草いっぱいなお店
最近更新頻度が低くなっている……!
書きたい話と進めたい話と書いてる最中に思い付いた話が三つ巴になって作者の頭の中で喧嘩してます。
ラインツはマリーの後ろについて街を歩いた。少女の小さな歩幅に合わせているのでかなりゆっくり足を踏み出すのだが、その様子がどうやら可笑しいらしい。この奇妙な凸凹の二人組を街の人は物珍しそうに見ていた。
背が低く、華奢な彼女はまだ成人していないが自らの意志で親元を離れ、一人で店を切り盛りしているらしい。
「クロビエール……“たくさんの草”」
「『草いっぱい!』という店名にしようとしたら、親が何度もやめとけと言うのでシルタッハ語にしてみました」
センスが迷子になっているがあえて黙る。
中心街から少し離れた静かな通りに彼女の店はあった。
薬草専門店『クロビエール』
淡い色調のシンプルな看板は雨風による汚れが少なく、まだ店が出来て日が浅いことを示していた。
「こちらです。今日は定休日です。どうぞ上がってください」
裏口の鍵を開け、ラインツを中に入れる。窓の小さい部屋は薄暗く、マリーは慣れた手つきで天井に吊り下げられたランプに火を点けた。室内がぼんやりと明るくなる。
「テーを入れるので少し待っててください。…………飲めないものってありますか?」
「基本的に何でも飲める」
では私のブレンドで。そう言うとマリーは隣部屋の台所へ向かった。シルタッハではテーをお茶と呼んでいたが、ヴェスティア帝国ではテーと言うのが一般的だそうだ。
待っている間、退屈しのぎにラインツは店内を眺める。薬草専門店というわりには、植物以外の細々とした雑貨も置いてある。ラインツはグレタと過ごした家を思い出し、懐かしさを覚える。一瞬思い出に浸った頭を振って観察を続けた。
薬草を加工するための作業台、小さい引き出しがたくさん並んだ棚と梯子、年期の入った秤、売り場らしき狭いスペースに置かれた椅子。ところ狭しと物が置かれた空間は、何故だかあまり窮屈には感じられない。むしろ生活感に溢れ居心地がいい。
マリーがお盆にティーセットを乗せて台所から出てきたとこで観察を切り上げた。丸みを帯びた小さめなデザインのポットとカップを卓上に並べる。
「お茶って高級品じゃないのか?」
「高級品というか、薬草を使っているので世間一般では薬だと思われています。でも実際に高いのはこのテーセットです。ほとんど外国からの輸入品なので市場に出回ることは非常に少ないです。私の生家は裕福なので普通にありますけど」
マリーは説明しながらテーを淹れる準備をした。カップの上に茶漉しを置き、お茶をゆっくり注ぐ。ふわりと立つ湯気とともに爽やかなお茶の香りが二人を包んだ。二つのカップに均等の濃さになるように入れると、片方をラインツに差し出した。ラインツはカップを手に取り、薄黄色に色付いたお茶をゆっくり口に含む。ミントとは違う、すうっとした柔らかく爽やかな風味とまろやかな渋味が口の中にじんわりと広がる。
「美味しい」
マリーの耳がピッと立つ。
「あなたはテーがわかる人なのですか?」
「以前好きで、よく自分で淹れてた。環境が整えばまたやりたい」
マリーの耳が忙しなく動く。
「たまにならここ貸してもいいですよ。テーセットは、硬いフォグを食べてる労働者には買えない代物ですから」
「いいのか……? 気持ちは嬉しいけど」
「もちろんです。ついでにお店も手伝ってください」
マリーは相変わらず無表情だったがテンションが高いのが見てとれてわかった。一息ついたところで、ラインツは二杯目のお茶を飲みながら話を聞いた。
クロビエールはその名の通り、多種多様な薬草を扱っている店だ。国や自治体から許可を得た上で、薬の原料や料理の薬味になる薬草の他、彼女の趣味で茶葉も扱っている。
クロビエールはその名の通り、多種多様な薬草を扱っている店だ。国や自治体から許可を得た上で、薬の原料や料理の薬味になる薬草の他、彼女の趣味で茶葉も扱っている。
箪笥に仕舞ってある商品は見せてもらえなかったが、店裏の日陰になっている一畳程のスペースにラインツの腰の位置の高さまである木組みの物干し竿があり、それについては解説をくれた。
「ここで仕入れた商品の加工作業を行います。今は冬期に収穫された植物の乾燥を行ってます」
