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ある盗賊の独白

こちらは2020年7月1日に投稿した話になります。

一章にて怪物化された主人公ラインツを拾うこととなった盗賊の男レイヴン視点の話です。彼がどうしてラインツを助けようとしたのか、どんな人生を送ってきたのかその背景が少し分かる内容になってます。また、『星の智慧教団』、儀式、ラインツの正体など……話が分かりづらく感じた方へのチュートリアルになったら幸いです。逆にあまり興味がない、今後の伏線を楽しみたい方は飛ばしてください。

 俺様君の名はレイヴン。以前はそう名乗り、とある盗賊団の頭領をしていた。


 あれは三年前の18歳のとき。

 初秋の少し冷たい風が吹く黄昏時、三十余名の盗賊仲間と共にエゼルで山林を駆けていた。家畜化された品種よりずっと長く伸びたエゼルの体毛が荒々しく靡いて山道を縫うように進む。冬に備えて食糧補給するため、山間(やまあい)の小さな村を襲う計画だった。


 今回のターゲットは食料と毛織物。俺達盗賊はどの地域にも属さず、自らの土地を持たないため生活に必要なものはすべて盗んで食い繫ぐ。そのせいで誰かが犠牲になろうと構わない。この世界は強い者だけが生き残る。それだけだ。そう無理やり思い込んでいた。彼と彼女に会うまでは。


「お頭、今度の村は若い娘いるんすか?」

「知るか、いても絶対ヤるなよ」

「ええ~いいじゃないすか、減るもんじゃねえし……」

「俺様君が駄目と言ったら絶対駄目だ。文句あるなら今ここでエゼルから突き落とすぞ」


 軽口叩いた子分を軽く睨むと、苦虫を嚙み潰したような顔で口をまごつかせて黙りこんだ。荒れくれ者とはいえ彼は命令に従わなかった者がどういう目に遭うのかを知っているのだ。


 盗賊仲間の半分は俺より年上で大柄の厳つい男達。彼らに対し俺はようやく髭が生え始めたばかりで背は高くとも体躯はそれほどでもない。見た目で舐められないよう常に目つきを悪くし、腰の剣の他にいくつか武器を隠し持つ。少しでも命令に逆らえば本気で反省するまで殴り、失敗した奴には教育と謳って仲間全員にそいつを殴らせる。人を支配するのに暴力は一番効果的だった。ここまでやると逆に離反者が出てくる恐れもあったが、俺が先代の頭を追放し盗賊頭になってからはひと時も飢えることがなくなったため子分達の不満は少なかった。俺が指揮すれば強盗は百発百中で成功し、定住地がない以外は不自由はない。大きな街で子分がヘマやらかして憲兵に囲まれてたときも、森で猛獣に襲われたときも、俺がいれば何事も上手く切り抜けていけた。



 少し前のある日のこと。


「お頭はなんでそんなに何でも出来るんすか?」

「お頭に任せとけばなんでもうまくいくよなあ、へへっ」

「村にいたときよりも飯食えっしな!」


 俺は治安を乱し子分をこき使う最低な盗賊だ、悪事を働くならず者のはずだ。褒められるようなことは何一つしていない、それなのにときおり交わされる子分たち。特に若いのは窃盗が絶えない貧しい村々から引き抜いた悪ガキ共だ。


「てめえら少しは手前らで何とかしろ! 俺様君は天才で努力家なんだよ!」


 威張るように喝を入れる。俺が学のない彼らとは違うのは当然だった。盗賊に堕ちる前は帝国の貴族の子息と同じくらい勉学に励むことができる恵まれた環境にいた。剣の扱いだけでなく文字の読み書き、物事や時間の計算、女の落とし方や話術など……俺は何でも勉強し何でも出来た。賊に入ったばかりのときは子どもゆえに虐げられてきたが、今や俺が暴力を振るう側。いい年して命乞いをする者たちを殴るのは楽しかった。が、楽しかったのは最初の一回きりで、その後は途方もない虚しさに胸が締め付けられるようで毎回後味が悪かった。苦痛に顔を歪ませる奴らを嘲笑い欲望のままに悪行を繰り返す振りをする。そうやって後先考えずに一生を過ごせたら幸せだったかもしれない。




