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2つの鬱ゲーがつながった世界で、僕は異常なほど愛されている  作者: 座間あぜん


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第8話 魔法使い:モルガーナ(2)

モルガーナがアルセリオと出会ったのは、まだ幼い頃だった。


彼女は幼い頃から魔法に強い興味を持っていた。火を生み出し、水を動かし、風を起こす。普通の人間にはできないことを可能にする魔法の仕組みを知りたくて、毎日のように本を読み、魔法陣を描いていた。


周囲の大人たちは、そんな彼女を天才だと褒めた。幼い年齢で大人顔負けの魔法を使い、難しい理論まで理解していたからだ。


けれど、モルガーナは自分の才能を特別だとは思っていなかった。知らないことがあれば調べる。分からないことがあれば考える。答えが出なければ、別の方法を試す。それだけだった。


だからこそ、あの日に起きたことが忘れられない。


魔力の流れを調べる実験をしていたとき、測定器に見たことのない反応が現れた。最初は器具の故障だと思った。魔力を流し直し、測定器を交換し、魔法陣も描き直した。それでも反応は消えなかった。


記録を確認しても、既存の属性には当てはまらない。魔力量の問題でもなければ、魔法陣の構造によるものでもない。何度調べても、答えが見つからなかった。


「何なの、これ……」


モルガーナは測定器を持って、反応の発生源を探した。街の外れを抜け、森に続く道を歩いていく。反応は弱くなったり強くなったりしながら、少しずつ彼女を導いていた。


やがて、道の先に1人の少年がいた。


少年は地面に落ちていた小枝を拾い、その先に魔法で小さな火を灯していた。火は風に揺れることもなく、少年の目の前で静かに燃えている。


モルガーナは測定器を確認した。針が大きく揺れている。間違いない。反応の発生源は目の前の少年だった。


「あなた、今の魔法をもう1度使って」

「え?」


突然声をかけられた少年は、驚いた顔で振り返った。


「今の火よ。もう1度見せて」

「これ?」


今度は少年が指先に火を灯す。測定器の針が再び揺れた。


モルガーナは少年の周囲を調べ、魔力の流れを確認しようとした。けれど、目の前にあるものをどう説明すればいいのか分からない。火属性の魔法を使っているように見えるのに、反応は彼女の知っている火属性魔法とは違っていた。


「あなた、名前は?」

「アルセリオ」

「アルセリオ……。ねえ、あなたの魔法について詳しく調べさせて」

「調べる?」

「そう。あなたの魔法、普通じゃないの」

「そうなの?」


少年は自分の指先を見た。特別なことをしている自覚はないらしい。モルガーナが説明しても、彼は自分の魔法が珍しい理由を理解していないようだった。


その反応に、モルガーナはますます興味を持った。


彼女は何度もアルセリオの魔法を見せてもらった。火だけでなく、別の魔法を使ったときにも測定器は反応した。けれど、どの結果も既存の理論では説明できない。魔法の種類を変えても、根本にある何かが同じように感じられた。


でも何が同じなのか、モルガーナ自身にも分からなかった。分からないから、調べたい。調べても分からないから、もっと知りたい。そんな感情が彼女の中で大きくなっていった。




アルセリオは、モルガーナが何度訪ねても嫌がらなかった。実験に付き合い、質問に答え、彼女が納得するまで魔法を見せてくれた。ときには研究の話から離れて、他愛のない話をすることもあった。


気づけば、モルガーナは研究の予定がない日にも彼のもとを訪ねるようになっていた。


「今日は?」

「追加の確認よ。前回の結果に気になるところがあったから」

「そっか。何をすればいい?」

「いつも通りでいいわ」


そう答えながら、モルガーナは彼の隣に座った。


研究のために会いに来た。それは間違いない。彼の魔法はまだ分からないことだらけで、調べる価値がある。


ただアルセリオが笑っていると、研究が進んでいなくても悪い気はしなかった。


その理由について、彼女は考えないようにしていた。研究対象に会いたいと思うのは当然だ。もっと観察したいと思うのも当然だ。自分が彼のそばにいる時間を楽しみにしているのも、きっと研究のためなのだ。


そう考えていれば、何も問題はなかった。彼女は自分の恋心にも似た気持ちに無意識で蓋をしていた。


あの頃は、彼がいなくなることなど考えていなかった。






モルガーナは机の上に置かれた鉱石を見つめていた。


そこにはアルセリオの魔力が残されている。彼が使った魔法の痕跡を遠距離で読み取ることはできた。けれど、それだけでは彼の居場所を特定できない。


魔力の痕跡を追うには、彼の魔力と探知魔法をつなぐための手掛かりが必要だった。


「魔力だけでは足りない……」


モルガーナは自分の血に注目した。


魔力は生き物の身体と深く結びついている。ならば、アルセリオの魔力と自分の血を混ぜれば、彼の魔力を探知しやすくなるかもしれない。ただしそれは、普通の探知魔法ではない。鉱石に残った魔力を読み取るだけではなく、その反応を自分の身体に直接結びつける行為である。


要するに、自分自身を探知器にする。


そのための術式は、すぐ頭に浮かんだ。問題は代償だった。血と魔力を結びつける術式は、身体に大きな負担を与えるだろう。特に、自分の身体を魔法の探知器として使う場合、魔力だけでなく生命力まで消費することになることは容易に想像できた。


つまり、術式を維持するほど寿命が縮む。


モルガーナはそのことをどこかで知っていた。だからこそ、これまで実行できずにいた。けれど、ここにきて迷っている時間はない。


「アルセリオがどこにいるのか分からないまま、待ってろっていうの……?」


彼が生きているのかも分からない。どこかで傷ついているのかもしれない。誰かに連れ去られたのなら、助けを待っている可能性だってある。


自分が何もしなければ、このままずっと彼を見つけられない。


モルガーナは魔法陣の中央に鉱石を置き、その周囲に術式を展開した。続いて自分の血を魔法陣に落とす。鉱石に残った魔力と血が触れ合うと、2つの魔力が反応して光り始めた。


「お願い……。つながって」


モルガーナは自分の魔力を術式へ流した。身体の奥から何かが抜けていく感覚があった。魔力だけではない。自分の命そのものが術式に吸い取られている。


それでも、彼女は魔法を止めなかった。


やがて、魔法陣が強く輝きだした。


鉱石に残されたアルセリオの魔力が、モルガーナの身体へと結びついていく。彼女の魔力と血を通して、アルセリオの魔力を探知するための術式が完成していった。


「っ……!」


激しい痛みに耐えながら、モルガーナは魔力の反応を探った。


遠くに、かすかな反応がある。


「……!?」


反応は弱く、すぐに消えてしまいそうだった。それでも、これまでとは違う。彼の魔力を手掛かりに、遠くにある何かを感じ取れている。


術式は成功したのだ。


モルガーナは荒い息を吐きながら、魔法陣を見つめた。自分の身体に刻まれた探知の術式が、今もアルセリオの現在地を探し続けている。ただし、もう少し時間がかかる。徐々に生命力が削られ、寿命が縮んでいく。長く維持すればするほど、自分に残された時間は少なくなる。


それでも、モルガーナは笑った。


「これなら……、いける」


あと少しで、彼の居場所を突き止められる。


彼女にとって、寿命など惜しくなかった。彼ともう一度話したい。彼を救い出したい。それだけのために、彼女は自分の命を削っていた。

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