沈黙する心
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前回ご報告忘れていましたが、キャラ絵にマリーの設定画更新しました。
※少し下ネタがあります。ご注意ください。
あくる日のこと。街にいくつかあるアジトのひとつ、その広い庭でラインツとミアは特訓をしていた。
剣などの武器を一切使わず相手を翻弄する技を学びたいと頭を下げたラインツに根負けしたミアは、暇さえあれば彼の特訓に付き合い互いの技術を高めている。
ミアは大振りな技をしないわりに相手の懐に入り込むのが上手い。また遠心力や全身の筋肉を上手く使い、女性の弱い力でも充分な威力を発揮する。以前ラインツが解説を乞うと、感覚でやってるから見て覚えろという返事をもらい、それ以来何度も組み手をしていた。
「だいぶ形になってきたわ、そろそろ私じゃ手に余りそうね」
ラインツの攻撃をかわしつつ率直な意見を言う。
「まだ学び足りない。その関節の動きとか」
「男じゃ固くて限界あるわよ、あんたはあんたでもっと伸ばせるとこ、あるっ」
至近距離から肘鉄を食らったラインツは、少し咳き込んだ後、すぐに体勢を整え構える。
ミアのしなやかでバネのある身体技はその小さな体躰からは想像もつかないほど力強く、彼女の倍近くある大男をも蹴り飛ばすことが出来る。剣技以外は単純に殴る、蹴るしか出来なかったラインツはミアとの特訓によりこの半年で実戦に使えるまでに技を習得した。
ふと彼女がラインツの体ごしに何かに気付く。彼の蹴りを側転してかわすとその勢いで庭の植え込みに右足の踵を突き上げた。
「うひゃあ」
草木の擦れる音と気の抜けた声が響く。ラインツが後ろを向いて覗くと植え込みの間に外套に葉や土をつけたベルゲンがいた。
「なんだ、ベルだったの」
「ふうう、死ぬかと思った」
「変に隠れるからよ、普通に会いに来ればいいのに」
呆れたミアに、尻餅をついたままベルゲンが言い訳をする。
「いやあ二人の邪魔しちゃ悪いと思って」
彼はラインツよりも前にコルンブルーに加入し、数々の任務をこなしてきた玄人である。隠密行動をとるためか顔のほとんどを覆うようなスカーフと季節関係なく身体に巻き付けている外套。組織内でも特に怪しい格好をしているが、その気さくさと明るい声色により正体を疑う者は少ない。
しかしミアはあまり冗談が好きではないため、喧嘩はしないがそれほど相性がいいとは言えない微妙な関係だ。
「それで何か用?」
構えたままミアが訊ねる。
「うん、二人はほんと仲良くなったなあとしみじみ感じてた。最初はすんごい険悪な雰囲気だったじゃん? 特にミアなんか特訓中にラインツを何度も打撲させて……」
「余計なこと言わなくていいから! もう! ……何か伝言があるんでしょ?」
自らの恥ずかしい過去をぶり返されたミアはあわててベルゲンの口を止めようとする。が、その様子をラインツに見られ一旦自分で抑えて冷静になった。
ベルゲンは唯一露出している目元を終始ニヤニヤさせている。
「えっと、なんか伝えに来たんだけど忘れちゃった。ごめん、今思い出すから」
彼が笑いながら謝ると、ミアは再び顔を膨らませて拗ねた。彼は素面で噂ネタを口走る癖がある。時には人を怒らせたりもするが、その口の軽さのおかげでラインツは周囲と馴染めるようになった。そして喋り続けるベルゲンの口のチャックを閉めるのが相棒のダーシュの役割のようになっていた。
会話が得意ではないラインツは庭に入ってくる足音にほっとする。
「リーダーがラインツを呼んでる」
「ダーシュ! そうだった、それだ!」
後からやってきたダーシュがフォローするとベルゲンはようやく思い出したように何度か頷く。ダーシュはベルゲンと一緒に任務にあたることが多く、大柄な体型に口数の少ない大人しい性格の男である。彼らは仲が良いこともあり一緒にいるときが多いため、身長差のある二人をラインツは心の中で凸凹コンビと呼んでいる。
「アレックスが呼んでるなら行ったほうがいいわ、続きはまた今度にしましょう」
「そうする。ベル、ありがとう」
いってらっしゃーいと間延びした声を背中で聞いて、ラインツはいつもの中庭のアジトへ向かった。
とくにこれといって見送りをせず、汗を拭くミアにベルゲンが彼女の耳に右手を当てて問い掛ける。
「ねえねえ、ラインツとリーダーってデキてんの?」
「ぅんなわけないでしょ気持ち悪い。そもそもあいつ好きな娘いるわよ」
「え! それは初耳! …………好きな娘ってことは……!」
