暗闇への誘い
総合PV1000達成しました! ありがとうございます!!
数ヶ月かけてようやく1000…………今度はポイントも1000目指します!
19/04/06 はしゃぎすぎました……。まずは自他共に面白い、楽しい文章を書けるように色々勉強します。
◇◇
久しぶりに一人っきりになったレイヴンは、空に向かって大きく背伸びをした。
誰かの面倒を見なくていい。その解放感につい羽根を伸ばしたくなるが、あの連中は今も監視している。もう何年も監視されているというのにあいつは微塵も感じていない。ずっと見られていれば、それが普通になってしまうものなのか……呑気な奴だ。
なぜあんなグズの世話を買って出たのだろう。
金が手に入るから? それとも武器が欲しかったから? 答えは分かっている。けれど口にしてしまえば確実に運命から逃れられなくなってしまう。
このまま偽り続ければ安穏した日々が送れる。本当の自分など、早く忘れてしまえばいい――――
◇◇
ラインツはこれからどうしたらいいのか分からなかった。
宛てもなく街をさ迷い歩き、何度も宿屋の前を通った後、大広場まで戻ってベンチの端に腰掛けた。
賑やかで素敵な街。自分の存在などちっぽけで街中の喧騒に埋もれて消えてしまいそうだ。ラインツは改めてレイヴンの存在の大きさに気付かされた。
膝の上に置いた手を見つめる。爪の先まで真っ黒な手。この手で何が出来るのだろう。今までレイヴンに言われるがままに仕事をこなし、人を殺してきた。けれどこれからはこの街で真っ当に生きるのだ。誰かに頼っては駄目だ。
ようやく決心がついて顔を上げると、視界いっぱいに出っ張った口と大きな鼻があった。
「っツァン……!」
「うわっびっくりした。浮かない顔をしていたようだけど、もう大丈夫なのかい?」
いつの間にか、昨日酒場で話し掛けてきた馬面ではないが馬のような顔の男、ツァンが目の前に立っていた。
「は、はい。……こんにちは」
「こんにちは。今日は一人みたいだね」
ツァンの言葉にラインツは再び顔を伏せる。
「ああ、ごめん。あまり触れたくない話題だったか。いや、偶然通り掛かったんだけど、落ち込んでる君をなんだかほうっておけなくてね」
「実は…………」
ラインツはレイヴンと別れたことを話した。
「つまり、君は住む場所と仕事を探しているわけだ」
なら俺に任せてくれ。ツァンは胸を叩いてそう言うと、ラインツを連れて案内を始めた。
彼は街のあらゆるものを紹介し、歩きながらずっと喋り続けている。ラインツが話に飽きてきた頃、ツァンはラインツのほうを向いて話し掛けた。
「それにしても、随分すっきりしたね」
「?」
「その格好だよ。馬子にも衣装ってこのことだねえ」
「馬はそっちのほ、じゃななくて……」
必死に誤魔化そうと周りを見渡すと、いつの間にか全く知らない場所に来ていることに気付いた。慌てるラインツを他所にツァンはどんどん人気のない路地へ入っていく。大通りより路上のゴミが多く、嗅いだことのない異臭がキツくなっていった。
「さて、着いたよ。」
そう彼が指差したのは古びた一軒のアパートのような建物だった。
「ここ? ツァンの紹介してくれる仕事って……」
「さあ、入って」
玄関の扉をノックもなしにいきなり引いたと思うと、やや強引にラインツの背中を押して中へ押し込んだ。
「ツァン? 一体何をっ」
何かが頭上を掠め、入ってきた扉に刺さる。ナイフだ。投げられた方を見ると、薄暗闇の中、こちらを睨んでいる六つの目と視線が合った。一際鋭い二つが動く。
「何度言われようがおれたちゃこっから出ていかねえぞ! ったくウゼエ!!」
大男が怒鳴る。 ツァンはラインツの陰に隠れるように身を屈めた。
窓がすべて閉じられて暗くて見辛いが、部屋の中には三人の柄の悪い男達がたむろっていた。ナイフを投げてきたのは一番ガタイが良いリーダー格の男。二の腕の筋肉がサッカーボール程ある。
部屋全体が汚くゴミが散乱しており、床には木屑や食べ物のカスが転がっている。よく見ると周囲に黒くなった血痕が飛び散っていた。
「ツァン、これはどういうことなんだ。仕事を紹介してくれるんじゃなかったのか!」
「ああ、もちろんそうだとも。このアホ共をここから追い出してくれ、じゃあまたあとで!」
ツァンは笑顔でラインツに頼むと脱兎のごとく逃げていってしまった。
「~~~アホ共だとおお!? てめえらぶっころされてえのか!!」
「やっちまえ! アニキ!」
「そうだ! また思い知らしめてやれ!」
囃し立てられたアニキが指を鳴らしながら逃げ遅れたラインツに近づく。後ろは部屋の奥の壁で下がれない。どうやら意図的に面倒事に巻き込まれたようだ。
「てめえ見ない顔だな、俺様はこの辺じゃあ有名なんだよ! ゛猛進のペギート゛ってなあ!!」
