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2つの鬱ゲーがつながった世界で、僕は異常なほど愛されている  作者: 座間あぜん


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第7話 魔法使い:モルガーナ(1)

アルセリオが行方不明になってから、数日が経過していた。王都にある魔法研究室。その一室に、モルガーナは閉じこもっていた。


机の上には何冊もの魔導書が積み重なり、床には書き損じた羊皮紙や割れた魔石が散らばっている。空になった薬瓶もいくつか転がっていた。部屋の隅には食べかけの食事が置かれていたが、何日も手をつけられていない。


モルガーナは机の中央に置かれた小さな鉱石を見つめていた。そこには、アルセリオの魔力が記録されている。


彼の魔力を読み込ませ、その反応を手がかりに現在地を特定する。さらに、位置を割り出した場所まで転移する魔法を開発する。それが今の彼女の研究目的だった。


研究を始めるきっかけになったのは、ファティマから聞いた話だった。アルセリオの遺体は見つかっていない。それだけなら、生きているとは言い切れない。だが迷宮の周辺には、誰かが彼を連れ去ったと考えられる痕跡が残っていたらしい。


つまり、彼は魔物に食べられたわけではなく、誰かに連れ去られた可能性がある。


生きているかもしれない。


その話を聞いたとき、モルガーナはすぐに研究室へ向かった。


「生きている可能性があるのなら、探せばいいだけ」


それから彼女は、ほとんど眠っていない。


「……反応が弱いわね」


鉱石を魔法陣の中心に置き、術式を起動する。淡い光が魔法陣を走り、鉱石の表面が輝いた。モルガーナは目を細め、羊皮紙に結果を書き込んだ。


「魔力の識別は問題なし。記録された魔力との照合も成功している。だけど、位置を特定するための情報が足りない……」


彼女は羽ペンを置き、魔法陣を睨んだ。


何度も術式を書き換えているが、肝心の位置情報を読み取ることができない。魔力を識別できても、その魔力を持つ本人とのパスを繋ぐことが至難の業だった。


「探知範囲を広げるだけでは駄目ね。魔力の反応を方向として読み取る仕組みが必要……。それに、距離が離れすぎていても反応できるようにしないと」


彼女は新しい羊皮紙を広げ、術式を書き足した。


その途中、机の端に置いていた薬瓶を手に取る。中身を飲み干し、空になった瓶を床へ放り投げた。眠気を抑え、頭を無理やり働かせるための薬だった。体に負担がかかることは分かっている。それでも、眠っている間に研究が進まないことの方が、彼女にとっては耐えられなかった。


鉱石を再び魔法陣に置く。


「さあ、次よ」


魔法陣が光った。しかし、今回も結果は失敗だった。


「……どうして?」


モルガーナは魔法陣の一部を指でなぞった。


「術式の構造に問題はない。魔力の読み込みも正常。なのに、どうして位置を特定できないの?」


何度も確認する。計算をやり直し、魔法陣の配置を変え、別の魔石を使って試す。それでも結果は変わらなかった。


「おかしいでしょ……。ここまでできてるのに」


彼女の目の下には濃い隈ができていた。髪は乱れ、顔はやつれている。薬の影響か、指先は小刻みに震えていた。


それでも、彼女は研究を続けた。




例のダンジョン、フォーローン・ラビリンス(見捨てられた)での戦いが頭をよぎる。


巨大な魔物を前に、彼女は魔法を放った。炎も雷も氷も使った。遠距離から攻撃を続け、少しでもアルセリオたちの力になろうとした。


けれど、魔物を止めることはできなかった。それはつまり、何もしなかったに等しい。少なくとも、モルガーナの認識ではそうだった。自分は何もしていない。


アルセリオは自分たちを逃がすために残った。彼が1人で戦っている間、モルガーナは何もできなかったのだ。


「私の魔法が、もっと強ければ……」


羽ペンを握る指に力が入る。


自分には才能があると思っていた。魔法の研究が好きだったし、誰も知らない術式を作り出すことにも自信があった。難しい研究ほど夢中になれたし、失敗しても次の方法を考えるのが楽しかった。


だけどそんなことは、アルセリオを救うことに何も役立たなかった。


「……違う」


モルガーナは顔を上げた。


「今の私に必要なのは、後悔じゃない」


彼女は鉱石を見つめた。アルセリオが生きている可能性がある。誰かに連れ去られたのなら、まだ間に合うかもしれない。どこかで助けを待っているに違いない。


「絶対に見つけるわ。何をしてでもね」


そのとき、研究室の扉が叩かれた。


「モルガーナ様。入ってもよろしいでしょうか?」

「駄目よ」

「食事をお持ちしました。そろそろ休まれた方が……」

「いらないわ」

「ですが、もう何日もまともに休まれていません。薬も飲み続けていると聞きました。体を壊してしまいます」


モルガーナの手が止まった。


「……今、何て言ったの?」

「ですから、少し休まれた方がいいと」

「私の体がどうなろうと、あなたに関係ある?」


扉の向こうから返事がなくなった。


「アルセリオがどこにいるのか分からないのよ。生きているかもしれないのに、ここで眠っていろと言うの?」

「そういう意味ではありません。モルガーナ様が倒れてしまったら、研究も続けられなくなります」

「だったら、倒れないように薬を飲めばいいでしょう!」


彼女は机を叩いた。鉱石が跳ね、魔法陣の上を転がる。


「研究の邪魔をしないで! 私は今、彼を探すための魔法を作っているの! あなたたちのくだらない心配に付き合っている時間なんてないのよ!」

「申し訳ありません……」

「謝るくらいなら、必要な魔石を持ってきなさい。それと、魔力探知に関する資料を全部よ。古いものでも構わないわ。使えるかどうかは私が判断する」

「分かりました」

「それから、次に研究を止めようとしたら殺すから」


足音が遠ざかっていく。


モルガーナは深く息を吐き、床に転がった鉱石を拾い上げた。


「まったく……。どうしてこう物分かりが悪いのかしら」


彼女にとって、食事も睡眠も体調も、今はどうでもよかった。


こうしている間にも、アルセリオが何をされているのか分からない。拷問を受けている可能性だってある。そんなことを考え始めると、胸の奥が苦しくなる。


「……早く見つけないと」


モルガーナは鉱石を魔法陣に戻した。


次は探知範囲を広げる術式と、魔力の反応を方向として読み取る術式を組み合わせる。位置を特定できたら、そこへ転移する魔法を完成させる。


まだまだ研究は必要だった。だが、彼女にはやめるという選択肢がなかった。


「アルセリオ、アルセリオ、アルセリオ……」


自分の体が壊れても構わない。必要なら、他人の協力を強制してでも完成させる。


「必ず私が迎えに行くから」


モルガーナは不敵な笑みを浮かべ、羽ペンを走らせた。何度失敗しても、彼女は諦めない。アルセリオを見つけ出すまで、彼女は決して止まらない。

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