05*過去のあたしと 大好きな人
駅の中を、あたしはほとんど彷徨うように歩いていた。
出口付近で待っているかと思って行ってみたけれど、どの出口にも彼らしき人は見当たらなかった。
自販機の前にも誰もいない。浅海線の改札口にもいない。そうなると残るは――
「行きたくないよ」
心の中だけでは足りなかったようで、つい口に出してしまった。
それでもやっぱりあたしは、人を待たせるのは好きじゃないみたい。
自分の意志とは裏腹に、足は星城線の方向へと進んでいた。
少し歩くと、懐かしい光景が広がった。
あれから一度も訪れなかった場所。だけど4年前と何も変わっていない。
と、そのとき、ふと人影を見た。黒のスーツ姿には明らかに似合わない、真っ白なケータイを持って、彼は立っている。
あたしには背中が向けられていて、顔は見えないけれど、ただ一点だけを見つめているようでじっとしている。
「あの、それ……」
話しかけようとしたけれど、突然感じた不思議な何かに、あたしの身体は固まった。
切ないような、温かいような、苦しいような、嬉しいような……。
何だか懐かしいこの感じ。
温かくて大きな背中。そう、よくあたしをおんぶしてくれた。
それは――
「龍ちゃん……?」
ゆっくりゆっくり、その人は振り返った。
「龍ちゃんなの……っ?」
彼の顔を確認する前に 視界が滲んできてしまって、人違いだったらと一瞬焦った。
だけど、
「楓……っ、本当に楓なのか?」
その声は大好きな龍ちゃんに違いなかった。
ケータイを拾ってもらっただけで泣いてしまうような変なヤツだと思われたくないから、頑張って涙を隠そうとする。
それでも上手くいかなくて、しょうがないから舌を出して笑ってみせた。
「遅くなってごめんなさい。居場所が分からなくて、ずいぶん探しちゃった」
「ごめん。会う場所 決めればよかったな」
何よりもあたしを最優先に考えてくれる龍ちゃんが好き。
変わってないみたいで、そんなことだけでも嬉しい。
ただ会えただけ。それだけなのに……。
こんな些細なことだけで泣いちゃうあたしは、もしかしたら本当に変なヤツなのかもしれない。
「いいの。言ってくれる前に切ったあたしが悪いんだから」
受話器を置く前に一瞬だけ、『あ、あの……』って聞こえた気がしたけど、気付いたときにはもう切れてしまっていた。
だから悪いのは龍ちゃんじゃないんだよ。
「ほら あのとき、言ってくれようとしたんでしょ? 『あ、あの……』って――」
「いや、あれはその……」
――もちろん、彼があのとき本当は何を言おうとしたかをちゃんと知ることができたのは、もう少し先のこと。




