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お部屋探しはモーリッツ不動産

前回の更新からかなり日にち経ってました…………エタるつもりはないので引き続き読んでくださると嬉しいです!


せっかくの大型連休に更新出来なくて申し訳ないです。正月明けから連休を味わえてないのでそろそろまとまった休日が欲しい作者です。

「了解」


 ラインツは手を止めて返事をした。(おもむろ)に立ち上がり汚れた布巾を水の入った桶の中に投げ入れた。


「今度は随分と物騒だな」

「先の仕事がゆるかっただけだ。今後は家族だからといって見逃してもらうような甘い考えは一切捨てろ」

「人質ってことか」


 じっと動かず眠り続けているキャビンに視線を向ける。


「悪い言い方するとな。キャビンだっけか、その子の安全は出来うる限り守ってやるし、技術の方は俺が支援(バックアップ)するから心配するな」

「……アレックスはなんでそこまで面倒を見てくれるんだ?」


 ラインツの疑問にアレックスはすぐに答えなかった。

 組んでる腕の上下を入れ替えラインツの目を真っ直ぐ見る。怒っているのか、呆れているのかわからない、感情のこもらない眼力にラインツはぐっと身構える。


「エル、俺はただの人殺しの君を一人前の殺人鬼に仕立て上げるためにコルンブルーに入れたんだ。いかなるときも冷静で判断を誤らず、仕事を完璧に遂行できる男にする。それが俺の目標の一つだ」

「今までもそんな殺し屋を育ててきたのか?」

「まさか! コルンブルーの構成員(メンバー)はざっと百人いるのに一人一人見てられねえよ。俺は殺しの専門だが先生じゃない。君に期待してるのは単に最強になった君が欲しいだけなんだ、これで納得してくれるか?」

「わかった、理解したことにする……」


 微妙にはぐらかされている気がするも、これ以上言及しても無駄だろうとラインツは諦めた。


「ところで詫びの件はどうなってるんだ? まだ住むとこ決まってないぞ」

「は? あいつまた忘れてるな……よし、じゃあ今日行ってみるか」


 アレックスの提案に頷く。

 睡眠と食事をあまり必要としないラインツは今すぐにでも行ける状態だったが、アレックスからまだ夜が明けたばかりだから時間を置くようにと言われ、太陽が高くなるまでの間キャビンを連れていくための用意を始めた。



 近くの酒屋で貰ってきた古くて大きい酒樽に縄をくくり付け、その中にキャビンを入れる。つい先程まで洗われていたキャビンだが、保温性に富んだ性質の体毛のため、しばらく日向に寝かせておいたらあっという間に乾いた。


「あとで切ってやるから。ほら、たくさん飲め」


 異常に伸びてしまった体毛は体温を上げてしまい、うたた寝しながら舌を出して息をするキャビンに水筒の水をやる。


「ラビンとダビンはどうしてるんだろう……あの二頭は仲が良いし賢いから大丈夫か。…………なんで家畜飼ってたんだっけ? ご飯はいつもヨハネが食べさせてくれてたのに……あれ、俺はグレタと一緒にスープ作ってたよな? どっちが本当なんだ……?」


 しゃがみこんだままラインツがしばらく頭を抱えていると、目がしっかり開いたキャビンが樽から前半分を乗り出し彼の頬に鼻頭をくっつけた。


「ありがとう、お前のことは信じてる」


 キャビンと自分の鼻をくつっけたラインツは無意識のうちにシルタッハ語で喋っていた。その様子をアジトの外壁の裏側から(うかが)っている影に、彼は気付いていない。影は終始ムッとした表情で外壁に背を預けていた。


 縄を両肩に掛けて腰を上げると樽の重さも相まってなかなか重量感がある。そのままゆっくり中庭を出てアジトの玄関前で待っていたアレックスに声を掛けると、鳩が豆鉄砲を食らったかのような顔で迎えられた。


「それ背負って行くのかっ! うわあ、後ろから見ると樽が歩いてるみたいだな」


 目的地は同じなのに少し離れて歩かされたのだった。



 アレックスの知り合いが経営しているという不動産屋はアジトから二十分ほど歩いた距離にあった。大通りと貴族街の間に位置するやや裕福な通りで、キャビンの入った酒樽を背負って歩くラインツは人目を引いた。


 角から三つ目の建物の玄関前に来たアレックスは、吊り紐を引っ張り呼び鈴を鳴らす。コロンコロンと子どもの玩具のような音が響く。しばらくして玄関の扉が開いて若い男が出てきた。


「いらっしゃいませ、モーリッツ不動産です。お名前お伺いします」

「アレクシウスだ。モーリッツはいるかい?」

「はい、アレクシウス様ですね。いつもお世話になっております。こちらへどうぞ」


 若い男が出迎えて店内へ案内してもらう。まだ髭が薄く、十代後半というところだが、きびきびとした態度で非常にしっかりしていた。

 もう一つの扉の前で振り返ると彼は会釈して自己紹介をした。


「申し遅れました、私はモーリッツ先生の弟子であるケイネス・ベルテン・ホルトハウスと申します。ケイとお呼びください」

「よろしく、ケイ」

「ところでお隣のお客様はどういったご用件でご来店されたのでしょうか?」


 笑顔で接客するケイの丁寧な言葉遣いとは裏腹に明らかに警戒を含む声色だった。樽を担いだ背の高い黒い男。今のラインツは疑うのに充分な姿である。言葉に詰まったラインツにアレックスが助け船を出す。


