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泣きまね大成功

神殿中が、ひっくり返したような大騒ぎになった。



「こ、こんな色は見たことがない……!」


「黄色? 金色? どっちだ……?」


「……『水晶』は壊れてないか?!」



神官たちは、後に並んだ子どもたちの儀式もそっちのけで右往左往し始めた。


誰も彼もが、私を魔物でも見るかのような目で睨みつけ、ヒソヒソと小さな声で囁き合っている。



(なんだい、人のことをジロジロと。私はパンダじゃないよ……)



後ろで見守っていたお母さんが、真っ青な顔をして駆け寄ってきた。


「メイシー……!」


そして、私を隠すように強く抱きかかえると、弾かれたように神殿を飛び出した。



「お母さん、私歩けるよ」


話しかけても、返事もせずお母さんは走り続けた。



やがて家に辿り着くと、バタンと扉を閉め、ようやく私を床に下ろしてくれた。


「お母さん……ごめんなさい」


「何言ってるの。大丈夫よ。びっくりしたわよね」


荒い息を吐きながら、いつものように優しく微笑んでくれる。



(そりゃ、自分の娘が普通じゃない色を出したなんて、親としてはショックだよねぇ)



私がお母さんの心中を想像して、大いに同情していたその時、


「聞いたわよ! メイシーの色、何だかわからなかったんですって!?」


バン、と勢いよく扉を開けて、隣のネルおばさんがズカズカと家に入り込んできた。


大家であるのをいいことに、いつも勝手に入ってくるのだ。



「ああ、ネルさん。ずいぶんとお耳が早いですね」


お母さんは、額の汗を拭きながら、愛想笑いを浮かべた。


「まさか、灰色の色無しだったってこと? お気の毒に。

ここ数年そんな話はとんと聞かなかったけど、ダンナもアンタも魔力量が少ないからかしらねぇ」



お母さんの手が止まる。


身体がキュッと固くなるのがわかった。


ネルおばさんは、まったく気づくことなくペラペラと喋り続ける。



(やれやれ、こういう噂好きの図々しい人は、いつの時代、どこの世界にもいるもんなんだねぇ……)



「メイシーは色無しではありませんでしたよ?」


お母さんが静かに反論すると、ネルおばさんはさらに意地悪そうに畳み掛けてきた。


「へえぇ、じゃあ何色? 普通の色じゃないと、王宮の例の場所に連れていかれちゃうっていうじゃない。おーコワ!」


ネルおばさんの言葉に、お母さんが不安げに身をすくめる。



(おやおや、この人は……そんな不吉な噂話で、私のお母さんを脅かさないでおくれよ)



私はこのおばさんに早くお引き取り願うにはどうしたらよいか考えた。


そして、いまの私だからこそできる方法を思いついた。


思い切り息を吸い込む。



「うわぁぁぁん!!」



あたかも七歳児が癇癪《かんしゃく》を起こしたかのように、大きな声で泣き出したのだ。



「メイシー、ちゃんと色出たもん!


ピカーって光ったもん!


色無しじゃないもん、灰色じゃないもん!


えーんえーん!」



両手で顔を覆ってその場にしゃがみ込む。


すぐにお母さんが駆け寄ってきて、私をギュッと抱きしめてくれる。


それでも私は全身の力を振り絞り、最大限の音量で泣き続けた。



ネルおばさんはうるさそうに耳をふさぎ、バツの悪そうな表情を浮かべた。


「……ったく、泣く子にはかなわないねぇ。

はいはい、おばさんは退散しますよ」


そう言い残すと、そそくさと出ていった。




「よし、大成功!」


指の隙間から扉が閉まるのを確認すると、私はすぐに泣き止んで、ニッコリとお母さんを見上げた。



「まぁ、メイシー……ひょっとして、嘘泣き?」


お母さんも察して、ふっと表情を和らげる。


「だって、お母さん、今日の分のお水を作らないといけないでしょう?

ネルおばさんがあのままいたんじゃ、お仕事の邪魔だもん」



『青』の使い手であるお母さんは、毎日魔法でお水を作り、それをお店に売っている。


魔力量の少ないお母さんが大きな水瓶をいっぱいにするには数日かかるし、飲料用のお水は貴重だ。


にもかかわらず、もらえるのはごくわずかな食べ物。


それでも、我が家にとっては大事な生命線なのだ。



「ふふ。そうね。じゃあ、お水を作るから、メイシーはおやつでも食べていてね」


お母さんはテーブルに小さな干し芋をひとつ置いてくれると、部屋の隅にある大きな水瓶に向き合った。


水瓶に両手を当てて、静かな声で呪文を唱え始める。


やがて薄い青色の魔法陣が水瓶の上に現れ、曼荼羅のような美しい模様が浮かび上がってきた。


青色が徐々に濃く、ハッキリしてくると、水瓶の底に少しずつ水が溜まっていくのだ。



私は干し芋を少しずつ齧りながら、お母さんの背中を見つめていた。


(あんなに顔を真っ白にして、全神経を集中させて……。

一生懸命なのは素晴らしいことだけれど、魔力を使い果たして倒れでもしたら大変さね)



メイシーとして生まれてきて七年。


このお母さんは、前世の私にも真似できないほどの、深い愛情と優しさを持って、一生懸命育ててくれた。



平凡でいい……ただ穏やかに生きていってくれれば。


親として、ごくごく当たり前の願い。

それを私は意図せず壊してしまったのだ。


普通ではない『金色』という光で。


しかも、『前世の記憶』まで持っていると知ったら、どんなに驚くだろうか。



(お詫びじゃないけど、何か私にできることはないかねぇ……)


私は何気なく部屋の中を見回した。



ふと、部屋の隅に転がっている黒ずんだ古ぞうきんが目についた……。

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