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新しい大切なもの1

ランガが後見人となって俺達が保護された後、直ぐに騎士団と共に剣王国に戻った。王宮への報告は後日となり、ランガの屋敷にお世話になるため、俺とキアラは連れていかれる。


 『兄上、その二人は?』


 切れ長な奥二重が特徴的なランガにどことなく似た女性が庭の方から歩いてくる。鍛錬中だったのか、汗を拭いながら、軽装をものともせずに歩み寄ってくる。


 『カミラ、手紙は先に届いただろう?亡くなった知人の家族だ。』


『嗚呼。そうでした。』


 ランガの大人しそうな二重とは反対にその視線には棘がある様にみえる。


『兄上、二人がどんなものか試したい。いいでしょうか?』


 俺は身体がびくりと震えるのを抑えられず、俯く。それを見たランガが勘違いして、眉間に皺を寄せて、カミラを見た。


『カミラいい加減にしてくれ、ヘクティスとキアラは家族と場所を失ったばかりだ。その態度をやめろ。』


ランガは珍しく少しだけ声を荒げていた。


『私は構わないけど。』


 大人しくしていたキアラは好戦的ににやついた。


『ほう。』


 その度胸をみてとったのか、ランガの怒りは無視してカミラはキアラの前に立った。


『大したものだ。その年でそれだけの剣気と魔力。』


 キアラの威嚇を意に介した様子もなく、仁王立ちしたまま、奥二重の目を少しだけ細めた。


『相手にしなくていい。』


 キアラを庇う様にランガがすかさず間に割ってはいる。

 キアラはランガを避けてさらに前にでた。


『認めさせればいいんでしょ。ランガさんは黙って見てて。』


ランガは手を顔に当てて、大きく溜息を吐く。


『数度打ち合えばわかるはずだ。模擬剣をもって中庭へ行くぞ。充分だと判断したら止める。今日から身内になるヘクティスとキアラにこんな仕打ちをしたくなかった。カミラ、お前には失望したぞ。』


 ランガの優しい目元が呆れによって険しくなる。その鋭い冷たい瞳はやはりカミラの纏う鋭い雰囲気に似ていた。

 カミラは一瞬だけ、瞳を潤ませると、腕の震えを抑える様にもう片方の腕を抱いてなにも言わずに中庭へ先行する。

 キアラは何を感じた様子もなく、堂々とついていった。


『すまないヘクティス、あいつは昔から融通が効かないところがある。おまけに甘えん坊で、自分の事を正しいと思い込んでしまっている。手がかかるんだ…。』


 珍しくランガの取り繕った様子のない愚痴にヘクティスは辛うじて苦笑いを浮かべる。

 

 ランガの愚痴よりも、キアラが何の嫌がりも無く、模擬剣とは言え剣を握ってることに驚きつつ、声を掛けようと口を開きかけた時、キアラの急かす様な声がかぶる。


 『ねぇ、初めていいの?』


臨戦態勢を崩さないキアラは凛々しい目に闘志を燃やしながら何度か模擬剣を素振りする。

 魔力操作も、体術系の技術もジュナイドから教わればその場で出来たキアラだが剣技だけは剣を握らなかったため、見稽古で終わっているはずだ。


 『兄上頼む。』


キアラの騒々しい雰囲気とは真逆でカミラは冷静な集中状態を保っているようだった。


 ランガは大きく溜息を吐くとカミラとキアラを確認して、お互いの準備が万端な事を確認して嫌そうに手を上げると溜息を一つ吐き、真面目な顔になる。ランガのやる気一つで周りの空気が緊張して高まるのを感じる。


『両者構え…始めっ!』


 声と共に手を振り下ろすと、まず先に動いたのはキアラだった。


 キアラはジュナイドから俺が習ったあらゆる体術、剣術、歩法技術、魔力操作を見稽古によって会得している。

 その中でも歩法技術は毎日の動きが楽になるからという不純な理由で、ジュナイドと変わらない程の技にまで仕上げている。

 先ずは音の無い歩法によって気配遮断による虚淵(うろ)(わたり)と教えられた技術。

重心移動による短距離加速、四前(しぜん)

インナーマッスルのみで初動を行うことにより予備動作を一切悟らせない体技、零動(れいどう)

 この3つの技を合わせることによって初動予測不可能の正面不意打ちが可能となる。

 キアラが先手を打ったのは対人必殺の初見殺しでの短期決戦の賭けにでるためだった。

 カミラとの経験と実力の差を瞬時に理解して、冷静にキアラは勝機を見出そうとしてい事に尊敬の念が湧き上がる気持ちだった。

 

