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孤児と貴族

最近体調崩してました。更新低速で申し訳ありません。

 その日の午後、ラインツとマリーは再び街を歩いていた。あまり注目を浴びたくないというラインツの頼みをすんなりと聞き入れたマリーは、荷物を彼に持たせ、隣に寄った。


「恋人っぽくしたほうがいいですか?」

「いや普通に友達みたいにしてくれれば……」

「そうですか。ならもっとゆっくり歩いてください」


 どちらかと言うと、知り合いの子を預かっているように見えるだろう。

 二人は街の中心から離れ、下り坂をいくつか通りやがて古い礼拝堂の前までやって来た。


「目的地はこの先を左へ曲がったところです」


 あまり整備されていない大小の石が入り交じった道を進んでいくと、子どもの姿がちらほらと現れ始める。ラインツの姿を見るとすぐどこかへとんでいった。

 道を曲がった先には蔦の繁った一軒の民家のような古い建物が見えてきた。どうやら先ほどから見る子ども達はそこの住民のようだ。家から猫によく似た黒い耳と尻尾の生えた少年が出てきてこちらへ小走りで向かってくる。


「フリーマン様、いつもご苦労様です。大変申し訳ありませんが、今日は時間がなくて今から収穫したクローブを洗いに行くのですが、お時間頂いてもよろしいでしょうか?」

「急がなくても結構です。今日は彼を紹介しに来たのでしばらくこちらで待たせて頂きます」

「はい。あの、そちらの方が?」


 よく見ると少年は花を売っていた子どもだった。相変わらず尻尾が揺れている。


「仕事の同僚です。店の手伝いもしてくれます」

「ラインツと呼んでくれ」

「ラインツさん! 昨日はありがとうございました!」


 花を買ったことを説明すると、マリーはなるほどと頷いた。


「マルク、あなたも自己紹介お願いします」

「すみません! 申し遅れました。僕はマルク。この孤児院に住んでいます。そして、フリーマン様のお仕事を手伝わせて頂いております」

「彼には店の業務の一部を委託してます。もう行っていいですよ」


 少年はお辞儀をすると、薬草の入った籠を背負って近くの川へ歩いていった。そして二人の周りにはいつの間にか子どもが集まっていた。


「ラインツさん、中へ入りましょう」


 マリーに案内されて入った孤児院の中は、年端もいかない子ども達が家事をしていた。

 彼女の説明によると、ここは聖職者の方が運営をされている孤児院で、身寄りのない子どもがたくさん暮らしているそうだ。そして彼女の家が日用品や生活費を寄付しているらしい。


「国から寄付に使う金額に制限をかけられているので、足りない分は聖職者が隠れて日雇いの仕事をしているのが現状です」


居間にあたる部屋のテーブルに腰を掛けてしばらくすると、一人の少女がお盆に古びたテーセットを乗せてゆっくりやってきた。恐る恐る運んだお盆をテーブルに置き、ぎこちない動きでお茶を入れ始める。


「ど、どうぞ」

「いただきます」


 マリーが出されたお茶に口をつける。続けてラインツもカップに手を伸ばした。少女は前髪の隙間からラインツをチラチラと不安げに見ながらマリーの顔色を伺う。テーブルにカップを置いたマリーは冷めた声できっぱりと言った。


「まずいです。あなた最近上達してないですね」

「そんなあ、一生懸命やったのに」

「一生懸命やっても上手くならなかったらやってないのと同じです。基礎からもう一度勉強し直す必要があります」


 オブラートに包まずはっきりと酷評するわりには、少女に色々アドバイスを出しているマリーを眺めながらラインツは少しずつお茶を飲む。ラインツには少女のお茶がそんなに不味くは感じなかった。水出しのためあまり香り立たないが、強いて言えば普通だ。しかしマリーにとっては全然ダメらしい。

