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予選二回戦 前半

前回の更新から一週間以上経っている気がします。すみません……

 二回戦は36人を三人ずつの班に分け、全12班が前半後半分かれて6班ずつ対戦する。

 競技場を東、中央、西の三つに分け、それぞれのフィールドで三対三の班ごとに勝負。先に全員倒された班が負け。逆に一人でも残っていれば勝ちとし、その班の選手は全員決勝戦へ進める。制限時間にまで勝負が着かなければその時点で両班とも敗退決定である。


 くじ引きにより、ククは前半戦の東の右班、黒い奴隷(ラインツ)は後半戦の中央の左班に配当されていた。後半戦の出場者は入場口の横にあるベンチ付きの待機室に集められ、前半戦の試合の様子は歓声と実況からしか情報を得られないようになっていた。



 後半戦が始まるまでは暇なため、出場者達は同じ班の者同士で話し合いが出来た。仲間がどのような特技を持っているのか、相手をどう倒すか、作戦を立てる時間は優にあった。


「おい、あんた俺達と同じ番号だったろ。そうだろ?」


 壁に背をつけ一人足元を見ていた黒い奴隷は声を掛けられ、顔をあげると若い男が二人目の前に立っていた。


「ほら、なんだ、俺達仲間っていうかあれだ……えっと」

運命共同体(なかま)って奴?」

「それだ! で、とりあえず親交深めておこうぜってこと。俺はマルクス、よろしく」

「おいらはボリス、一回戦では助かったよ。めっちゃ感謝してる、うん」

「あれはすごかったなあ! あのエーバーフントを吹っ飛ばしちまうなんて、あんたほんとパネエよ! で名前なんて言うんだ?」


 先に話し掛けてきたほうの男、マルクスは一見背が低いだけの普通の青年に見えた。しかし腕から指先にかけて分厚く固い筋肉に覆われており、身に付けている帷子(かたびら)には至る箇所に小振りな小型の短剣が仕込んである。もう一人の男ボリスは中太りの気の良い剣士だ。剣幅の広い使い古した革の(さや)に収めた両手剣を腰に差している。目を輝かせて訊いてくる二人に、奴隷は一呼吸置いて無表情のまま口を開いた。


「****」


 それは二人が今まで一度も聞いたことのない言語だった。マルクスとボリスは顔を見合わせると、もう一度訊いた。


「ええっと、それってもしかして地方の言葉で“悪魔”って呼ぶんじゃねえのか? ちょっとかじった程度の知識で言っちゃ悪いが……」


 腕を組んだマルクスはばつが悪そうに言うと、ボリスが隣から助言する。


「つまりさ、おいら達は君の名前が知りたいんだ、うん」


 奴隷は二度(まばた)きして呟くように声を出す。


「**……、ら…………***?」

「もしかして、自分の名前がわからないのか?」

「***……!」


 黒い奴隷は頭を抱えて(うめ)き始めた。最後にアーノルド卿が付けた大会の登録氏名以外の名前を呼んだのは部屋に来た謎の男。

 彼が呼んだのは──


「……エル。***、エル」


「エルか! ニックネームかな……でも教えてくれて嬉しいよ、一緒に頑張ろう」

「後援なら任しとけ! 俺は中距離からのフォローが得意なんだ、ボリスもよろしく頼むぜ!」


 マルクスは短剣をてのひらの中でくるくると回しながら自慢げに言う。そして彼に賛同するようにボリスは大きく頷いた。


「おう! 強いあんちゃんがいれば百人力って奴だ、おいら達決勝目指すぞ!」


 二人に暖かく迎え入れられたお陰かエルは強張った顔を少し緩めた。だが彼らの様子を少し離れた場所から顎で指し、嘲笑する者達がいることは黙っていた。


 壁を挟んだ向こう側からより大きな歓声とどよめきが聴こえてくる。前半戦が終わったようだ。



「ハハッ、見ろよあいつら呑気に仲良しごっこやってるぜ。敵は対戦班だけじゃないってことじっくり思い知らせてやるよ」

「まさか他の班全員がフックス卿の剣闘士だなんてあいつら想像してねえだろうし。ま、ここは優しく行こうや」







 クク含めた出場者が参戦する前半戦は盛り上がりを見せていた。


 剣闘士達が激しく武器を交え、甲高い金属音をあちこちで響かせる。剣闘士とは名ばかりで、この猛獣枠に限り剣以外武器の使用は許されている。彼らは槍や弓、盾など様々な武器を活用し攻防を繰り返す。


 競技場は三分割に柵が立てられそれぞれの陣地内で闘う。しかし、区切られていると言っても大人の背丈ほどの高さの柵はこぶし一つぶんの大きな間隔を以て作られていた。つまり、柵から手を伸ばせば簡単に隣の陣地の剣闘士に物を渡したり干渉したりすることが出来るのだ。


