すとらいき宣言
「私は明日、病気になりますから、ここには絶対に来ません!」
声高らかに「サボり」宣言を放つと、隣にいたアルはもちろん、部屋中の作業台にいた作業員の男たちが一斉に手を止め、目を丸くして私に注目した。
(あはは! 見事なまでに、みんな鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしてるねぇ)
私は、ヴァーゴがこの作業部屋にいないことを横目でしっかりとチェックした。
「いい? みんな! みんなが毎日ここでやってることはねぇ、この世界の役に立つ、もの凄く重要な仕事なんだよ!」
全員を見渡すようにして、声を張り上げる。
「だって、みんなの魔力注入がなければ、魔道具は一つも動かないでしょ?
夜は真っ暗なままだし、トイレの水だって流せやしない。
みんなの仕事が、この世の中を回してるんだ!
だから、自分の仕事にしっかり誇りを持たなくちゃダメだよ!」
そう、前世でも清掃の仕事を下に見るような人が大勢いた。
でもね、もし誰も清掃をしなかったら、どこもかしこもあっという間に汚れて、みんな病気になっちまう。
みんなの健康を守っているという誇りをもって、私は清掃の仕事を続けてこられたんだ。
「ねぇ、みんな。
みんなは偉い奴らに使い捨てられるゴミなんかじゃない。人間なんだよ。
……あの頑丈な魔石だってねぇ、休みなく酷使されたらボロボロに壊れちゃうの。
ましてや生身の人間ならなおさらでしょ?
ゆっくり休んで、おいしいものをたくさん食べて、英気を養わなきゃ。
そうして元気になってから、また仕事に励めばいいじゃない!」
私の言葉が、ジメジメと暗い作業部屋の隅々まで、染み渡るように響いていく。
作業員たちは持っていた魔石を握りしめたまま、信じられないものを見るような目で、小さな私をじっと見つめていた。
その濁っていた瞳の奥に、ほんの少しだけ、熱い光が灯ったのがわかった。
「お、俺……俺も明日、なんだか急に具合が悪くなる……予感がしてきた!」
一人の作業員がハッとしたように声を上げると、堰を切ったように周りの男たちも口々に叫び始めた。
「そうだ、俺も明日は朝からひどくお腹を壊す気がする!」
「俺もだ!」
「俺も、どうしても起き上がれない気がしてきた!」
「メ、メイシー殿ぉ……っ!?」
まさかの集団サボタージュの予兆に、アルだけは私と作業員たちを交互に見やりながら、大きな身体をオロオロと揺らして完全にパニックになっている。
そんな真面目な騎士さんをよそに、私は右手を高く掲げて、元気に大宣言してやった。
「よし! 明日はみんなで『すとらいき』だ!」
◇◇◇
翌朝、ヴァーゴは文字通りひっくり返らんばかりに仰天した。
今日のノルマを伝えるために地下の作業部屋の扉を開けたところ、そこには一人の作業員もいなかったからだ。
「どうしたことだ、これはぁぁぁッ!」
怒髪天を突くとはまさにこのこと。
頭から本物の湯気が出そうな勢いで怒り狂ったヴァーゴは、作業員たちが押し込められている、薄暗い宿舎へと怒鳴り込んだ。
「お前たち、一体全体何をしているんだ! もたもたせずに、さっさと作業部屋に行かんか!!」
しかし、ガバッと扉を開け放ったヴァーゴを待っていたのは、信じられない光景だった。
「……しょ、所長。申し訳ありません、今朝から酷くお腹を下しておりまして……どうにも動けないのです……ううっ」
昨日、メイシーの隣の席にいた男が、げっそりとした顔で弱々しく声を絞り出した。
実はこれ、昨日メイシーが男たちにいつもより強めに施しておいた『お掃除』――名付けて『体内毒素一掃セール魔法』の反動だった。
長年溜まり続けた疲労や不調が洗い流される反動で、一時的に身体が悲鳴を上げているのだ。
もっとも、それが生真面目な彼らにとっては堂々と休める絶好の口実にもなった。というわけ。
(や……嘘を言わなくて済むのは助かるけど、これはキツイ……)
男は苦悶の表情を浮かべ、怯むヴァーゴを押しのけ、お尻をすぼめながらトイレに駆け込んだ。
他の男たちも寝台から口々に不調を訴え始める。
「頭が割れそうに痛くて目が開きません……」
「足に全く力が入らなくて、立つこともままならず……」
「俺もです……」
「俺も……」
「ええい、もういい、役立たずどもめっ!!」
部屋中に充満する本物の病人たちの放つどんよりした空気に耐え切れず、ヴァーゴは部屋の扉をバタンと閉めた。
「おい! あの測定不能のクソガキはどうした! 今日はこいつらの分まで魔力を注がせてやるからな!」
ヴァーゴの怒号に、後ろに控えていた部下の魔法士が、ぶるぶると震えながら恐る恐る口を開いた。
「あ、あの……所長。大変申し上げにくいのですが……あの娘も、今日はまだ研究所に来ておりません……」
「なんだとぉぉぉッ!? ふざけんな、あのクソガキめが! おい、お前たち、さっさとあの森のボロ小屋へ行って、引きずってでもここに連れてこいッ!!」
ヴァーゴの怒声が研究所に響き渡った……