 一番最初に会ったとき、ラインツは人間の少年だった。まるで生まれたばかりの赤ん坊のように血と涙で顔をぐちゃぐちゃにして泣いていた。



 日が暮れるのを待ち、村の者達が畑での収穫を終え家々に帰る頃、武器を持って奇襲を仕掛ける。いつも通り順調に進んでいると思っていると、家が密集する場所からすこし離れたところからつんざくような大きな悲鳴が聞こえてきた。様子を見に行くと、薄暗い茂みの中で子分達に囲まれた全身泥と傷だらけの少年が左目から血を流し地面に踞っていた。


 俺が来た反対側の茂みの方を小さな影が逃げてゆく。どうやら逃げ遅れたこの少年は子分にやられたようだ。下着のような簡易な服一枚だけを着た裸足の少年は、村の者とも違う風貌で俺と目が合うと悲鳴を上げて転げるよう後退る。


「こいつはなんだ? どっから湧いてきた?」


 子分に問いただすと、村の少女を助けるために投げた石が子分の持っていた斧に当たり、跳ね返ってきた石が己の左目に刺さり今に至るとのことだった。


「こっちの茂みからいきなり大声出して飛び出てきたんすよ、もしかして白痴っすかね?」

「何言ってんのかわかんねえよっオラ!」

「ははっちょっと蹴るだけで変な声出すぞ! そこらの女子供より面白れえ!」


 子分達にいたぶられる姿はなんとも滑稽だった。彼らに混じって唾を吐きながら豪快に笑う。俺は悪逆非道な盗賊だ。そう自分に言い聞かせるように、そうであるように。


「****……っ、**さい……、ごめんなさい……っ」

「……!?」


 意味のわからない言葉に子分達は笑い、俺も一緒になってそいつをいじめた。微かに耳に届く昔聞いたことのある国の言葉での謝罪。

 蹴る、殴る、踏み潰す……


「っ……!」


 軽い眩暈を起こし、心の奥底に押し込んでいたものが脳裏に映った。

 それは遠い記憶、まだ子どもだった自分が暴力をふるわれ必死に痛みに耐えていたこと。屋敷から逃げて、その先でも虐げられたこと。名前も身分も捨て痛みを忘れるために、痛みを克服するために悪行を繰り返す愚かな所業。


 ──くだらない、なんてくだらない人生。


 しばらく子分と遊んでいると、村の周りに妙な気配を感じた。村人や傭兵にしては落ち着きすぎている。嫌な予感がした俺は子分に指令を出す。仕方なく手を引こうとした時、月明りの下に一人の赤い少女が現れた。その可憐な赤い唇から怒りに満ちた言葉が発せられる。


「よくも……こんな酷いこと人がやってはいけない、あなたは狂っているわ」


 月の光に照らされ輝く赤い髪に赤い瞳。その美しさに子分達は一斉に少女のほうへ振りむく。と同時に少女は手に持った何かをこちらに投げつけた。足元に落ちて割れたそれが白い煙を吐き出しあたりを包む。


「……なんだこの煙!?」

「なんだか、眠いぞ……」


 煙を吸った子分達が俺を残し次々と倒れる。夜風が吹き、催眠効果のある煙が晴れると草の擦れる音とともに木の陰からもう一人現れた。聖職者が祭事のときに着る裾の長い祭服姿の男が少女の隣に立つ。驚き焦りを見せる少女を横目に妙に落ち着きのある男が静かに口を開く。


「そこに転がっている者以外の君の汚らわしい仲間はすでに我々の支配下にある。今なら命までは奪わない、投降しなさい」

「ノース司教!?」

「グレタ、いつ君に召喚の儀を行う権利を与えた? まあいい、おおかたヨハネの差し金だろう。あれは少々No.12に入れ込みすぎだ、全く研究者が実験対象に情を向けるなど愚かな男だ」