アニキは肘を素早く引き、目にも留まらぬ速さで拳を振り上げた。
バコンッと派手な音を立てて、ラインツの頭があった壁に大きな穴が開く。 埃が舞う中、ペギートはラインツが避けたことに気付くとまた殴り掛かった。部屋のものを蹴り散らかし、逃げるラインツを何度も襲う。
ラインツは距離を置くと、両手の掌を見せて訴える。
「俺は喧嘩をするつもりはない。あいつに連れてこられただけだ!」
「んなもん知るか! てめえはあの出っ歯が俺らを追い出したいがために雇った流れ者だろう? だったらぶっ潰す!」
よほど頭に来ているのか、荒い鼻息を繰り返し歯を剥き出しにして敵意を向けてくる。
話し合いは無駄なようだ。ラインツは諦めて、いかにして殺さずに相手の動きを封じるか考えた。角に何か当たる。ああ、同時に仲間の二人も相手しなければいけない…………
十畳程の狭い室内に四人。閉め切りの窓が視界を悪くしているが三人は物の配置を目を瞑っていても手に取るようにわかる。対して初めてこの部屋に入る者は、明るい外から急に暗い場所に入るため目が慣れるのに時間がかかる。さらに家具や床のゴミが足の踏み場を無くしまともに動けない。とどめにペギートの豪腕である。これまで三人は何度も侵入者を追い返してきた。そしてラインツもまたその内の一人になるはずだった。
「くそっ……んなろ! 当たんねえ!」
「黒くて分かりづれえ!」
弟分の二人は手当たり次第物を投げるがなかなか当たらない。
肌も髪も黒いラインツは、他人から見れば暗い室内では正確な位置が掴み辛いのだ。
「あいつぜってえ見えてんぞ! アニキ!」
「分かっとるわぁ!! くっそおお……っ舐めやがってえ!」
加えてラインツは暗闇で目が利いた。色までは判別出来ないが、夜行生物のように人や物の位置がはっきりと見えている。特に大きく振りかぶってくるペギートの動きは分かりやすいのだ。
しかし、ラインツが想像する以上にこの三人は諦めが悪かった。このままでは埒が明かない。決心すると、そばにあったテーブルの足に手をかけた。
テーブルを地面に滑らせるように同心円状に振り回し床のゴミを一掃する。ついでにテーブルの上に積んであったものを奴らにぶつける。まずは足場の確保だ。両足を開きしっかり構える。
そして同時に向かってきた二人を蹴り倒す。激昂したペギートは正面から突っ込む。その大きな拳が当たる前に踵で彼の腹を思い切り蹴った。
パキョッと、何かが折れる音がしてラインツは冷や汗を流す。以前レイヴンがふざけて靴の踵部分に金属を仕込んでいたことを思い出した。
彼の大きい図体は宙を飛び背後に転がるテーブルをなぎ倒し、やがて壁に当たって止まった。確認すると上半身が壁にめり込んでいる。
「ケハッ……げほっごほっ…………」
意識は曖昧だが苦しそうに息をしていた。目立った外傷もとくに見当たらない。ほっとしたラインツはペギートの両足を持って壁から引っ張り出した。
「てめえアニキになんてこと…………」
「おいプンス、やめろよ。こいつやべえぞ……!」
弟分達は蹴られ箇所をさすりながらびっこになってペギートに駆け寄った。
「アニキ…………なんか息おかしい」
「……ゲボアッ! オエッカッ……ッ!!」
「……!!」
むせながら血を吐いたペギートに全員が凍りつく。
「……あ、アニキ! しっかりしろよ!」
「あああやばい、治せる奴探さないと……!」
ペギートは浅い息を繰り返し、一向に呼吸が整う気配がない。呼吸が上手く出来ない息苦しさと、蹴られた胸部の痛みに脂汗を額にかき、顔をしかめ必死な表情を浮かべている。
ラインツは仰向けに横たわるペギートの傷の具合を再度確認した。おそらく外傷性気胸だ。肋骨が折れて肺に刺さり、体内に空気が漏れて内蔵が押し潰されている。今すぐ手術が必要だ。ヨハネほどの医療技術と機材を持った者なら助けられるかもしれない。けれどこの世界の標準レベルでは…………
彼の足を掴んでいた手を離し後退る。震える手を抑えて何も言えず黙って様子を見ていると片方の仲間と目が合った。
「アニキが死んだらぜってえ許さねえからな!」
二人はふらつきながらもペギートをしっかり担ぎ、涙を流してアパートから去っていった。
血とゴミが散乱した部屋で、ラインツは一人項垂れる。
「レイヴン……人を殺すのは辛いよ…………一人は嫌だよ…………」
「なら俺達のところへ来たらいい。だがその前に少し試験を受けてもらう」
溢れた呟きに返事が来た。その声の主は誰もいない部屋の中。
鈍いはずのラインツの背筋が凍るほどの殺意が向けられていた。
予想外に暗い話になってしまいました。残念ながら描写はされないですがペギートさんはもうすぐお亡くなりになります。ラインツは色々と自立しないといけないですね!
明日も更新出来たらいたします。




