オールラウンダー
ブクマと評価ありがとうございます!!
それと、一日遅れの更新と短文失礼いたします。
文章の区切りって難しいですね。
闇を切り裂くように鋭い刃が襲いかかる。
寸でのところで避けるが、軸足で床のゴミを踏んでしまう。
「隙あり!」
陰がバランスを崩したラインツの脇を狙う。避けようとするが間に合わない。ラインツの右目が赤く光る。
「星の門!」
「っ!」
六角形の門が展開されて刃を弾き返す。
相手が驚いている隙に開いた門から素早く剣を抜き出すと、後ろへジャンプし臨時体勢をとった。
「へえ~初めて見る技だ、面白い」
奴は物珍しそうに赤い門と剣を眺める。姿を現したのはラインツとそう変わらない年の若い男だった。
「さっきの見させてもらったが、己の力が制御出来ないうちは喧嘩しちゃいけないぞ」
「……! ば、バラすのか?」
声が裏返ってしまうほど動揺するラインツに男は笑った。
「ははっまさか! 俺は勧誘のためにここにいる。そして君が俺達の仕事に適してる人材かどうか吟味しに来たんだ。最も、想像以上にやんちゃなガキだったけどな」
ラインツは挑発的な言葉にあえて反応せずに質問する。
「勧誘って…………一体何の仕事だ?」
「それは今からやる試験に合格したら教えよう」
ラインツに見せつけるように短剣を揺らすと、男はそれを投げ、新たな短剣を取り出し迫ってくる。投げられた剣は狙いを大きく外す。天井へ突き刺さる音を聴いたラインツは右側からの突きに難なく剣身で凪ぎ払った。しかし、
「ガッ……!?」
頭上から降ってきた瓦礫や木屑を真に受けて、体勢を崩し無防備になってしまう。男は前のめりになったラインツの背後から再び狙ってくる。ラインツは剣を捨て、床に滑り込むように前転してなんとか避け、男のほうを向く。
彼は最初から短剣を投げる位置も攻撃の角度も計算していたのだ。奴は本気だ。ラインツは咳き込みながら新たな剣を抜き、切っ先を男に向けて構えた。
彼はラインツの殺意に当てられてもなお余裕な顔をしていた。むしろこの状況を楽しんでいるようにも見える。
「ようやくやる気出してくれたか! それにしても、その剣は一体どこから出して……っ!」
ラインツは男が喋り終わる前に鋭い突きを入れる。間髪を入れずに攻める剣撃に対応しきれず今度は男が防戦一方となった。体力を温存させるためか、あまり立ち位置を変えず短剣を持つ手の関節を器用に動かしている。
「なら、これならどうする!」
男が何も持っていない左手の指を動かす。まるで見えない何かを手繰るような動きにラインツは寒気がした。
「!」
次の瞬間、ラインツは粉砕したアパートから飛び出した。大量の瓦礫が辺り一面に散らばり、近所の住民が何事かと騒ぎに集まり出す。転がるように着地すると周囲に目もくれず急いで路地を走った。
早く逃げなければ。あれは下手したら――
「師匠よりも強い……!」
ラインツは狭い道を一目散に駆け抜ける。自分が街のどこを走っているのか分からない。だがとにかく遠くへ逃げなければ。あれは自分では勝てない。いや敵わない!
「あの赤いのは無限に出せるのか? いいねえ、場所をとらない武器庫ってのは!」
「くっ……!」
いつの間にか男がすぐ後ろまで迫っていた。距離にして十歩。いや、さらに近付いてくる。しかもあまり息を切らしていない。首筋にぞわりと寒気が走る。男はまた指を動かした。
「いっ!」
突然首にじんと痛みが走った。試しに触った指が滑っている。男は武器を投げるような動きはしていなかったのに、一体なぜ……?
嫌な予感がしたラインツは立ち止まると男のほうを向いた。
「ようやく気付いた感じか? 実戦ならとっくに死んでるぞ」
「な……っ!」
「そう苛つくな。下手に動くと切れるからな」
動くと切れる?
ラインツはじっと立ったまま体から黒い帯を出した。泥のように飛び散るそれは空中に黒くて細い線を浮かび上がらせる。ラインツの体の至るところに緩く巻き付く数多の線はすべて男の左手へ繋がっていた。
「糸使い……!」
男がニヤリと笑う。
「見るのは初めてか、まあ普通は知らないよな」
相手の手の内が見えたところで既にラインツはどうにも出来なかった。この家々に囲まれた路地ではアパートの室内のように瞬時に瓦礫で障害物を作るのは難しい。彼は指をほんの僅かに動かすだけでいつでもラインツの体を切断出来るのだ。
どうにも出来ないじゃない。どうするかだ。いつもレイヴンが考えろと言っていただろう、俺!
「おいおいそんなに睨まないでくれ。俺はお前を殺すつもりはない。試験だと言っただろう?」
「信用できない。今すぐ糸を外さなければこの黒いのがお前の体を溶かす」
黒い泥の付いた服や手を見てため息を吐いた男は、ラインツから糸を外し始める。
脅しに成功したラインツは内心ほっとした。実際に泥が何かを溶かすことはない。さらに実際の泥と違い、数分で跡形もなく消えてしまうのだ。たった一度しか使えないハッタリを早くも消費してしまった。また新たな手段を見つけるしかない、頭の片隅でぼんやりと考える。
そして、少し触れた糸の感触が先程まで感じていた寒気の正体だったことに気付き、ラインツは改めて己の勘の鈍さに呆れた。
泥が消え始めた頃、糸を仕舞い終えた糸使いはラインツの肩に手を置くとにっこり微笑んだ。
「で、人殺しだと通報されるのが嫌なら付いて来てもらおうか、黒い角の剣士くん」
相手のほうが一枚上手だった。
黒い泥や赤い剣は想像しにくいと思いますので近々イメージを載せます。
オールラウンダーとは、例えばサッカーでどのポディションでもプレー出来る選手のことを指す言葉らしいです。格好いいのでサブタイトルに使いました。




