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Desire Verse Online Next ~悪童と呼ばれた剣神、次の世界では悪目立ちせずに過ごしたい~  作者: 廿楽
第二章 『アフター・グロー』

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幕間.03

「サンダーバードが初日でやられちゃったのに関しては、まあ納得するよ? あんまり強すぎるのが最初のエリアボスだとプレイヤーが嫌がるからね。でもクラーケンは違うでしょ? この段階で倒されるような設定にはしてないでしょ千代路(ちよじ)。想定よりちょーっとばかし早いんじゃない?」



 デスクトップPCのモニターを眺めながらエナドリを煽る女。何日目の徹夜か分からない疲労を、強引なカフェインと糖分で捻じ伏せる。

 生来のキツい眼差しが、いよいよ視線だけで人を殺せそうな領域に到達しそうなこの女こそHamal Gamesの中核。

『Desire Verse Online Next』のエグゼクティブプロデューサー。

 泡瀬(あわせ)涼音すずねその人である。



泡瀬(あわせ)……お前の言う通り、サンダーバードに関しては想定通りだ。最初のエリアボスくらいノンストレスで狩れないと、今どきのプレイヤーは取り合ってくれない。それに、残光持ち複数名を相手にしてこの討伐時間ならば、サンダーバードも本望だったことだろう。しかしクラーケンに関してはそうだな、確かに想定を超えられた感はある」



 彼女の呟きに声を返したのは、無精髭が伸びっぱなしの男。こちらもまた徹夜行軍を押してこの場に立ち続けている。

 メディア嫌いを拗らせている泡瀬(あわせ)に代わって、制作発表の場には基本的に彼、千代路(ちよじ)(おさむ)が顔を出す。

 『Desire Verse Online Next』のチーフディレクターであり、ゲーム内のNPC、モンスター、システムのAI全ての基礎を作り、育んだ怪物。



「その残光だよ千代路(ちよじ)。そりゃあグランドクエストの進行率40%で終わったデザバスを考えれば、こちらからのテコ入れが必要なのは理解する。しかし特定一部の過去作プレイヤーを優遇するというのは、運営として間違いじゃないの」


「仕方がないだろう。上のオーダーはこのゲームを、破綻前にクリアさせることだ。10年かけて4割も終わらなかったこのゲームをだ」


「結局のところ、5年メンテしてもどうにもならなかったからねぇ。本当にあるのかも分からないじゃない、そんな致命的なバグ」


「明らかに俺が設定していない値を吐くんだから、バグ自体はどこかにある。おそらくグランドクエスト周りだ。それがどんな物か分からんのが問題だが。これならまだヨルムンガンド周りのバグくらい明確であった方が楽だったのに」



 千代路(ちよじ)は苦々しく呟く。自分の作った世界が、自分以外の法則で動き始めたのが、『Desire Verse Online 』のサービス終了の1年前。

 それに気付いた彼はあらゆる手を尽くし、時にはゲーム内へスーパーアカウントによる介入すら行って是正を試みたが、全て空振りに終わっている。



「ヨルムンガンドはもうその血族も含めて全員がロストしている。心の芽生えたAIなどという希少なデータを、こちらで確保できなかったのは非常に手痛い」


「終わったことを悔いても仕方ないわ。今はそれよりもクラーケンよ。アレが落ちたってことは皇都が開放されちゃってるじゃない。まだイベントフラグが育ち切ってないでしょう」


「1か月は保ってくれる予定だったからな。初週で落とされるとは流石に予想外だ。推奨レベルを20台にしていたのだがね」



 ブランシュ近郊に配置した4体のエリア守護、その中でも最強の設定を施したのが水底のクラーケンだ。ドラコニス水系というホームグラウンド、船上という足場の悪さ、水中での速度バフ等も含めて明確に序盤の壁として作ったのを、地上に引きずり出した上で遠距離主体で削られるのは思うところがあるらしい。



「ログを確認するにレイドの平均レベルは10前後。話が戻るけど、残光持ちがやっぱり過剰じゃないかって思うのよ。今回に関しても『拳』、『癒』、『剣』、『穹』の4人がいなければまず勝ち目は存在していない。あんたチート肯定派だっけ?」


「冗談を言うな。残光は確かに一般スキルとは一線を画しているが、チートと呼べる程の物ではない。アズュールの残光だけは流石に1人で打ち止めだが」


「レベルで速度、旋回精度の上限が解放されていくとはいえ、デフォルトで無限飛行はチート以外の何物でもない。他の飛行スキル側を調整する羽目になってまでやることかね」


「反省はしている。だが1人のストラトプレイヤーとして、妥協は出来なかった」


「これだから廃人はよぉ……」



 千代路(ちよじ)の思い付きによる調整の尻拭いは基本的に泡瀬(あわせ)の仕事である。しかしこんなのでも業界で右に出る者のいない天才なのだから仕方がない。エグゼクティブプロデューサーなどという偉そうな肩書は、彼を見出した褒美のようなものだから。



「しかし、サンダーバードに続きクラーケンの討伐にも関わっているとなれば、この『拳』と『剣』、『穹』の3人は実に有望だ。1つのギルドに4人も残光持ちが集まっているというのは、目が届きやすくて良い」


「私個人としては『槍』の彼が勇者のポジションとなって、攻略の最前線に出てくると思っていたのだけれど。わからないものね」


「『祭』ともどもログインは確認しているが、デザバス時代を知っていると随分と大人しいものだ。見たところ今はひたすらレベリングに励んでいる」



 千代路(ちよじ)(きびす)を返して部屋を出ようとする。泡瀬(あわせ)も大きく伸びをして椅子から立ち上がり、それに追随する。



「一度仮眠を取る。起き次第、皇都のイベント関連フラグの前倒しと、軽いものを2,3個追加する。平和なだけではプレイヤーもつまらんだろう」


「追加するのは良いけれど、私がチェックしてからにしなさい。そのノリで生やしたイベントがまともだった試しがないのは、デザバス時代に何度も経験済です」


「善処はする」



 2人が去った部屋、泡瀬が見ていたモニターに1つの通知が映る。スクリーンショット付きのメールのタイトルは『見つけた』の一文。

 そこに映るもの、それは倒れたモンスターに群がる蟲の姿をしていた。

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