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挫折1

ランガは瓦礫の山になった商業都市の残骸を見て絶句する。ジュナイドからの早馬の伝言を預かり、剣王国の編成された騎士団の同僚や、宰相などの言葉を振り切って援軍に急いで駆けつけた。ランガの嫌な予感はよくあった、今回もその予感を信じ、独断先行の元商業都市にいち早くついたのだった。

 走らせていたランガ専用のバウから降り壊れた門を潜る。

 ランガの乗ってきたバウは全身白い毛で覆われていて、筋肉のつき方も貸し出しているものとは違った。その白のバウはランガの後をゆっくりと静かについてくる。

 建物という建物軒並み倒壊していて、中心から衝撃波が広がったのか、内側から門側へと瓦礫が密集していた。

 奇襲されたのか、誰一人の生命反応も感じなかった。

 一際戦闘後が酷い場所に向かって歩いて行く。

 急にバウが鼻を動かして走り出す。バウが動きを止めた先にはヘクティスとジュナイドが倒れており、その間に王の隠し子である、キアラが誰かの腕を抱えて寝ていた。

 ランガはジュナイドが死んでる事を見てとり、目を瞑り黙祷する。

 バウがその間もヘクティスの顔を舐めており、顔を顰めている。

 

『影がっ!!!!』


 バウがキアラの事を舐め始めていると、ヘクティスが奇声を上げて起き上がる。


『ヘクティス身体は大丈夫か?』


起きた瞬間に冷や汗と乱れた呼吸のままヘクティスは此処が夢なのか現実なのか確認するように何度かランガの事を見て周囲をみる。


『どうして此処にランガが?』


 ランガの存在で混乱を深めたのか、返答は疑問で返される。ヘクティスは身体中を弄った後、ジュナイドとキアラを見てキアラの持っている腕を見て動きを止める。


『嫌な予感がして独断でバウに乗って援軍に来た。』


『そうですか…。ジュナイド、ジュナイド?』


『死んでるぞ。』


『は?』


 ランガは死体を見るのに慣れているのか、戦友であるジュナイドの死に淡々と向かい合う。

ランガにしては珍しくぶっきらぼうな言いようだった。


『呼吸もしてない。血の気も失せてる。魔力の発露もない。』


『困りました…。』


 ヘクティスは泣くでも否定するでもなく、呼吸を整えると短く息を吸って、瞳孔を開きジュナイドの死に顔を見たまま言葉を溢した。 


 『辛い事があって直ぐで申し訳ないが、状況の説明を頼めるか?』


『…あっ、はい。ジュナイドが門の外に気配を感じて出ていったんです。その後に避難所を目指して移動していたら、突然爆発と光に包まれて周り中が瓦礫の山に、運良く俺と姉さんは無傷でマリーナの腕が落ちていたので、ジュナイドにハイポーションを相談する為に腕を抱えて探してたら、こんな状態でした。』


ヘクティスは瞳孔を開いたまま虚空を見つめ、淡々と言葉を紡いだ。

 まるで無機質な抑揚のない声にランガは自分の浅はかさを思い知った。

 ヘクティスの年齢とはかけ離れた大人な内面を王宮の離れの時に垣間見ていたため、その心の強さを見誤ってしまった。


 『すまないヘクティス。取り敢えず休んでくれ。僅かだが、水と食料を置いて行く…マリーナを探してこよう。騎士団が到着するまでゆっくりしてるといい。』


ランガはバウと一緒に歩き始める。ヘクティスは一度も反応を示す事なく、無言で俯いていた。


---------


キアラは寝たフリをしたまま、バウに顔を舐められながら考えていた。既にジュナイドの死もマリーナの死も受け入れる時間があった。泣きながら寝た為、幾分か頭の中はすっきりしている。心の重さを無視すれば、直ぐにでもヘクティスの姉として振る舞える筈だ。

 キアラはヘクティスの淡々とした事実確認のやり取りを聞いて余りの弱々しさに心が更に重くなった。赤ん坊の泣き声を聞く何十倍もの悲しみで締め付けられるのを感じた。

 いつも少しだけ大人な考え方が出来るヘクティスに擬似的な姉になる事で優越感を味わっていたが、年齢だけで、内面はヘクティスの方が上の事をキアラは知っている。考え方も窮地に陥った時も、日々の生活でも些細な事でその差を感じていた。ヘクティスはキアラのこの悲しみを支えてくれるものだと思っていた。だから、その無機質な声を聞いて姉として過ごした三年間の誇りの為に自分の中の悲しみを一度仕舞いこもうとキアラは意識して目を開ける。


『ヘクティスおはよう。』


まだぎこちなく、決心して起きたはいいが何を言うべきか、かける言葉はまだ浮かばず、今起きたのを繕う様に泣き腫れた目を眠そうに擦る演技をした。


『…ジュナイドが…死んだみたいです…。』


『うん。私はヘクティスを頼まれたの。だから大丈夫よ。』

 

 『何でジュナイドは…。』


『…私の事を庇ってその時に…死んだ。』


 本当はヘクティスに何かしていたのは見ていた。本当はヘクティスの為に命を使ったのを知っている。けれど背負わせたくないと思った。キアラだけが知っていればそれでいい。本当の弟は赤ん坊の時に死んでしまったが、ヘクティスの姉になると決めた心は一切の妥協を許さなかった。