食いついてくるベルゲンに、仕方ないといった体で話す。
「とっくの昔にフラれたみたい、本人いわくこの世で一番綺麗だそうよ」
「ふふっこの世で一番……気になるー!」
「ベル、詮索よくない……」
恋バナに盛り上がるベルゲンに、ダーシュが小声で諫める。その後もしばらく彼の顔はニヤけが収まらないでいた。
◇
「エル、お前明日から奴隷な」
突然の宣告にラインツは数秒間固まった。
ほんの数秒前まで彼の自慰行為を手伝っていたアレックスは、ベットで横になったままのラインツにいつものように指示を出しただけだった。ラインツがアジトに着いたとき、日が暮れる頃だったのもあり、二人はアジトの二階建ての家の寝室にいた。過去のトラウマにより他人から暴力を振るわれないと勃たないラインツは時々アレックスに身を委ねていた。
「何と勘違いしてるかわからんが落ち着け。これはお前の力を踏まえての任務だ」
「任務?」
任務の言葉にさっと上体を起こし、アレックスのほうを向く。
「来週から“武道大会”が開催されるのは知ってるだろう? ヴェスティア帝国が主催する大規模な祭りのひとつだ。すでに祭りの準備に取りかかっている店も多い。お前にはその大会に出場してもらう」
上手く話が見えてこないラインツは首をかしげた。
「大会に出場することと奴隷になることに何が関係するんだ?」
「追って説明しよう。まずこの武道大会がどういったものか言ってみろ」
「帝国中の剣闘士が集まって競い合う大会。帝国軍に所属する者のみが出場する軍人枠と、職業や年齢性別関係なく出場出来る一般枠があって、最後にそれぞれの優勝者が対決する。だが後者が勝つことはほとんどないため実質帝国軍の宣伝材料になる、らしい」
概ねその通りだとアレックスは頷く。
「だがお前が出場するのはどちらでもない。大会前日に行われる猛獣枠だ。この枠は国ではなくヴァルダン卿の主催する非公式なもので、たとえ出場者が死んでも不問を付される極めて悪質な大会だ。そのくせ会場の盛り上がり様は他の比じゃないくらい激しいがな」
悲惨な話を流暢に喋るアレックスに、ラインツは顔をしかめた。
「それでその猛獣枠は何と闘うんだ?」
「もちろん人同士だ。猛獣はカモフラージュ。貴族が所有する奴隷、つまり言葉の通じない野蛮族や先の征服戦争で隷属化した国の捕虜が自らの命を掛けて殺し合う……いわば貴族の娯楽さ」
「残酷……属国の人に知れ渡れると大変なんじゃないのか?」
ラインツの疑問にアレックスは、捕虜の扱いなんてどの国も似たようなもんだけどな、と水を飲みながら毒づいた。ラインツにも水を入れたカップを差し出す。汗をかいて喉が渇いていたラインツはカップをぐいっと煽った。
「実際一部の保守派から批判の声が年々増えてきている。帝国の属国って意外と多いんだよ。今まで容認してきた国家の責任というのもあるからな、このままでは支持率が下がってしまうためようやく重い腰を上げたって訳だ。帝国軍の目的は、捕虜や奴隷の実態を調査し証拠を集めて糾弾することだ。そのために実際に奴隷となって詳しい現状を知る必要がある」
ようやく話が繋がり、ラインツは納得した。
「ああ、なるほど。でも軍の仕事に協力するなんて、コルンブルーはそんなこともやるんだ」
彼の率直な感想に、アレックスはニヤリと口角を上げる。
「奴等は自分達の手を汚したくないから俺達を使うんだ。ま、仕事が増えるのはいいことだ」
ベットの上でアレックスはラインツと向かい合うようにして肩を掴むと真っ直ぐ目を見る。緊張感を覚えたラインツは思わず唾を飲み込んだ。
「先日のアーノルド卿の剣闘士暗殺は計画の一部に過ぎない。お前は奴の奴隷となり悪事を暴く。今回の任務が成功した暁には給料を弾んでやろう。おめでとう、孤児院への寄付を増やせるぞ」
知っていたんだなと心の中で呟く。ラインツは以前マリーに連れられて訪れた孤児院に毎月寄付していたのだ。
「その任務、最後までやらせてくれ」
「いい返事が聞けてよかった。 さ、続きをしよう」
アレックスはラインツを押し倒すように寝かせると、彼の喉に置いた両手の親指にゆっくり力を入れていく。ベットの上で跳ねる黒い胴体は再び熱く火照った。
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文章量の調節により、全体の起伏があまりなくなってしまいました……。さて、武道大会の話は少し長くなります。バトルシーンをメインに盛り込んでいきますよ!




