後日談
エルナとトキナーの後日談のようなもの
エルナとトキナーは、シルタッハから南へ進んだ先にあるシュリーツベルク軍の駐屯地への帰路につく。
日が沈み、冷え込んだ山道を二人は進んだ。
トキナーの持つ外灯は歩くのに支障がない程度には足元を明るく照らしているが、ときおり強い風で揺らめいていた。木枯らしが外套を捲り、肩を震わせる。 寒さから気を紛らわそうと、どちらともなく話し出していた。
「これだけ寒いと馬車が欲しいですね……」
「はは、シュリーツベルクの冬はキツイからな。覚悟しておけ」
ビュウッと一段と強い風が吹き、雑木林がざわざわと音をたてて揺れた。
「なんとか雪が降る前に任務を終えたいです!」
「それは奴等の都合次第だな……うちの軍もよくこんな面倒な組織と契約したものだ、後々大事になっても知らんぞ」
言葉とは裏腹に心配顔をするエルナを横目に、トキナーは話題を変えることにした。
「それにしても、今日は久しぶりに隊長と手合わせ出来て楽しかったです!」
「私も、シュナイダー以外と互角にやりあえる人間があまりいないからいい機会だった」
「隊長、こういうときくらい固い言い方しないでくださいよ。普通に楽しかったって言えばいいじゃないですか」
エルナは一瞬立ち止まると、誤魔化すように再び足を動かした。
「これは癖だ、……まあ、楽しかったけど」
やや間を置いて、トキナーのほうを見やる。二試合目の柄頭での打撃は彼の身体が飛ぶほどの威力だったのである。加減はしたが、気掛かりであった。が、普通に歩いている様子にほっとする。
「いいかトキナー。いくら武器を壊したくないからといって、自分の身体を盾に使うな。実戦なら最悪命に関わる」
「反省はしております……、けどこの剣気に入ってるんです。 それに私の一族は身体も武器の一つですから、たとえ本気の貴女でも壊すのは難しいですよ」
トキナーはいたって正直だ。彼が返したその言葉は自慢でも嘲笑でもなく、ただ事実を述べたばかり。エルナはため息をついた。
「私は、部下の命が何よりも大事なんだがな……」
しばらく沈黙が続き、二人はようやく駐屯地の外壁に到着する。
駐屯地といっても、所謂主要都市にあるような街の中心地となる地域ではなく、街と街の境目の関所のようなところである。ここは主にエルナが率いる特殊調査部隊が使用する、規模の非常に小さなもので野球場一つ分ほどの土地しかない。
「私は見張りの者に連絡を入れてきます。隊長は先に戻って溜まっている仕事を減らしてください」
「うっまだあったのか……、了解した」
正面の門から入ると、門番をしていた兵士が縮こまっていた顔をほころばせて出迎えた。
「お勤めご苦労様です! いやあ大変でしたね、あんな辺鄙な村に 連日泊まり込みなんて、しかも依頼人の家でしょう……。でも流石隊長!というか! はははっ!」
こんなんだから、任務の情報をほとんど教えてもらっていないのだ、この男は。いつものことだと割り切ってエルナは適当に会話を繋げる。
「言う程難しくないぞ? トキナーのおかげで結構楽しめたしな」
そう応えると、門番は苦虫を噛み潰したような顔をして目を逸らす。
「ああ……彼、俺ちょっと怖いんですよね……。平凡な顔の癖に武器のこととなると執着、いやこだわりが強くてついていけないっていうか」
「あれでも以前よりずっと大人になったんだ、同じ特殊調査隊の仲間だ、仲良くしてやってくれ」
「まあ、隊長が言うなら……」
歯切れの悪い返事を背中で聞きながら、門を通り過ぎる。すっかり身体が冷えたエルナは早足で宿舎の中へ入って行った。
「部屋に熱いもの持って行くよう言っときますね!」
「ああ、助かる。ついでにトキナーと、お前の分も頼んでおこう」
右手を挙げて合図を送る。
「お心遣いありがとうございます!」
自室へ着くと、エルナは真っ先に外套を椅子に投げ掛け応接用のソファに勢いよく寝転んだ。育ちは良くても大雑把な性格は直せないのが彼女の欠点である。
しばらくして何か思い出したかのように起き上がる。
部屋の中央奥に置かれた作業机の上には書類が小高い山を作っていた。その頂上に鎮座する陶器のコップを手に取り、少しずつ口に含んだ。
「たまには実家のお茶が飲みたいな……」
再びソファに身体を預けると、片手で首回りをつまんで胸元を覗いた。試合で剣を押し付けられた箇所を確認し、痣しかないとわかるとすぐに居眠りを始めた。
翌日の早朝、外で剣を振るっているところをトキナーに見つかり部屋に戻される様子が繰り広げられた。エルナの率いる部隊の隊員達は、その見馴れた光景に皆して笑うのであった。
説明ではなく描写で表現するというのはなかなか出来ないものですね。難しい。