「ああ、ちょうど彼の部屋探してもらっていたんだ。これから世話になるだろうからよろしく頼む」

「……ラインツェールトといいます、よろしくお願いします」

「ラインツェールト様ですね、不躾な質問をして申し訳ございません。こちらのお部屋で承ります。先生!」


 警戒体勢を解いたケイが扉を叩いて店の主人を呼ぶ。奥からくぐもった声が返ってきたのを確認し扉を開けた。


 ガラスの窓に掛けられたレースのカーテンが柔らかい光を醸し出し、室内を優しく照らしていた。部屋の中央に六人掛けのテーブルセットがあり、その奥に書類がたくさん乗った机でペンを持った人物がアレックスの顔を見てにこやかに挨拶した。


「アレックス、久しぶり! おや? また面白いお客様がいるね。君が連れてくる人達は本当に飽きないなあ」

「モリー、元気そうでなによりだ」


 アレックスはアジトでは見せない心から笑っている笑顔で主人と会話をしていた。二人は本当の親友なのだろうとラインツは見て感じた。


「もちろん元気だよ、僕達しょっちゅう連絡とってるじゃないか」

「直接会うのは一月ぶりだろう……あーいいや、前に一人分見繕ってくれたと思うが彼に新しい部屋を紹介してほしいんだ。頼めるか?」


 アレックスがラインツの肩を叩くと、店の主人はなるほどと頷きペンを片付けて二人をテーブルへ案内する。ラインツが背負っていた酒樽を床に置き、全員がソファーに座ると話が始まった。


「では改めて自己紹介を。私はモーリッツ不動産の店主、モーリッツ・バウムガルト。今日は()()にぴったりな家を紹介するよ」


 モーリッツはラインツと、樽の縁に前足を掛けて頭だけ出しているキャビンを見て名乗った。とても朗らかで明るく落ち着いた男で、歳は三十くらいに見える。


「ラインツェールトです。と、この子はキャビッツのキャビンといいます。よろしくお願いします」


 ラインツは毛むくじゃらのキャビンの顔が見えるように顔回りの体毛をかき分けて紹介した。撫でてもらえると勘違いしたキャビンはラインツの手に頭を擦り付けた。


「俺には敬語使ってくれないんだな」

「アレックスにはなんか使いたくない」

「はあ? ……ったく、好きにしろ」


 二人のやり取りを向かいの席で眺めていたモーリッツがクスクスと笑い始めた。


「君達も仲が良いんだねえ、ふふ。ラインツェールト君、アレックスとは末長く付き合ってくれると嬉しいな。それと、妹が世話になったようで、兄の私からもお礼を言いたい」


 モーリッツはラインツに深く頭を下げた。その様子をアレックスは不思議そうな目で見る。


「兄?」

「私の父はブルツァネッカ商会の前会長なんだ」

「ブルツァネッカ…………ナターシャのお兄さん?」


 ラインツは目の前の彼の顔をじっと見る。少し前の記憶を思い出し、どことなく彼女の赤茶色の髪と笑ったときの顔が似ている気がした。


「私は側腹(そばはら)だから嫡子(ちゃくし)である妹が後を継いだんだ。表立って名乗れなくてごめんね。それから、一緒に護衛についてくれた仲間にもよろしく伝えてほしい」

「は、はい」


 ラインツが返事をすると、ケイが紙束を脇に抱えて部屋に入ってきた。手にしていた資料をモーリッツに渡すと会釈をして再び扉の奥へ消えた。


「あの、一つ聞いてみたいことがあるんですけど」

「なにかな?」

「悪魔ってなんですか?」


 ラインツの素朴な質問に先程までにこやかに応対していたモーリッツはサッと真顔になった。場の空気の変化に気付いたラインツは、よく言われるので気になったと質問の理由を加えた。


「私が説明しても?」


 アレックスが頷く。


「この帝国と周辺の国々はこの世界のあらゆるものを支配しているといわれる色んな神様を信仰していてね。神様が大昔に、世界を壊そうとした悪い神様を地の底へ追いやってくれたおかげで人や生き物が暮らせる世の中になったという古いお話があるんだ。悪魔(ドゥンケル)というのはその悪い神様のことなんだ」


 ラインツは初めて聞く話に真剣に耳を傾ける。


「そして古くから語り継がれている伝承やおとぎ話の中で、しばしば悪魔(ドゥンケル)は全身が黒かったり大きな角を持った姿で描かれることがある。でもこれは伝記から生まれた唯の作り話に過ぎない。誰かに何を言われても君は君のままでいい」


 モーリッツの話は子どもに聞かせるような解りやすいものだった。ラインツを傷つけないよう柔らかい口調で、その眼差しは彼の人格がよく滲み出ていた。

 街で己が侮蔑されていることに納得したラインツはふと、レイヴンが一度も悪魔と呼んだことがないことに気付いた。常に乱暴な言葉遣いでキツい物言いするわりに、相手が本気で傷付く言葉を吐くところを見たことがないのだ。まだこの街にいるのならまた沢山殴って喧嘩して欲しい、そんな願望を抱いて遠い目をした。


レイヴンがいたら、納得するな!と叱ってただろうなあという回でした。お部屋探しほとんどしてないですね、次話でちゃんとします。


新キャラのナターシャの義理の兄、モーリッツとその弟子ケイ。よろしくお願いします!

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