 しばらくして少女がお盆を持って居間を出ていった。


「たくさん喋って疲れました。皆が字を読むことが出来れば教える必要がなくていいのですが」

「これは仕事なのか?」

「違います。私の両親が慈善活動をしているので、その一環として私も子ども達の手に職をつけさせているのです。利益ゼロです」


  居間の出入り口から小さな頭がひょこっと現れた。


「フリーマン様、みんなあつめたよ!」

「ではこちらへ座ってください」

「うん、みんなきて」


 最初の子に続いて、わらわらと居間に入ってくる。各々が自分の席に着くとマリーの話に耳を傾けた。


「皆さん、こちらは私の仕事仲間のラインツさんです。見た目は怖いですが優しい人です、ぜひ仲良くしてください」


 しばし沈黙が流れる。やがて、一人の子が意見を言う。


「あの、だいじょうぶなの? つ、つのが悪魔みたいじゃん……あわわごめんなさい!」


 ラインツの視線に焦って隣の子の後ろに隠れる。隣の子も怖がってさらに後ろへいこうとする。

 マリーは紹介だけして擁護するつもりはない様子。これは己自身の問題だ。ラインツは覚悟して口を開いた。


「はじめまして、俺はラインツ。正直自分が何者なのか、よく分かっていない。けど信じてほしい。俺は人と同じように生きて笑って過ごしたい。だから、よろしく」


 緊張で変な声になっていないか不安だったが、レイヴンの言葉の通り精一杯の笑顔で挨拶をした。


「いいよ! ミンちゃんがともだちになってあげる!」


 一番端の席に座った子が元気よく返事をした。その子は花売りの少年マルクと一緒にいた小さい子だった。その子に続いて隣の子も、その隣の子もと続き居間の空気がだんだん和らいでいく。


「ミンちゃんね、マルクおにいちゃんのいもーとなの! おにいちゃんね、すごいんだよ!」


 兄を自慢する幼い妹の、獣耳のない頭を撫でながらラインツは一言一言をしっかりと聞いて会話をした。







「今日はありがとう。おかげで友達が出来た」


 孤児院からの帰り道、マルクから受け取った荷物を担いで歩くラインツはマリーにお礼を言った。


「礼には及びません。私も他意があって連れていったわけですし」

「それでも嬉しかった」

「そうですか」


 それ以上はお互い何も喋らず、店に着くとそのまま別れた。




 夕暮れ時、マリーはアジトの中庭で人を待っていた。


「よお、待ったか?」

「いいえ、大して」


 待ち人はやってくるなり即座に聞いてきた。


「それでどうだった、結果は」

「確証は得ませんが彼は悪魔ではないと思います」

「そうか、ご苦労だった」

「…………古の支配者」

「君がそこまで調べる必要はない」

「支配者という怪物を社員にして、万一街が壊されて店にも被害が起きたら嫌なので彼をしっかり見ていてください」

「ハハハハッ!! 君のそういう所結構好きだよ!」


 アレックスはひとしきり笑った後、マリーに小さく折り畳んだ紙包みを渡して去っていった。


「変な人」







 薄く曇った星空の下、男が一人夜道を歩く。


 石畳の道を、コツコツと踵を鳴らして進んで行く。レイヴンは有力な貴族の邸宅が並ぶコンラット通りを一人で歩いていた。いつものニヒルな笑みはなく、神妙な面持ちで坂道を上がっていった。

 夜と言えども街灯や家々の明かりでなんとか足元は見えていた。まだ日が暮れて間もなく、夜会へ向かう貴族達のきらびやかな装いは着崩れ一つなく今か今かと出番を待ちわびているようだ。道の向かい側からやってくる貴族達は皆、彼の庶民たる風貌をわざと分かるように嘲笑しながら通り過ぎていく。中には通り過ぎ様に馬車から硬貨を投げつける者もいた。頭に当たって道に落ちた金には目もくれず、レイヴンは髪をぐしゃっと掴み、ため息をついて歩き続けた。


 やがて貴族街のはずれにある、広大な植木の庭が広がる古い別荘へ入ってゆく。以前とは見違えるほど美しく手入れされた庭に驚きつつ足を止めずに真っ直ぐ正面玄関まで歩く。玄関扉の取っ手に触れようと手を伸ばした瞬間、扉が奥に開いた。


 扉の両側にいる、糊の効いた制服を着た使用人が同時に会釈する。


「お待ちしておりました。旦那様は書斎にいらっしゃいます」


 八年前は使用人など一人もいなかった。庭も邸内も荒れ放題でまるで空き家のような放置ぶりだった。レイヴンは塵ひとつなく磨かれた広い廊下を進みながら古い記憶を辿った。この先に書斎があって、ぼさぼさの白髪頭が汚い机の上に転がっていて、そして──


 震える手をぐっと握り一拍置いて扉に置いた手に力を込める。瞬間スウッと滑らかな動きで両側に開く扉の奥には、勝ち誇ったかのような笑みを浮かべる老人がいた。


「ふふふ、必ず君は来ると確信していたよ」


 生き生きとした目の老貴族が、背後の窓から降り注ぐ月光を反射させるほどに磨かれた立派な机に腰掛けていた。


「チッ……まだくたばってなかったのか。この死に損ないがっ」

「年寄りを悪く言うな。ワシはあの時よりずっとピンピンしておるぞ」

「みてえだな」

「八年前の約束だ。さあ、私の後継者になってもらおうか」


細かい描写入れようと思えば入れられますが、煩わしいのでさらっといきます。

次話は久しぶりにレイヴンの回です!


4/26 本文一部修正しました。

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