ようこそ! ヴェスティア帝国へ!
今回短いです。キリのいいところまで。
ときおり周囲を確認し用心して進んで行くと、前方に見覚えのある荷馬車が見えてきた。荷馬車から身を乗り出して大声で御者を呼ぼうとしたアルフレットの口をレイヴンが素早く覆う。
「何をするんだ!」
「まだ賊がその辺にいるかもしれねえ、気ぃつけろっ」
アルフレットはレイヴンを睨みつつもしぶしぶ押し黙った。
結論から言うと荷馬車は無事だった。目視で人の顔が分かる程度の距離まで行くと、停まっていた荷馬車の御者台からもう一人の御者ホーネストが降りてきた。
「ホース! 無事だったかあ!」
「ああ、なんとかな。そっちこそ……会長もご無事でなによりです」
へルマンとホーネストはお互い肩を抱き合い再会を喜んだ。ナターシャとアルフレットも、心なしか顔を緩ませて二人を見守っている。
レイヴンはラインツに目配せをし、彼が頷くとナイフの柄に置いた右手を緩めた。
「それにしても、山賊たちはどこ行ったんだ?」
ようやく落ち着いてきたへルマンは訊ねる。
「ああ、俺達を襲った奴らならまだ荷台で眠りこけているさ」
「えっ……寝ている!? まだいるのか!」
慌ててアルフレットが確認すると、中で気持ち良さそうにイビキをかいている山賊達が転がっていた。
「一体どうして…………いや、無事でよかったけれども」
真剣に考え込むアルフレットの横顔に、レイヴンは笑いをこらいきれず、隣で爆笑し始めた。
「ブッ! ハッハッハッハ!!」
「な、何が可笑しい!」
「だってよお、てめえどんだけおめでたい頭してんだよっ! 全部俺様君が綺麗にお膳立てしてやったに決まってんだろ!」
なるほど、俺とアルフレットだけ仲間外れだったのか。怒られると思って己を責めていた自分が馬鹿だった……。
ラインツは荷台の上に転がっている筒を見つけて、心の中でため息をついた。
「アルフレット、黙っててごめんなさい。ホーネストにはもしものときに備えて睡眠薬の入った道具を渡していたの。レイヴンさんが護身用にと」
「この男が……!」
レイヴンの人を見下したような笑いに、アルフレットはますます苛つかせるが、この男に怒りをぶつけるのは無駄だと悟った。山賊を縄で何重にも縛り、木にくくりつけると荷物の無事を確認し始めた。
結局荷物はほとんど手付かずで、ホーネスト自身も大きな怪我も見られず、すぐに出発となった。
三日目以降の旅路は順調に進み、雪解け水が流れ始めた一週間後、一行はようやく国境間際まで辿り着いた。
「おー! 皆さんやっと城壁が見えてきましたよ! ほら!」
連日の駆動で鼻を真っ赤にしたホーネストが顔を綻ばせて知らせる。高く、長く続く城壁を見つめて涙を滲ませるナターシャを、アルフレットはやさしく肩を撫でた。
「皆さん、ここまでの長い旅路……本当に、本当にお疲れ様でした……! あともう少しです。城門は笑顔でくぐりましょう!」
ラインツには、彼女にどんな事情があるのか全く知らないし、知る由もない。しかし、まだ子どもに近い年齢の彼女の嬉し泣きをする美しい笑顔は、どこか懐かしさを感じた。
風になびく赤茶色の柔かな髪、涙で濡れる赤い頬、あどけなさと強かさを併せ持つ凛とした容姿。
ああ、そっか。俺はまだグレタのことが好きなんだ…………
ラインツは胸の痛みを紛らわそうとあえて荷台の外に立って見張りを続けた。
城壁は近くで観察すると、大人頭くらいの大きさの石を隙間なく積み重ねたその上にセメントのような素材で柵のように固定された幅が一メートル程ある支柱の間を埋めて作られた立派なものだった。高さは五十メートルはありそうだ。
城門の入り口にたどり着くまでは運河の渡り橋で順番待ちをさせられたが、思いの外入国審査がすんなり通ったので壁内に入ってからは早かった。審査の際に外したフードを被り直そうとしたラインツを、レイヴンが止める。
「今のうちに慣れとけよ。どうせこの街で暮らしていくんだからな」
「あら! じゃあ今後もお会いできるのですね! もしご希望でしたらうちで働いてもらってもいいわ」
二人のほうを振り返ってナターシャが笑顔で勧誘する。
「え……え?? シュリーツベルク領じゃないのか?」
ラインツは会話がどんどん進んでく様子に混乱した。しかし楽しそうな会話に水を指す勇気がないため傍で大人しく聞いていた。
実際は、グレタ達に会うのが怖いのが本音だ。もう、あの村に自分の居場所はない。街の景色を眺めながら、なんとなく自分で自分の居場所を新しく作っていくほうが、楽しそうに思えてきた。
荷馬車が目的地に到着した。依頼が無事終わり、ラインツとレイヴンは荷馬車を降りる。
「報酬は本日中に当店の両替商に振込書を納品しますので、いつでもご来店くださいね。レイヴンさん、ラインツさん、この度はありがとうございました!」
ラインツ達がだいぶ歩いた後も、ナターシャはブルツァネッカ商会の本館前でずっと手を振っていた。ラインツもつられて何度か小さく振り返した。なによりアルフレットや御者の二人も一緒に見送りしてくれたのが嬉しかった。
「そうその顔だ。人と会うときは必ず笑顔でいろ」
「……レイヴン?」
「あん? どうした?」
今の一瞬彼の素顔を見れた気がして、ラインツは急に名残惜しく感じた。これから一緒に仕事をしていれば、またいつか見れるかもしれない。
そんな気がしたラインツは、笑うことにした。
「おい誰が人の顔見て笑えっつたよ、舐めてんのか」
「うっへへ、痛っ! 痛くないけど角引っ張るな!」
髭面で悪人面のレイヴンと、全身黒を纏ったラインツ。二人はまだ友達と呼ぶには近くて遠い存在だった。
ようこそ! ヴェスティア帝国の城都、ケーニッヒブルクへ!
来週あたりにキャラのイラスト載せます。
人物の容姿や景色を想像しやすくするために、挿絵はあったほうが読みやすいのでしょうか?
ご意見お待ちしてます。