 カミラは目の前に突然現れた様に見えただろうキアラの完璧な初見殺しに合わせてニ歩下がる。

 その洗練された二歩の後退は体格ですら差がある二人の間合いを絶望的な程に調整してしまう。

 たまらずキアラも距離をあける。


『来ないのか?』


『あんたもしかして、兎を狩る時も全力を出すタイプの人間?』


『当然だ。何故手を抜く必要がある?』


『はっ、こっちはまだ子供だっての!』


 キアラは言葉と共に再度、零動、虚淵渡、四前による、合技(ごうぎ)歩法術・(うねり) で瞬時に間合いを詰める。

 四前が頭を前に投げ出す様にして、重心を前に置いて始める歩法技術であり、偏った重心で移動する事ができる様になれば、その重心を剣や、腕、腰に移動して、自由に進行方向を変えられる様になる。

 カミラはまた即座に二歩下がるが、キアラは既に対抗策を考え終えていたらしい。

 その二歩をさらに追い抜いて身体を背中合わせになる程に踏み込んでいた。


 『おっそいのよ!!』


キアラは重心を剣に移動していた様で即座に後ろ手に剣を淀みなく振り抜く。その剣先に重心が乗り切り加速する前にカミラの剣が受け止める。当然お互いに魔力操作により、魔力を乗せている。

 キアラが想定より早い段階で剣を受け止められた事で腕が痺れたのか、一瞬の硬直を余儀無くされる。

 その隙を身のがさずにカミラが剣を叩き落とす動作に移ろうとする。


 『なっめんなっ!!!』


キアラは無理矢理に硬直の衝撃を間一髪(かんいっぱつ)受け流していた。

 受け流された衝撃は腕から腰、腰から足へと流れ、脱刀の動きに移行していてたカミラの脇腹にその全てが乗せられたカウンターの蹴りが入った様に見えたが、短い悲鳴と共にその足で距離を取ったのはキアラの方だった。


 『足首を折った、無理はやめておけ。』


 ランガが口を引き結んで、怒りを噛み殺している事が横から伝わってくる。

 ランガはカミラを睨みながら、この不毛な闘いを治めるために手を上げようとする。


『待って、私はまだ一矢も報いてない。やると言ったからには一発入れないと気が済まない!』


カミラと違い疲労の汗と整わない呼吸、片足を庇う様に立つ姿はとても戦える姿では無かったが、その目だけは未だ漲る闘志を絶えさせてはいなかった。


『兄上、私からも頼む。見てみたいキアラの本気を。』


『お前は黙っていろ!』


 カミラは問答無用でランガに叱られ、涙目になりながらも、その強者の態度を崩そうとはしなかった。


 ランガはキアラの状態を再確認するとゆっくりと口を開く。


『どんな結果になっても次で止める。再開しろ。』


ランガが言うが速いか、キアラは使えない片足の代わりに模擬剣を地面に引っ掛けて推進力を無理矢理生む、その狂気的なまでの責めの姿勢に、カミラが本の僅かに気圧されるのを見てとる。格上であるカミラに一撃入れるならこのタイミングしか無いというこの場面にキアラは畳み掛ける様に、見稽古で掠め取った技を掛け合わせる。


 其れは最早、ジュナイドの技を吸収した新しい戦闘体型への確立だった。

 キアラが何をするのか剣筋からヘクティスは見えてしまう。影抜きと教えられた剣技は、交差する剣を当たる瞬間に自分側に少し引き戻して相手の剣の横をすり抜けさせる、初見殺し。

 更に鎖縛によって交差の瞬間に魔力を消す事で、相手から見て無防備な状態を作り出す。その想定外が一瞬の反応を遅らせることに成功する。その遅れを見逃さずに全魔力を剣閃にのせ、カミラの剣を透過するかの様に振るわれる鋭い一撃となる。

 外から見ていても影抜きのキレは冴え渡り、キアラの一閃が胴体を斬りつけたかのように見えたが、カミラは左腕の小手でキアラの渾身の一撃を受け止めていた。


『見事だ。』


 全神経をその一撃に集中していたためか、湯気が上がるほどに熱を発するキアラの身体がカミラの胸の上に倒れ込む。


『気は済んだか…ハイポーションで身体を癒した後直ぐに用意した部屋に運ぶ、カミラそのままお前が連れて行け。』


『はい、兄上。』


カミラはランガの冷たい視線を浴びながら、丁重にキアラを抱き抱えると、涙目になりながら屋敷の中に消えていった。


『すまない…さぁ部屋へ案内しよう。』


ランガは本当に申し訳なさそうにヘクティスを部屋に案内した。



 

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