 もちろんそれらの行為は反則(タブー)となるが抜け道はいくらでもある…………


 ククがいる東の右班は苦戦を強いられていた。

 試合序盤で、隣の中央班から飛んできた弓矢が運悪く仲間の一人に当たってしまったのだ。急所に当たらなかったものの、相手班に集中的に狙われ試合開始直後戦闘不能となった。三対二という不利な状況下でククともう一人の仲間は防戦一方となる。

 ククはモルゲンシュテルン(星型戦棍棒)を盾にして相手の攻撃の手を緩める。モルゲンシュテルンは彼女の腰くらいまでの長さで両端の分厚いシュタール(鋼鉄部分)に大きなトゲがある打撃武器だ。(きぬ)のような形のそれは相手を斬るのではなく主に叩き潰すのが目的で、まだ大人に成りきれていない少女には不釣り合いな見た目である。しかし彼女はモルゲンシュテルンを使いこなせるだけの腕力と才能(センス)があった。それが振るわれる時、彼女の細い腕は鋼のように硬く盛り上がる。そしてそれを見る観客も面白がり、僅かにどよめきが起こっていた。



 一方、同じ班のもう一人は細身の長剣を扱う剣士だ。俊敏さが取り柄の装備は防御に弱く、ひたすら体を素早く動かし攻撃を避ける。しかし体力もそう長く持つものではない。相手班二人同時に柵ぎりぎりまで追い詰められ、とうとう膝を地面につけてしまった。


「カル!」


 援助しようと駆け寄ろうとするククだったが目の前の剣士がそれを許さない。ニタニタと笑いながら剣を突きつけてくる。これは挑発だ。ククは唇をぎゅっと結んだ。


「ハッ所詮は小娘(ガキ)だ、玄人(ベテラン)にゃ叶わねえよ!」


 大柄なわりに軽やかな身のこなしでおちょくる剣士はわざとおどけた表情をしてククを馬鹿にしていた。しかし、闇雲にモルゲンシュテルンを振り回しているようで彼女は至って冷静だった。連続で突きを繰り出し剣士の後ろ足がずれて体の軸がブレた瞬間、ククはモルゲンシュテルンを大きく振りかざし思い切り叩きつけた。嵐のように風が唸り、剣士の甲冑が一瞬でひしゃげた。メキメキと骨が折れる音が響く。


「うゴァッ……!」


 ぺしゃんこになった剣士はボールのように地面を転がっていく。その無様な姿に目もくれず仲間のもとへ駆けた。

 実況と歓声が湧く中、彼女を待ち受けていたのは返り血を浴びた二人の剣闘士と、すでに虫の息になっている仲間の姿だった。


「ナイスタイミング! 安心しな、嬢ちゃんは俺らがちゃんと可愛がってやるよ」


 血のついた武器を見せびらかすようにかざすといきなり大きいほうの男が突撃してきた。


「くぅッ!」


 ギィンッと耳障りな音を立てて攻撃を受け止める。相手の両手剣は長く分厚くそして体重も合わさり非常に重たかった。彼よりずっと背の低いククは受けるのに精一杯で背中ががら空きである。


「まずい……」


ククは前方にもう一人がいないことを確認すると、挟み撃ちをしてくると予測した。足をしっかり開いて踏ん張りながらククは人より敏感な耳と尻尾に意識を集中させる。背後でもう一人が左肩から角の構えで剣を振ろうとしているのが感じとれた。あと少し、あとほんの僅か…………


「うらああ!」


 今だ!


 剣が振るわれるより前に両手剣を受け止めた状態で身体を後ろへ一気に地面すれすれまで倒した。


「おわああっ……!」

「っえ、うげええ!?」


 相手班の計画は失敗した。ブリッジの体勢になったククの真上でつんのめった大男の甲冑の隙間から胸に剣が刺さっている。血飛沫(ちしぶき)が上がり背後の男が慌てて剣を抜く。転がって素早く起き上がり構えるがもはや急ぐ必要はなかった。


『おおっとー! これは挟撃(きょうげき)が失敗して味方を切ってしまったかー!? さあ、どうする左班!』


 軽々しい実況に苛つきつつ、ククは動揺して固まる二人を見据(みす)えてモルゲンシュテルンを槍投げのように持ち変えた。衝突音が二度続き、競技場の側面の壁に二人の男がぶつかる。


 東陣地はククの班の勝利だった。

モルゲンシュテルンは、モーニングスターを指しています。元々は、農民が農作物の脱穀に使っていた農具が戦場に持ち込まれ、より殺傷能力の高い形へと変化していったものらしいです。

ククの戦闘はウケるのだろうか?そもそも読者なんて存在していないのでは?と不安になりつつ書きたいものを書きました。


次話はラインツが活躍します!

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