「あ、これナンテンの葉」
「そうです。葉は柔らかい毛を取って洗ってから乾燥させるので少し面倒です。赤い実は天日干ししています。見ますか?」
ラインツが即座に頷くと、マリーは店内へ戻り箪笥の向かいの壁際に備え付けられている幅の狭い梯子を登っていった。
「こちらです。気を付けて上ってください」
先に天井まで上り着いたマリーのスカートの中ではふんわりとした太い尻尾が左右に揺れていた。
天井の四角い扉を開けて、真っ暗な屋根裏を潜ってさらに屋根の内側の木枠を外す。
「うっ……」
「もしかして眩しかったですか?」
「出来れば先に言ってもらえると嬉しい」
「善処します」
木枠を支柱に立て掛けて、マリーは屋根へよじ登った。続けてラインツが葺き石に手をついて屋根の上に立つと、涼しい風が頬を撫でた。
遠くを見ると、同じような黒っぽい石の屋根葺きがたくさん並んでおり、遠くにグレーの城壁が街との境界線のように空間を区切っていた。
急に強い風が吹き、マリーの薄いオレンジ色の髪が舞い上がった。子ども特有のやわらかい髪が綿毛のようにその小さな顔の周りで遊ぶ。ラインツは乱れた前髪をかきあげて隣を見ると、風のいたずらをものともしないマリーの横顔があった。
深い緑の虹彩に縁取られた甘いミントカラーの瞳。彼女が眺めているよく晴れた空と同じ色をしていた。
屋根の上で二人日向ぼっこすること数刻。
「ところでナンテンは?」
「下で干してあります」
「……? じゃあなんでここへ?」
「あなたになら紹介してもいいと思ったからです。ここでテーを飲むと美味しいです」
彼女なりの最大限の優しさだった。
「ありがとう、マリー。俺も、君が命を狙われることが起こったらすぐ助けに行く」
「わかりました。言質を取りました」
さっさと店内へ戻る彼女の後ろ姿を見て、ラインツは小さくため息をついた。
店に戻って二人ともやることがないため、再び会話を始めた。
「ところでここに置いてある薬草はどこから採ってくるの?」
「大抵は生息地周辺の村と取引しています。高山などの採取が難しいものは登山者に依頼することもあります」
ラインツはなんとなく自分で採りに行くものだと想像していたが、ここは街の中心街。一人の少女が頻繁に山へ入れるわけがない。むしろ営業スキルが非常に高いとも言える。無表情でも営業出来るものなんだと感心した。
そしてコルンブルーについてはあまり聞き出せなかった。
店自体はコルンブルーとの直接的な関係はないらしい。むしろ彼女は組織についてあまり知らないようだった。身バレを恐れてか、あまり深く関わろうとしていない。彼女は人より優れた嗅覚と聴覚を生かして任務を実行しているに過ぎず、とくにアレックスについては顔と名前以外ほぼ何も知らないも同然だった。
「もとから私は他人に興味ありません。聞いても忘れますし……自分の命に関わることと興味あること以外は覚える気もありません」
冷たいようだがただの利己主義のようだ。
ラインツの質問に答えながらマリーは、乾燥させた果物の小さなお菓子を摘まみ、次々と口の中に放り込んでいる。
「秘密結社って、そんなに曖昧なんだなあ」
「国や世間に存在を認知させないためです。実際にどれだけの社員がいるのか、詳しいことはリーダーにしかわかりません」
「話変わるけど、なんでマリーはコルンブルーに入ったんだ?」
「入った当時は店を始めたばかりで新しい卸し先が欲しかったからです。…………ツァンに紹介されたのが一番の要因ですね」
マリーの口からツァンの名が出てきてラインツはむっと反応する。
「あの人もコルンブルーの一員?」
「いいえ、彼は仲介業者。強いて言えば情報屋です。私はあの人嫌いです」
「俺も」
共通の敵が出来た。
「組織は反政府的な活動もします。これは忠告なのですが、今後あなたは国の回し者になる可能性もあります」
「回し者って、あの外国に潜入捜査したりする……」
「帝国への反逆を任されるかもしれないということです。でもこんな話今さらですよね。あなたの身体、古い血の臭いが染み付いてますから」
マリーの出したお茶は、滅茶苦茶爽やかな抹茶入りの煎茶っぽい味のイメージです。
マリーの魅力が伝わってるといいなあと思います。
4/18 加筆修正しました。




