第9話 パーティ
神殿を後にしてカンナと連れ立って街の散策に入る。歩き慣れたブランシュの街並みではあるが、記憶にある景色とはところどころ異なっている。
シスター・イルマに説明してもらったデザネクの世界観としては、200年前のある日に冒険者と呼ばれる人間の大量消失が発生。その際に人と魔のバランスが大きく魔に傾いて世界は大混乱に陥った。その混乱を治めたのが天に住まう神々と、新しき眷属神たちであると。
天神アマルティア、炎神グルボルド、水神ドラコニス、地神グランティア、武神ゼルギオス、魔神ニドの6柱が至上の六大神。その下に複数の神々が存在し、最後に人間から神に至った10の眷属神という構成らしい。
世界を平定した彼らは力を回復するために天の座に戻り、また近年魔が満ちてきている、という設定だそうだ。
「200年かあ。全然実感湧かないけど」
「私たちにとっては5年だからね。でもそれだけ経過していてこの街はそこまで変わっていないのもすごいこと」
「なくなってる街とかもあるだろうなぁ」
「はぐはぐ……200年経っても変わらぬ味……。セツナも食べる?」
「行儀悪いぞカンナ。……食べるけど」
途中で立ち寄ったパン屋で買ったサンドイッチに舌鼓をうつカンナ。
デザバス時代から通っていたパン屋が現存しておりご満悦らしい。タマゴとチキンのサンドイッチである。実に美味い。
そうこうしているうちに街の中心部に戻ってくる。プレイヤーの数も多く、呼び込みの声や全体チャットがひっきりなしに流れてくる。
「っと、騒がしくなってきたな。冒険者協会が近くなってきたからか」
「サービス開始初日だからね。パーティメンバー募集に忙しそう」
「カンナはその辺どうするの?女性プレイヤーだし、結構パーティ誘われてたけど」
実際ここまでの道中でも、彼女は3回は勧誘を受けていた。
中身が男性か女性かを問わず、美少女、美女のアバターには声をかけてくるプレイヤーは多い。ましてや黒翼魔と重なる影のキメラの長身女性アバターとかなり目立つカンナである。彼女は特に迷うことなくその誘いをすべて断っていたが。
「……セツナは、どうするつもり?」
「どっか丁度いいところがあればって感じ、だったんだけどなぁ。レガシースキルの件がある以上、ちょっと慎重にならざるを得ないかな」
「じゃあひとまず私と組もうか。私もレガシースキルの問題があるのは同じだし。『四神連合』仕込みで連携も慣れてるからタゲ回しも楽。何より話してて気疲れしない。これ大事、うん。そうしよう」
「お、おう……何故にそんな早口」
「いいから。ほら、パーティ申請出して。はりーはりーはりー」
「わかったわかった……前からそんな感じだったっけカンナ……」
『環七』をパーティに加入させますか?とシステムメッセージが表示される。
「了承、と」
「……よし」
「んじゃまあフィールドに出てちょっと狩る?」
「その前に一つ決めておきたい。狩場でスキルはどこまで使うか」
「初級までなら問題ないんじゃないか? 中級以降のスキルは、緊急の際以外は今後の成長に合わせて解禁ってことで」
「異議なし」
「お、そこのお姉さん! パーティはどうだ? 近接アタッカー募集中なんだが」
またパーティの呼び込み。いかつい男がカンナに声をかける。大盾を背負っているところから見るとタンクなのだろう。
「ごめん。もう彼のパーティに入っているの」
「なるほどお手付き。んじゃあ兄さんも一緒にどうだ? 見た感じどっちも魔法系って感じじゃないし、うちなら術士と神官もいる。この辺の補助もバカにならねえのよデザバスってのはよ!」
そう誘う彼の後方にはパーティメンバーと思しき男女が4人控えていた。
パッと見た感じ、彼の言うように魔術士と神官、それに加えて弓使いと盗賊、或いはレンジャーか。確かに前衛のアタッカーがかなり手薄な印象を受けた。
「俺はゴドー! 見ての通りタンクで、デザバス時代も『岩壁』の通り名でやらして貰っていた! こう見えて結構強かったんだぜ?」
「『岩壁』……ああ、4大陸統一決闘大会で銀星に1回戦で負けた人」
「……知ってくれてるのは嬉しいんだが、あんまり思い出したくないことを。あれは『槍神』が強すぎただけだ。流石にあんなトップ中のトップと比較されると困る」
そのエピソードを聞いて思い出した。俺も決闘での対戦経験があったはずだ。
勝ち負けは正直覚えていないが、記憶が薄いということは面白みのない決着だったのだろう。
「それでどうだい、経験者なら猶更パーティに入って貰いたい。偉そうに術士と神官が居るとは言ったが、俺以外はデザネクからの新参組でね、経験者を募集していたところに俺が入ったはいいものの、まさか全員後衛を選んでるとは思ってなくてな」
「……セツナ、どうする?」
「カンナの好きにしたらいいさ。初心者には優しいもんな」
デザバス時代も、『四神連合』の中で特に初心者育成に力を入れていたのがシンシアとえび転だったことを思い出す。その薫陶を受けた中に俺も入っている。
少し考えた後、カンナは頷く。
「わかった。でも束縛は好きじゃない。あくまで臨時パーティで」
「構わねえさ。別にギルドに入れって訳でもねえんだ。ただそうだな、ドロップ品のルーティングに関してはちゃんと決めておきたい。基本拾ったやつ優先。自分の使わない装備品と消耗品は共有でいいか?」
「私は構わない。セツナは?」
「それでいい。武器種が被るとこの辺面倒なんだよな」
「違いねえ……じゃあカンナとセツナ、早速狩りにしゃれ込もうぜ。どこまで動けるか見ておきたい」
「言ってもブランシュ近郊なら猪と鳥と狼だろうし、7人もいたらただの作業のような気もするんだけど」
「そうだと良いんだがな。よしお前らも付いてきな! 初陣だ!」
盾騎士ゴドー、魔術士ミリン、神官卯月、弓使いB13、レンジャー闇食み。
思わぬ形ではあったが、仲間ができるというのは悪いものじゃない。
大門を抜け、初めてのフィールドに挑む。




