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四話 終 Point of No-Return

 それから一日、私達は惨劇の後始末をして一夜を明かしていた。

 はぐれハンターのギルドに任務終了の連絡を送り、近隣の人族の村にも救援の連絡を送った。

 泣き止んだラーナは、目を真っ赤にしながら一言だけ呟いた。


「お墓……」


 私は黙って頷くと、村人全員の遺体を埋める穴を掘った。全員をそこに埋め、分かるだけの名前を墓標に刻み、わからぬ者は遺品を墓標に捧げた。

 マスターから許可をとって、村から外れた森のなかに一つの巨大な穴も掘った。そこにはドラッケン達をひとかたまりにして埋めておいた。

 はぐれを埋葬するなど初めての経験だが、これは『はぐれ』ではなく『友人』の弔いなのだと自分に言い訳をしながら、親友の剣を突き立てた。

 膝をついて両手を地面に着ける。哀悼を捧げていると、背後から女の声が話しかけてきた。


「お疲れ様、シンゴ」

「……ありがとう、チハヤ」


 近づいてくる間、懐かしい匂いに気付いていた。

 ネコマタキャットはしっかりと足音を殺していたが、匂いで気づかれるのはわかっていたのだろう。こちらが自然と挨拶を返したことに少しだけ悔しそうな顔をしていた。


「お前はハンターの偵察隊だろう。私に話しかけて、いいのか」

「あなたの生体反応を追跡する魔法は既に切れてるわ。あなたは死んだことになっている。アタシが派遣されてきたのは」

「私か、ナオトの死を確かめるためか?」


 コクンと頷く彼女の瞳は真剣そのものだ。


「生体反応の追跡など、聞いたことがないぞ」

「学園に入学するような正規の魔族は、全員子供のころにこの魔法を仕込まれているの。本人にも、親にも知らされてないけどね」

「……なるほど。偵察隊が『はぐれ』を簡単に見つけてくるのはそのためか」

「そういうこと。まぁ制度が始まる前に生まれた魔族で、この魔法を受けていない根っからの『はぐれ』はわからないんだけど」


 口調だけはおどけていが、彼女の言葉が真実ならばこの管理社会の裏はどうなっているのか。

 私達は生き死にの数まで正確に管理されていて……。


「だから、ナオトは『はぐれ』になった」


 気に寄りかかりながら、チハヤは己の胸を持ち上げるように腕を組む。

 扇情的な光景だがその下に隠れた爪はおそらく鋭く伸びているだろう。


「魔族は人間に比べて母数が大きい。人間社会とのバランスは保たれているというけれど、その方法はわからない」

「待て。お前はナオトに直接合って聞いたのか?」


 偵察兵は所在と結果の確認だけが仕事のはずだ。


「私を生かして捕らえて、その時全部話してくれたわ。ドラッヘンリッターとして功績を上げ、早めに任期を終えて故郷に帰った彼は、『人間』と『あぶれた魔物』を食い散らかしている同族を見たって」

「だからはぐれになったのか」


 こそこそと不正を享受する者をみかねた。

 潔癖でプライドの高いアイツらしい。


「実際にはぐれとして汚いことに手を染めなくちゃいけなくなって、ナオトのバランスは危うくなってた。だから、あなたを呼び寄せたのよ。自分を見定める試金石として。そして自分が勝ったら、あなたにも……」


