謎の巨大毛玉探し
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ラインツが秘密結社コルンブルーに加入してから数日経った頃、クロビエールへ訪れた彼にマリーはお茶を出しながらふと思い出したかのように言った。
「アジトへ来い、とリーダーから伝言を預かってます」
熱いお茶を胃に流し込み急ぎ足で中庭のあるアジトへ向かうと、早速アレックスが片手を上げて出迎えた。
「マリーがよくしてもらってるみたいだな」
「まあ、友達みたいな関係だから」
「そうか、それはよかった。では早速本題に入ろう」
アレックスはラインツと向かい合う形で中庭の椅子に腰掛けて説明した。
「お前に仕事だ。近頃外壁近くの地域である噂が広まっている。路地をさ迷う全身を長い毛で覆われた謎の大型生物がいると。そして人、とくに背の高い男を狙って猛突進してくるらしい。被害が拡大する前に、そいつの正体を暴いて捕獲して欲しいと依頼が寄せられた。出来るか?」
「わかった。でもその生き物は自治体とかで退治できないほど危険なのか?」
ラインツはいまいちうまく掴めない情報に、質問した。
「自治体ってそんな武装出来る住民は街にいないぞ? まだ死人が出てないから国は動かねえし、一応害獣退治の業者にも頼んだらしいが金の無駄だったと依頼人は憤慨していた」
「そんな危ない生き物がこの街に……」
「捕獲が難しければ殺してしまっても構わないとのことだ。どんな種の生物か分からんが、そこは情報収集しながら探すとしよう」
言い終わる前に立ち上がり、中庭を出ようとするアレックスを慌てて追う。
「今からなのか?」
「そうだ、早いほうがいいだろう。それに今回お前の初仕事だから俺も同行する」
「よ、よろしくお願いします」
「そういうのちゃんと言えるんだな」
「…………」
褒められているのか馬鹿にされているのか分からず黙ってたら会話が終わった。
二人はまず、目撃証言の多い地区へ向かった。とくに何も考えていなかったラインツの予想に反し、情報が続々と集まった。
「ありゃあエゼルの奇形じゃねえかな、よく見たら四つ足があったしよ。エゼルより一回りでっかかったが、毛の色がよく似ている。どっかの小屋から脱走したんだろ」
「俺は仕事仲間がやられたのをしっかり見たぜ。ハンスって奴で、横の黒い兄ちゃんみたいに背高えんだ。えーと三日前の仕事帰りだったか? 二人で飲み行く途中で、いきなりドンッて音がしたと思ったらハンスが二十歩先へ吹っ飛んでいきやがったんだ! あのときのハンスの顔といったら! やべえ思い出し笑いが止まらねえっ! ブッヒャヒャッ!」
「主人と娘の三人で買い物をして帰る途中でした。突然大きな毛玉が降ってきたんです! 毛玉は主人を路地に叩きつけて、動物のように匂いを嗅ぐ素振りをして、すぐ去っていきました」
「その毛玉はどの方向へ行ったかわかるか?」
「ええと、確かあの細い裏地へ行ったような……」
「貴重な話をありがとう。旦那さんにお大事にと伝えてくれ」
最後に若い婦人に礼を行って聴衆を終えた。
ある程度探索範囲が絞れたところで、ラインツとアレックスは手分けして細い路地裏を探すことになった。しかし、
「謎の大型生物についてだが、情報をまとめよう」
早々に作業を切り上げたアレックスが未だ手掛かりを掴めずにいるラインツに提案した。
「謎の毛玉は大人が両腕を広げたくらいの大きさで、動きが素早く背の高い男を狙って突進してくる。 毛色は白っぽく、汚れがひどくて生物の種は特定出来ない。そして夕方から朝方にかけて多く目撃されている」
「つまり毛玉の活動時間は日没後だ。翌朝から察するに日中は暑くて動けないためどこかに隠れているはずだ」
アレックスの推測に納得したラインツは空を見上げる。
「まだ午後になったばかりだ。一旦切り上げるのか?」
「いや、出来ることはあるぜ。ほら」
アレックスは何か摘まんでラインツに見せた。人差し指と親指に挟まれたそれは腕一本ほどの長さの細い毛で、先端のほうが少し茶色っぽくなっている。
「それは毛玉の毛?」
「かもしれん。この辺は道幅が狭いからエゼルは通らないし、こんな長い毛滅多に落ちてるものじゃない。ここらへんを探すぞ」
アレックスが路上や家々の壁の角に毛がついてないか見て回っている間、ラインツは頭の片隅で何かが引っ掛かっていた。
あの毛はどこかで見た記憶がある。色は違うが、それを一体どこで見たんだろう……。
陽射しが強くなってきて、アレックスの勧めで二人は休憩することにした。
近くの露店で軽食を買い、日陰になっている壁にもたれながら口を大きく開けて食べるアレックスの横で、ラインツは考え事をしていた。数日に一度の食事で充分なため、休憩がてらアレックスが食べ終わるのを待っていた。
ラインツは、日本人として地球で生まれ育った記憶までがあやふやになっていることに薄々気付いていたが、彼にとって大事なのはこの世界での生活だけだった。
元々ラインツはこの世界に来てから記憶障害を患っていた。一年前の儀式の直後からさらに悪化しそれ以前の三年間、どのように暮らしてきたのか未だにはっきり思い出せずにいる。グレタ以外の断片的に残る思い出が本当に起こったことなのか、それとも自分の勝手な妄想なのか、意識的に思い出そうとする度に頭痛がして目の前が真っ赤に染まってしまうのだ。
「い、おい! 聞こえてるか?」
「……? アレックス?」
「エル、お前気分悪いのか?」
アレックスの呼び掛けで視界がだんだん戻っていく。
「いや、大丈夫だ。昔のこと思い出そうとするといつもこうなる」
「あんま思い詰めるなよ、過去に囚われてる時間が一番もったいねえ」
指に付いた汚れを舐めとったアレックスは腰を上げ、再び毛玉の探索に向かった。
「そういえばお前に一つ訊きたいことがある。お前のあの赤い剣、体を発光させて出しているように見えたがどんな仕掛けになってるんだ?」
彼の質問に一呼吸置いて答える。
「俺もよくわからない。一年くらい前から、呪文を唱えて念じると腹から剣が出せるようになってた」
「もしかしてお前召喚術が使えるのか?」
アレックスが振り向いてラインツに詰め寄る。
「召喚術がなんなのかわからないけど、俺に出来るのは地底の世界から剣を出すことだけだ」
「そうか。悪いな、余計なこと訊いて」
「いや、むしろ知ってもらうべきかもしれない。もしも俺が正気を失って暴走したら殺してでも止めてほしい」
「わかった。考えとくよ」
意外にあっさりとした返事に信頼感があまりないように思えたが、ラインツは気にしないことにした。
次の通りの探索中、ラインツは毛クズの塊が数個落ちているのを見つけた。
「これって毛玉の……」
「あたりだな。この廃屋の窪みを巣穴に見立ててしばらく滞在したようだ。ほら、糞がそこらじゅうに転がってる」
「うわっほんとだ。じゃあこのへん探せば」
「いや、もう別の場所にいるだろう。だがそんなに距離はないはずだ。でかい生き物が町中で発見されたら何かしら騒ぎが起こる」
じゃあ振り出しに戻ったのかとラインツは少し落ち込んだが、さっさと気持ちを切り替えて探索に戻ろうとした。
「おい待て、焦るな。ここら辺に罠張るぞ」
ブックマーク本当にありがとうございます!テンション上がって文字数増えたので二回に分けることにしました。次話は夜に投稿します。