 ばつの悪そうな顔をした少女は男から目を逸らし、その拍子にはっと気づいてレイヴンに食って掛かる。


「その子を、ラインツを放して!」


 少女の視線の先には気絶している少年がいた。彼も煙を吸って気を失っているようだ。ぼろ布と化した服を掴み、彼らのほうへ投げるように転がす。


「家族か、ほらよっ」


 必死に介抱する少女を一瞥し、司祭姿の男は笑みを浮かべ俺に話しかけた。


「さて。生きているのは分かっていましたが……ようやく見つけました、鍵の主よ」


 急に夜風が冷えたような気がした。


「誰だてめえ? 鍵の主ってなんだよ」

「はっはっはっ、御冗談を。私共は貴方様を探していたのですよ。卑しき伯爵の館から貴方が消えてからずっと……それがまさかこの地に来てくださるとは我々は幸運だ」

「さっきから知らねえことばっかぬかしやがって、うぜえんだよ!」


 心の内を見透かされる感覚にぞくりと肩が震え、背中につうーと嫌な汗が流れる。


「とぼけるのもいい加減にして頂きたい。貴方がかの血族の最後の生き残りであることは明白な事実なのですから」

「あのなあ、仮に俺があんたらの探し人だったとしても俺はあんたらに用はねえんだ。これ以上話し掛けてくるんなら俺は退散させてもらうぜ」


 こいつは確実に俺の過去を知っている。そしてなぜ俺以上に家のことを知っている。 いや、俺にはもう関係のないこと……とにかく正直面倒事に巻き込まれる御免だ。

 レイヴンが素面を装い早々に立ち去ろうと左足の踵と浮かせると、突然足元の地面に六角形の盾のような赤い光が浮かび上がった。


「!!?」


 光に触れている足が動かない。いくら力を入れてもびくともしない謎の赤い光に得も言われぬ恐怖を感じる。額の汗を拭い男を見るといつの間にか奴の左手にぶ厚い本があった。この謎の光と関係が……?


「……これは何か”術”を使っているのか?」

「はあ、どうやら我々組織については本当に存じ上げないのですね、知った上でその被検体を壊そうとしたものかと」


 まるで期待外れと言わんばかりのため息をつかれたが、知らんものは知らん。


「…………せない」


 少女が赤く長い髪を振り乱し怒りを露わにする。


「許せない。ラインツの左目をこんなにして……! この子は三日前に初めて目を覚ましたのよ! それなのに……!」

「グレーテル、止めろ!」


 吊り上げた目で睨む少女が男の制止を振り切り、レイヴンに向けて手を翳し腹部から赤い光を放つ。それは槍のごとく鋭くレイヴンを串刺しにせんとばかりに飛んでくる。くそっ、こんなわけのわからん状況で殺されたら子分達がどうなるか……!


「……ッ!」

 

 そのとき足を拘束していた赤い光がみるみるうちに青白く色が変わっていった。六角形がバラバラに砕けたかと思うと瞬く間にレイヴンと槍の間で再構築を始め、六角形の中に六枚の花弁が現れ花模様の盾が出現した。


「えっ!?」

「なんだこれは……!」


 赤い槍は青い盾に当たり砕け散る。赤い光が消えるころ、青い盾は音もなくすうっと消え去る。

 薄汚れた盗賊の身体から仄かに光る青い光は頼りなくもどこか神秘的でその場にいた全員が目を大きくして見ていた。


「呪文も触媒もないのに……どうして? 貴方何者なの?」

「おお! 素晴らしい! これぞまさしく旧神ノーデンスの力!」

「どういうことだ、この力はなんだ!?」


 それぞれが異なる反応を示す。

 驚く少女の横で目を輝かせる男に視線を向けると確信を得たはっきりとした声で呼びかけた。


「これぞまさに貴方が鍵の主である証拠、その力のことが知りたければぜひ我々に協力して頂きましょうか」

「断る。あんたらは俺を利用したいだけだろ」


 なおも拒否すると、男はまたもやわざとらしく深いため息をついた。


「あまりがっかりさせないでください。……初めて力を使った貴方に我々を退けられると?」

「チッ」


 いつの間にか周辺には大勢の人影が四人を囲んでいた。逃れられないと十二分に思い知らされた俺は、目隠しをされ夜の森の中を歩かされた。

長くなったので二つに分けました。

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