくれるファン(?)がどんどん増えていったんだよ。
中には「ホンの少しで悪いけどな」と、私の手にクローネ硬貨を乗せてくれる魔法士もいた。
王宮から出られない私には、今のところお金の使い道はないのだけど、まぁ、おやつには困らない生活になってありがたいことだ。
しかもキャンディは、砕いて砂糖の代わりに使える!
(煮物の照りには砂糖が欠かせないからねぇ)
さっそくお芋の煮っころがしでも作るか……と私はのんきに考えたのだった。




