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第10話 戦闘指導

「グラスランドボアは見ての通りイノシシだ。前方への突進以外の攻撃手段はない。だからこうやって引き付けて……避ける!」


ゴドーは突っ込んできたイノシシを余裕をもって回避する。衝突し損ねたイノシシは急ブレーキをかけたように止まり、再びゴドーに向き直り、再度突進の構え。


「上位種になればこの突進のホーミング精度が上がって混戦時には厄介になってくるんだが、今見た通りいちいち向き直ってからでないとこいつは突進ができない!落ち着いて対応すればどうとでもなる!」


追撃の突進を再度余裕をもって躱す。そして今度は向き直る前に大楯で殴りつける。プギュッ、と断末魔を上げてポリゴンの塊となって砕け散るイノシシ。ごくわずかな経験値のリザルト画面と、ドロップ品の表示。生肉2個。


「とまあざっとこんなもんだ。弓のB13はともかく他の3人は今みたいにやってみな!まずはミリン!」

「は、はい!がんばります!」


エルフ耳の魔術士の少女が緊張気味の声を上げる。手に持つ獲物は魔術士初期装備の木の杖。……折れたりしないだろうか。


「ミリンは魔術士だけど、打撃での対処方法でいいの?」


カンナはゴドーに問いかける。ゴドーは不思議そうな顔でそうだ、と答える。


「魔術士、神官等の後衛が一番やられやすいシチュエーションは敵の接近を許した時だ。そうなっちまえば魔法を唱える隙は基本的には無いと考えるべきだろう。特に初心者なら序盤はマナの管理も覚束ないことが多い。だったら最低限の近接戦闘の技術を得ておくのは損じゃないぞ。」

「確かに。私の古巣の魔術士2人も近接戦闘に持ち込まれた時の対処法を備えていた。」


光二郎とふぉーりなーの2人である。光二郎の場合は接近を許した瞬間に自爆魔法と短距離転移の合わせ技による爆殺が常套手段だった。ふぉーりなーの場合はもっと酷く、戦闘状態の彼女に近づいただけで悪酔い、幻覚、脱力、混乱、猛毒の状態異常が付与されるため、状態異常対策がない時点でアウトである。


「え、えいっ!やあっ!倒れろっ……あいたあっ!?」


不慣れな手つきでイノシシをタコ殴りにしていたミリンが反撃を受けて尻もちをつく。本人のSTRが低く、武器も本来近接戦闘用ではないこともあり、倒しきれなかったようだ。


「あっ、これまずい。」


イノシシにマウントを取られ、身動きが取れない状態になっている。このままでは食われる。俺とカンナが救出に動いた瞬間、イノシシの額には矢が3本突き立てられ、そのまま体力を全損する。


「……大丈夫、ミリー?」


俺とカンナが振り向いた先には、慣れた手つきで矢をつがえる浅黒の少女の姿。


「……速いな。B13、初心者とは思えん。」

「バレットでいいよゴドーさん。デザバスは初めてだけど、VRガンゲーなら経験はそれなりに。銃があれば良かったけど、初期ジョブにガンナーは見当たらなかったから、弓を握ってる。」

「助かったよぉバレット。食べられちゃうかと思った。」

「さっさと立つ。ここはまだ戦場。次のイノシシが来る。」

「近接が怖いという話はなんだったんだバレット……。」

「相手が人型ならともかく、動物相手にCQCはちょっと。」


真面目な顔でそんなことを言いながら、少女は遠くにリポップしたイノシシを撃ち抜く。反応して突進で近寄ってくるイノシシに対して無慈悲に矢を射掛ける。半分も距離を詰めることが叶わないまま、イノシシはポリゴンとなって霧散する。まっすぐ向かってくるとは言え、一射たりとも外さないのは流石の一言だ。


「近寄らせなければ、問題ない?」

「まあお前は大丈夫だろう……。次、卯月!」

「お、おお!」


その後は特に問題なく、小柄な男性神官卯月、赤毛のレンジャー少女闇食みも一人でイノシシを狩ることに成功。それを横目に俺とカンナもせっせとイノシシ狩りに励む。


「ところでカンナは前と同じ格闘主体?前世(えび転)から離れる予定みたいに言ってなかった?」

「キメラガチャ大当たりと例のスキルのせいで予定変更。神殿に行く前にさくっと転職してきた。ニンニン。」


両手を合わせて深々とお辞儀のポーズ。実に奥ゆかしい作法だ。


「ニンジャか。」

「格闘適性と闇風幻惑魔法の適性とくれば選ばざるを得ない。」

「フレーバー的にも納得ではあるな……。」


そんな他愛のない話をしながらも、イノシシの討伐数は増えていく。俺が剣の一振りでイノシシを両断すれば、カンナはチョップでイノシシの首を落としている。そこでふと気付く。俺たちを見ている初心者4人の目が得体の知れない物を見る目になっていることに。


「なんかすごいねあの2人……。」

「急所を外さなければあんなものだと思う。矢がもう少し威力があればな。」

「剣は分かるが素手であれができるのは納得がいかねえ。」

「私たちもあれくらいできないとまずいのかな……。」

「あの2人はおそらく例外側だ。……む?」


ゴドーの視線の先、小高い丘になっているところにイノシシが集まってきている。その中心には、他のイノシシよりも二回り以上大きい個体が鎮座しているのが見えた。


「特殊個体、のように見える。出現条件は一定数以上の同種の討伐と見た。」

「どうする、ゴドー。囲んで殴ればやれないことはない。」

「俺とセツナ、カンナの3人なら問題はないだろう。俺たちだけならな。」


ゴドーの言葉はおそらく正しい。デカいとは言え所詮はイノシシ。タンクにアタッカー2人がいれば問題なく倒せるだろう。だが今のパーティはあと4人の初心者を抱えている。バレットを別枠で換算しても3人。取り巻きのイノシシは飾りではないだろうし、躊躇なく襲ってくるだろう。


「アレに挑むか、放置するか。お前らの意見も聞きたい。」

「私は怖いです……あんなにいっぱい。」

「私は挑むに一票。この手のボーナス敵は良いものを落とす。」

「いざとなれば回復もするし、俺も挑みたいかな。」

「せっかくだし、当たって砕けても良いと思う。」

「賛成3、反対1、じゃあ挑むか。後衛組は取り巻きのあぶれたやつを頼む。」


オブジェクトネーム、グラスランドキングボア。敵意の視線が注がれる。

突進が津波のように押し寄せてきた。


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