第48話 騎士オルエッタ
結論から言うと、戦闘自体は呆気なく終結した。船に纏わりついていたカニ型モンスターの群れは、先行したバレットと彼女に運搬されたエタニティが、こちらの船が辿り着くまでに片付けてしまったらしい。
しかし驚くべきことに、彼女らが参戦するまでの間、船の乗員のたった1人がモンスターの相手をしていたというのだ。
ミドラ皇帝に仕える騎士の1人であるという彼女と、俺は今向き合っている……いや、見下ろされているというのが正しいか。重厚な金属鎧に身を包み、その顔もフルフェイスの兜で隠されていることもあり、相対している俺に降りかかる重圧はカンナのそれ以上だ。
「冒険者の方々のご助力、心から感謝します。私は皇帝の剣、オルエッタと申します。貴方たちが来てくださらなければ、陛下の大切な人民に被害が出るところでした」
「俺はセツナ。一応、この船の冒険者のリーダーと言うことになります。……最悪の想定でも被害が出る、で済ませる貴女も中々にお強いですね」
「そうでなければ騎士足りえませんので。しかし助かったのは本当です。私の生存はともかく、他の人々はそこまで頑丈ではないので」
そう胸を張る彼女のレベル表記は66。今までに遭遇したNPCの中では2番目の数値である。なんで始まりの街のシスターの方が高いのかは置いておく。
彼女の後ろでは、船員が積み荷の確認や、船の損傷への対処に追われている。彼女の奮戦によってのものなのか、明らかにカニの攻撃によるものではない損傷箇所が散見される。しかし彼女の手には何も武器らしきものは握られていない。カンナのような素手殴り勢なのだろうか。
「素顔を晒せないことについてはご容赦を願います。少々事情があり、貴公らの迷惑になってしまうので」
「構いませんよ。つい先程まで、特に事情が無いのに、仮面を外さない知人と同行していたくらいです」
「それはまた……奇特な方もいるものです。事情がなければこんな兜など早く脱ぎ捨ててしまいたいくらいなのに」
思ったよりは話しやすい相手らしい。鎧のまま簡素な椅子に腰かけ、それをきしませる。デザバス時代のクロエ、そのアバターデザイン変更前のものは、鎧姿で非常に動かしづらかったのを覚えている。それを考えると彼女の所作は非常に自然だ。
「貴公らも皇都へ向かうつもりの船旅を?」
「そのつもりです。おそらく、同じような冒険者が、今後皇都へと詰めかけることと思います。クィリナス沿岸に巣食い、出航を阻んでいたモンスターを今日討伐したので」
「そう……200年前に一斉に消息を絶ったという超常の種族、冒険者。まさかこの目で拝めるとは思っていませんでしたが、思ったよりは会話が通じて助かります。ところどころ魔の物を感じる佇まいをしている者も見受けられますが」
「あー……自身の生まれについてはあまり各々分かっていないので、自分から標榜している連中以外はそっとしておいてやってください。自分も雪魔精の血が入っていますが、その恩恵にあずかったことはないですし」
カンナは絶賛その黒翼魔由来の飛行能力を有効活用しているし、ヤミも火竜人由来らしい熱探知が探索時に光る。それに比べて現状の俺は、雪魔精の混人種である有難みが薄い。ジョブ選択の1枠分くらいは役に立って欲しいところなのだが。
「何かの混じり者であることは見た目からして分かっていましたが、なんとまあ希少な。それなりに世界を巡った私でも見たことがない種族です」
「まあ、俺の記憶が正しければ、北大陸の霊峰、ミルス大山脈の頂上から基本降りてこない種族ですからね……」
「なるほど、そうでしたか……ん?」
オルエッタの視線――いや、表情は見えないので兜の傾きで判断したのだが、その先で船員が作業を終了したのが見えた。特に航行には問題がなかった様子だ。
「さて。貴公らさえ良ければではありますが、皇都ミドラでお礼がしたい。我々の船が先導するので、ついてきていただけますか?」
「だってさエタニティ。俺は特に異論はないが、お前はどうだ」
俺の横で無言を貫き、話しかけるな、と言った様相の笑顔で聞いていたエタニティに問う。NPCにすら人見知りが爆発しているらしい。ぎこちない笑顔を保持したまま、こちらの問いかけに対して答えが返ってくる。
「わたくしは特に異存はありません。ですが他の皆さんの意見も募るべきかと」
「そうだな。少しだけ待っていてくれオルエッタさん。他のメンバーの方にも一度確認しておきたい」
「構いませんよ。それではその後に答えを聞かせてください。私はここで少し仮眠を取って待っていますので」
そう言い残すと、彼女の名前、レベルの横に睡眠の状態異常が浮かぶ。あまりに就寝までのラグが無さすぎるが、孤軍奮闘による疲労があったのだろう。
静かに肩を上下させる彼女を見て、エタニティの顔が少しひきつっている。
その後まもなく、全員一致で同行することが決定した。




