↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
17/52

二色の英雄

目を覚ました私が一階に降りると、すでにクロエの姿はなかった。



「クロエさん、また王城に何かもらいにいってくれたのかねぇ」


「多分そうでしょう」


夕べ、食事のときは鎧を脱ぐよう強く言っておいたせいか、今朝のアルはすっかりくつろいでいる。


焼き鳥サンドイッチ――昨日焼いた焼き鳥の残りを豪快に挟んだパンを、実においしそうにパクパクと頬張っている。



見れば、端正な顔立ちが台無しになるほど、口の周りにタレがいっぱい付いていた。


「アルさん、お口の周りがタレだらけだよ」


私は苦笑いしながら、濡らしたタオルでその口元を優しく拭いてやった。


(まったく、どっちがお守り役なんだかわからないねぇ)



「クロエさんも、朝ごはんくらい食べてから行けばいいのに。

朝ごはんは一日の活力の元だから、しっかり食べないとねぇ」


そんな呑気な会話を交わしながら、アルのコップに水を注いでやろうとした、その時だった。



「な、何なんだここは……っ!?」


外から、男の驚愕する声が響き渡った。



「おや、誰か来たみたいだね」


「マズイ! 鎧を着用せねば!!」


アルは慌てて焼き鳥サンドイッチを口に突っ込み、もぐもぐしながら自分の部屋へと猛ダッシュで駆け込んでいく。



バタバタと凄まじい音が聞こえてきた――



(鎧って、そんなに騒々しく着るものなのかね……)


私が首を傾げていると、あっという間にいつもの謹厳実直な、隙のない騎士然となったアルが外へ出た。



「何か用か」


アルが低い声で応対した相手は、城門にいた騎士だった。



「やあ、アルカイド殿。魔法研究所から伝言を預かってきた。

……にしても、何なんだいここは。妙に明るく、爽やかじゃないか」


城門の騎士は、眩しそうに天を見上げた。


「前にここへ来た時は、暗くてジメジメしていたはずなんだが……まさか、あの『二色の英雄』が、こんな場所で木こり仕事に勤しんでいるとはな」



――『二色の英雄』



その言葉が吐き出された瞬間、アルの両の拳がギュッと強く握りしめられたのが、窓から覗いている私にも見て取れた。


(もしかして、昨日アルが言っていた言葉に関係しているのかい……?)


この国じゃあ、二つの魔法が使えるのは『英雄』じゃなくて、不吉な『厄介者』扱いなのか……。



「雑談はいい。用件を聞こう」


声をワントーン落として遮るアルに、城門の騎士はつまらなそうに肩をすくめた。


「ああ、ここのクソガキを研究所に連れて来いってさ」


「何のために」


「さあね、俺が伝えろと言われたのはそれだけさ。じゃあな」


城門の騎士は薄笑いを浮かべたままあっさりと踵を返し、森の向こうへと去っていった。



「アルさん、大丈夫?」


私は家を飛び出し、固く握りしめられたままの大きな手にそっと触れた。


私の小さな手の温もりで緊張が解けたのか、アルは、どこか諦めたような寂しそうな笑顔を見せた。


「……ご心配をおかけして、申し訳ございません。

私は騎士の間では、あのように揶揄される存在なのです。

……相容れぬ二つの属性を宿して生まれた、忌むべき『呪われた騎士』ですから」


「……」



さすがにここは、前世で培ってきたお節介ばあさんの勘を働かせても、踏み込んで聞いた方がいいのか、それとも引いた方がいいのかわからなかった。


ただ、彼の背負っているものの重さだけが、握りしめた拳を通じて伝わってくるようだった。



「お耳汚しを失礼しました。

……ですが、呼ばれたからには行くしかないでしょう。

クロエ殿には伝言を残していきます」


アルは懐から、小さな四角い箱のようなものを取り出した。


「これはわずかな時間ですが、こちらが話した声を記憶し、後からでも聞くことができるという魔道具です」


不思議な顔をしている私に気づき、優しく教えてくれる。


(前世でいうところの『ボイスレコーダー』みたいなものか。便利だこと)



ボロ小屋の中に戻ると、アルは手慣れた様子でその魔道具に向かい、「メイシー殿に同行して研究所に行ってくる」と短く録音し、テーブルの上にポンと置いた。


携帯食に小型ナイフ、果てはそんな便利な魔道具まで出てくるなんて。


「アルさんの懐は、四次元ポケットかい?」


「は……? よん、よじげん……?」


真面目な顔をして、本気で不思議そうに首を傾げるアル。


その姿が、あの青くて丸い猫型ロボットに重なって見えてくる。


おかしさが込み上げてきた私は、抑えきれずに「ククッ」と声を立てて笑ってしまった。


「な、なにかおかしいことを言いましたでしょうか……?」


「ううん、何でもないさね。よし、それじゃあ魔法研究所に向かって、レッツラゴー!」



笑いで引きつるお腹を押さえながら、私は元気に号令をかけたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。