第47話 見張り台にて
「バレット~、何か見える~?」
「遠くに島と言うか陸地は見えるんですけどねー。ぜんっぜん近付いてる気がしませんけど。いくらなんでも広すぎなんじゃないですかこの川ー?」
「対岸に着けば皇都ミドラは目と鼻の先だ。見た目には遥か遠くではあるが、大河船の航行速度は速い。あと1時間としない内に到着するはずだ」
「景色が変わり映えしないのが問題ですね……。道中の敵こそ強いですが、出現頻度としてはブランシュ近郊の平原よりも少ないですし」
「湧きの頻度は、範囲内のプレイヤー人数によって左右されるからねえ。クィリナスから出た大河船も現状ぼくら含めて3隻しかいないし」
クラーケンを倒し、そのまま当初の目的であった船旅へと漕ぎ出した俺たち、『アフター・グロー』の面々は、現在すさまじく暇を持て余していた。
先ほどの戦闘で疲弊しているのもあるが、気が抜けているのである。
事前に警戒していた水棲モンスターは確かに強敵ではある。しかし些かこちらの戦力が過剰なのだ。
空中から常に索敵、警戒、先制攻撃が行えるバレットに加え、熱探知能力があるヤミ、氷魔法で足場が作れるユークリッドと、基本的に先手を取られる恐れがない。危なかったのは、危惧していたクジラ型のスポーンだが、湧いた瞬間に進路を変えてやり過ごせたので、事なきを得た。
「ちょっと休憩~。セツナさん構ってください~」
「おう、お疲れ。悪いな、無限に飛べるからって便利に使っちまって」
「飛んでること自体は気持ちいいし、ここまで来てまた船ごと沈められましたじゃシャレになりませんからねー」
マストの見張り台で物思いに耽っていたところに、バレットが降りてくる。デザバス時代から飛行スキルにはとんと縁がなかったが、こうも自由に飛んでいるバレットを見ていると、少し羨ましくもなってくる。
そんな俺の視線に気づいたのか、バレットの口元がにたあっと歪む。
「んん~? やっぱりセツナくんも飛ぶのには憧れちゃいますか~?」
「うわ出た……そんなんじゃねえよ。ただ、俺もそんな風に飛べたら、バレットばっかりに負担掛けなくてもいいのかなって思っただけ」
「おお……なんというかシンプルに気遣われてて、お姉さんびっくりしちゃった。別にそこは適材適所? って感じでそこまで気にする必要ないと思うんだけども」
「いや……なんというか、ギルドマスターなんて地位になってみて思ったんだが、俺ってなんかそういうポジションねえなあって」
「と言うと?」
「バレットの飛行能力はおそらく、現状でのこの世界において唯一無二。カンナやエタニティのアタッカーとしての才覚は俺なんかよりずっと上。ユークリッドは高位魔法アタッカーとヒーラーを両立して後衛の要、ゴドーはタンクの技量もそうだが集団を纏める能力がある。俺が明確にポジション取れるのって、ミリンや卯月、ヤミたちルーキー組に対して、デザバスでの経験があるというだけだからな」
「そんな難しく考える必要ないと思うんだけどなぁ……」
デザバス時代、そんなことは考えたことがなかった。『四神連合』加入前は自分の事だけで良かったし、加入後も基本的に銀星に従っていれば失敗は無かった。
しかしこちらでギルドを纏めるとなれば、嫌でも自分と他人を比較しなければならない。適材適所と言ってしまうのは簡単だが、自分に適した場所が見当たらないのが喫緊の課題である。
「セツナくんは頑張ってると思うな? 少なくとも私はキミに誘われるまで、どこかのギルドに所属するなんて選択肢はなかったし。多分ゴドーさんがギルド作るって言ったとしても、ミリンが入るって言わなかったら私は入らなかっただろうし」
「……ヨルに釣られたんじゃ」
「いやぁ流石にそれはセツナくん、お姉さんをナメすぎじゃない? そりゃあ確かにヨルちゃんは可愛いけどさぁ、自分の身の振り方をマスコット1つで左右するほど子供じゃないよ?」
「……ごめん」
「そこで謝っちゃうのが可愛いんだよなぁ。ほら、現に私は今ここにいるよ。怒ってない怒ってない。初心者なりにこの世界に喰らい付こうかとも思ったけど、やっぱりちゃんと強い友達が近くにいてこそ、強くなれるからさ。それじゃ、お姉さんまた飛んでくるよ~」
けらけらと笑い、空へと舞い戻るバレットを見送る。2人きりになると偽姉ムーブをしてくるのが問題だが、やはり良い人ではあるらしい。
なんとかして酷使している分の恩を返したいところではあるのだが、やはり考えが浮かばない。
「銀星なら、もっと上手くやれるんだろうな……。シンシアなら、レイダーさんなら……ヴォイドなら……ええい、やめだやめだ!」
1人で警戒と監視をしているバレットを気遣って見張り台に登っていたが、こんな余計な事ばかり考えていたのでは、監視ですら役に立たない。気晴らしに降りて釣りでもしようか、とマストに手をかけた時、真上からバレットの声が降ってきた。
「進行方向に船が1隻! モンスターの襲撃を受けてるみたい! どうする!?」
「サイドクエストっぽいな……今のこっちの速度だとどれくらいで合流できる!?」
「5分とかからないと思う! 助けるって方向で良い!?」
「その方向で。全員聞こえてるな! これより推定NPCの船の救助に向かう! モンスターとの戦闘は不可避、総員戦闘準備を頼む!」
見張り台から下へ指示を出しつつ、備え付けられている望遠鏡を覗く。段々と距離が狭まることで視認できるようになってきた。
襲われている船の帆に描かれた紋章、それは紛れもなくミドラ皇帝の物。
乗っているであろうNPCには悪いが、個人的にはありがたい。戦っている間は余計なことを考えなくて済むから。
接敵まで、あと僅か。