 旧友の墓を見つめて、彼女は涙を一筋だけ流した。


「どうして、何も相談してくれなかったのかなぁ。こうなることはわかってたはずなのに」


 私はまったく同じ思いを感じていた。

 涙を流しながら同じセリフを口にしてくれた彼女のありがたさが、沁みる。

 せめて何かを相談してくれたら。

 三人で何かをすることができたら。

 もっと違う方法で………。


 次に何を言い出そうかと考えあぐねていると、遠くでパキッと枝を踏み折る音が聞こえた。


「生存者……?」

「いや、これは……」


 現れたのはラーナだった。



   ●   ●   ●


 彼女は小さな手に、白い花を数輪握っていた。


「ありがとう、ラーナ。こいつらに捧げてくれるのか」

「だいじな、お友達だったんでしょ」


 頷いて、彼女に墓前の位置を開ける。

 親を食った憎い敵に、なぜこんなことができるのか。

 彼女の人生よりも長い時間を過ごした友の記憶が、私の記憶が、彼女の小さな心の中に暗い思いを貯めこませているであろうことに、深い悔恨が生まれる。


 そうだ。

 ナオトの遺志に気を取られていたが、私には忘れてはならないものがあったろう。


「マスター。君はこの後何をしたい」

「わたしは……」

「ちょちょちょっとシンゴ!?マスターって何!?あんたロリコンになっちゃったの!?」


 組んだ腕を揺らして胸を上下に揺らしているのは何の誘いなのだろうか。

 いきなりシリアスな空気をぶち壊した彼女になんと言ったらいいものか。


「違うわ、チハヤ。彼、私のために殺されてくれたのよ。魔物使いの私に」


 魔物使い、の単語を発し始めた瞬間に、私は彼女の前に踏み込んで盾になった。

 気づけば私の喉元に、チハヤの爪が掛かっていた。


「今、なんつったこのガキ」

「落ち着けチハヤ。本当のことだ」

「どーゆーことなのか説明しなさいよっ!!」


 説明した。


「マジなの……あんた私のチャームに一度も引っかからなかったじゃないのよ……やっぱりロリじゃないとダメだったのか……」

「待て。認識の相違がある。お前には後でしっかり説明するから、とりあえず黙っててくれ」


 ガチで凹むバカ猫はほっといて、改めてラーナに振り返った。


「すまん、話の腰を折った。……私はナオトの親友として、君のマスターとして、喪わせてしまった以上の幸福を君に与えたいと思っているんだ。

 だが、私には……戦いに明け暮れる生活しかなかった。君が望むものを想像することもできないんだ。

 だから教えてくれ、ラーナ。君は何がしたい。それがなんであろうと、必ず私が尽力して叶えてみせよう」


 伝わっただろうか。

 無垢だったはずの少女は返り値に塗れ、わけの分からない力を手に入れた。

 彼女が何を願うのか。想像すら憚れる。かといって教えてくれと請うことが正解かもわからない。





 だが、彼女は私に小さな手を差し出して、


「じゃあ、()ってしまいましょ」


 笑った。




「ナオトをおかしくしたものを。シンゴを戦いの道具にしていたものを。私のお母さんが死ななくちゃいけない理由をつくったやつを、倒しちゃいましょう」

「それでいいのか?人間が一人生き抜くくらいの財産、私にもあるんだぞ」

「いいわよ。だって、私も知っちゃったもん」


 私の肩を指差すので、摘んで乗せて肩車をした。

 耳をつかむ手がちょっと強くて痛い。


「お母さんは、帰ってこない。お父さんも」

「………」

「多分、わたしだけじゃない。いろんなところで、こんなことが起こってる。でも、動物を狩って暮らしてたんだから、わたしだって分かってる。食べる側と、食べられる側。

 殺されるうさぎが、すごくかわいそうだった。足が悪くなって、昨日までおんぶしてくれたお馬さんの、死ぬ時の目も見てきた。すっごくイヤで、お母さんも怖かったと思うけど、それはわたしたちもしてきた事なの」


 だけど、


「それを操って、ふんぞりかえってるヤツラは、違う」


 だから、


「だから、私達がやれるところまでやろう。ナオトとは違う方法で、変えていこう。シンゴなら……やってくれるよね?」


 もちろんだ。

 言葉でいうことは容易いが、なんとなく思い出した約束を交わすことにした。

 小指を頭上に突き立てる。握り返してくるのは小指ではなく、手全体だ。


「なにそれ?」


 怪訝な顔をするチハヤに、二人で笑って返す。


「ゆびきりげんまん

 うそついたら

 はりせんぼん

 のーますっ」


「「指切った」」

というわけで、『魔物使い』をテーマにしたモンスターでした。

感想ください。

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