ヘクティスは多分私が嘘をついた事に気付いたのだろうが、それ以上口を開く事はなかった。


-------


 ランガは出来るだけ生きてる人を探して回ったが、生きている人は一人もいなかった。余程衝撃だったのか、建物も人もばらばらに吹き飛ばされていた。中心に行けば行くだけ更地になっていた。外周の門まで破壊されていることから爆発の威力を押し測れる。

ヘクティスとキアラが生きているの奇跡に近かった。あるいはマリーナと呼ばれる人物が二人を庇った可能性が高い。そうなると生存は絶望に近かった。

 想像を絶する破壊痕を見ながら生存者を探しているとバウが走り出す。バウが駆け寄った先には商業都市の剣帝、ライデン・ダリックが倒れていた。

 血塗れだから息をしているライデンにポーションをかける。


『ライデンさん大丈夫ですか!』


 ライデンは小さく呻き声を上げるとゆっくりと目を覚ました。


『生きてるのか…。』


 ライデンは疑問を浮かべて五体満足な身体をじっくりと確認した。


 『ジュナイドが死にました。恐らく生存者は貴方ぐらいのものです。』


『そうか。ランガ君ありがとう。状況の説明をしたい、騎士団はいるのかい?』


『まだ到着してませんが、あと半刻もすれば着く頃だと思います。』


『騎士団を待つ間に聞いてもらいたい。俺の属性が消え、大幅に魔力が減った経緯を。』


 ランガは力無く弱ったライデンの違和感ようやく気付く。圧倒的な魔力量と光属性の魔力変換による多彩なスキルにより絶対的な自信を持っていた余力は見る影もなく萎んでしまっていることに。


『それは一時的なものではないんですか?』


『恐らく恒久的かもしれない。能力は無属性のただの人と遜色無い程に落ちてしまった。扱えるとしたら鍛え上げたこの筋肉ぐらいのものだろうか…。』


 ライデンは手を何度か握ったり開いたりして確認しながらギフトや魔力が戻らない事を確かめて再度口を開く。


『俺とジュナイドはリンカーネーターと戦い、その最中に力を奪われた。』


 ライデンは騎士団に情報を共有するために頭の中を整理する様にランガに事細かに何があったのかを話した。


--------

騎士団が到着するとランガは生存者がいないか探索に秀でたギフト、スキル持ちの者達でしらみ潰しに確認させ、残りの者たちで魔物の警戒にあたった。

 簡易的なテントで仮設を作ってヘクティス達もその中の一つで休息をとっていた。

 ヘクティスは体が動いて直ぐに、ジュナイドから教わった剣術を一つ一つなぞりながら丁寧に身体を使って行く。

 全ての剣技をなぞり終え、魔力操作の訓練に入った時、魔力のコントロールが上手く行えなかった。魔力が常に身体の中で上下していて魔力操作の基本、魔力流動ですら覚束(おぼつか)無い。


 『ヘクティスどうかしたの?』


 キアラはヘクティスの前でいつも通り過ぎるほどにいつも通りに暇そうに練習する姿を見続けていた。


 『魔力が…。』


魔力が操作出来なくなってると答えようとして考える。キアラにこれ以上の心配を掛けるべきでは無いのかもしれないと。


『魔力がどうしたの?』


『魔力がまだ回復してないみたいです。絶対量が少ないので注意しないと。今日はここまで辞めておきます。先に休みますね。』


はぐらかす形になってしまったが、キアラもそれ以上追求してこなかった。

 キアラを外に置いて簡易テントで瞑想の状態から自分の中の魔力に全力で集中する。

 魔力多く放出しようとすると魔力が(しめ)られた様に出なくなり、そうかと思うと次の瞬間倍の量の魔力が出てしまう。放出された魔力を操作しようとしても、自分の出した魔力とは思えない程に言う事を聞かずに暴れ回り霧散してしまう。

 不可能だった。まるで規則性のない魔力の流れが身体の中で渦巻いている事を認識した。


『これは無理ですね…。』


 何度目の挫折だろうか。成長していた分だけその努力の結果を突然失う喪失感は計り知れない程の絶望となって気力を奪って行くのを感じてそのまま力無く身体を倒して呆けてみる。こう言う時に無理に持ち直そうとすればする程深みにハマる事を知っている。

 何時間そうしていたのか、外から声がかけられてふと焦点があった。


『ヘクティス、少しいいか?』


 ヘクティスは急いで涎を拭き、服と体勢を整えてテントを出る。


『どうしました?』


取り繕うのが上手いのは前世から特技だった。周りからは何も感じさせない。心が遠いと思っている相手に対してはこの特技は顕著に効果を発揮する。


『商業都市の騎士学校に通うつもりだったとライデンさんから聞いてな。私が後見人になって剣王国の騎士学校に来ないかと考えたんだが、どうだろうか?』


 ランガの提案は魅力的で頷くには充分な内容だったが、魔力を操作出来ない状態で通えば、碌に授業についていけないのは明白だった。


『嬉しいのですが俺は…。』


『私も一緒よ!』


いつからいたのか、キアラが言葉を遮って前に出て来る。


『いや、姉さんだって剣王国は…。』


『大丈夫だよ。私はヘクティスのお姉ちゃんだから。』


『キアラのことは私が安全を保証する。騎士学校に通えば、ヘクティスの夢も近づく筈だ。』

 

 キアラの安全性が確保されると言うならそれに越した事は無く、魔力操作をのぞけばこの話を断る必要もなかった。



『…わかりました。よろしくお願いします。』


こうして剣王国の騎士学校への入学が決まった。

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