表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/63

強くなりたい!

 夜明け前、村外れの雑木林を一人の足音が静かに響く。


 木があまり生えていない開けた場所に行き着くとそこで止まり、足音の主を纏う空気が鋭いものに変わった。


 ヴンッと空を切る低い音が聴こえたかと思うと、腰の剣はすでに抜かれて持ち主の両手に握られていた。柄と刀身は銀色に鈍く光り、切っ先に向かって糸のように細い光の直線が走る。

 足を斜めに大きく開き、腰を低く構え縦横無尽に抜き刺しを繰り返し始める。右下からの突きをしたかと思うと腕を退き、手首の向きを回転させて瞬時に上方からの構えに変え、勢いを緩めず今度は左上からの突きに変わる。しなやかな関節の動きが駆動力を落とさず剣術を自在に操る。

 上半身ばかりに目が行くが、足の動きも巧みなものだ。身体の軸を保ったまま円を描くように突きとともに足を踏み出す。死角のない動作はそれだけで威光を放つ。

 微かな月明かりを反射させている剣が帯状の残像を描く様はとても繊細で美しく、薄暗闇の中で金髪の剣士をより際立たせていた。


 木々の陰からこっそり覗いていたラインツは、眠気の吹っ飛んだ右目を輝かせていた。細めて見ても視界はぼやけてしまうのに、最も大きく振るわれる剣先だけはどこまでも鋭く感じた。


 初めて見る剣技は彼にとって未知の世界だった。



 傍らに広がる茂みの奥から僅かに物音が聴こえた。エルナは剣を鞘に仕舞い気配を察すると、その正体に気付いたのか再び剣に集中した。





 エルナが来てから二週間ほど経った頃、いつも通り日課をこなして庭の井戸のそばで汗を拭いていると彼女が訊ねてきた。


「ラインツ、君は毎日同じ鍛練をしているのか?」

「そうですけど、何か問題でも?」

「いや、趣味なら構わないんだが、君は鍛えるために体を動かしているのだろう? ならなぜいつも()()()()()()()()()()()?」


 ラインツには彼女の言葉の意図が理解できなかった。


「どういう意味ですか?」

「うーん、わかっていないようだから言ってしまうか」


 どうやら彼女はせっかちのようだ。


「今君がしているのは体力維持であって、筋力や基礎体力の増強に繋がっていない。毎日同じ道を走っているだけで全く応用力が身に付かず、いざというときにおそらく君は何も出来ないだろう」

「なっ……そんな言い方……っ!」


 なぜこんな言われをされなくてはならないのか、彼は思わず憤慨した。体を拭く布を握る手にぐっと力が入る。


「そう怒るな、単純に工夫がないだけだ。ちゃんと頭を使って努力しろ。そうすれば、少しずつだが確実に成果が出てくる」


 ラインツは苛ついて声が尖っていく。質問もどちらかと言えばただの文句に近い。


「じゃあ、今のままじゃダメなんですか。工夫って、どうすればいいんですか。」

「だから頭を使えと言っているだろう」


 エルナは呆れたように長いため息をつくと、


「わかった、では助言をしよう」


 そう言って、彼女はラインツの右目を見て続けた。


「山登りは日ごとに右周りと左周りの交互にしろ。それと同じ通った道は二度と使うな。それで時間がかからなくなったら例えば片足で登る、目隠しする、など色々やってみろ。とにかく毎日違うことをするんだ」

「それって意味あるんですか?」

「なんだ、文句あるのか。それとも単純作業の繰り返しで満足しているのか?」

「そうじゃない。けど、なんかもっと、ほら、武器の使い方とか色々……」

「君は馬鹿だな。それ以前の問題だと言っている」


  ラインツはついムッとした。そんなにレベルが低いのかと蔑まれているようで気分が悪い。


「石ひとつ投げることすらまともにできない者に剣が扱えるとでも思っているのか? 冗談は死んでからにしろ」


 左目に、内側から潰されるような鈍い痛みが走った。あの夜のことが脳裏に映る。守ろうとしたものを守れず一瞬で自滅した過去。望んだ位置に物を投げるのは今でも難しい。

 自分はいくら頑張ったところで何も成せないかもしれない。諦めたほうがいいのかも…………

 ふと指先に触れた眼帯の感触に懐かしさを覚えた。

 初めて見たグレタの顔を思い出した。それは美しく、光に溢れていた。幸せがなんなのかを教えてくれたグレタの笑顔。


 ラインツは顔を上げ、口を開いた。


「俺は、グレタを守れる強い男になりたい。それで、グレタが惚れるような男にもなりたい。今までずっと世話になってきた彼女に恩を返して、彼女のために強く生きたいんだ」


 彼はもう恥ずかしくなかった。

 己が未熟者であるのはとっくに分かりきっていたことであり、なによりエルナという目標も出来たのだ。やる気はいつも以上にある。


「うん、いいだろう。私も少々この村での生活に飽きていた頃だ。剣術を学びたいのなら好きなだけ付き合おう。ただし、やるからには本気で取り組め。妥協は許さん」

「もちろん本気です。よろしくお願いたします!」


 こうして彼はエルナの指導を受けることとなった。

調べ事をしていたら二週間経っていました……次回から数話にわたり剣術を習う話が続きます。タグに戦闘を入れるか迷ってます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