第5話 解散、そしてサービス開始5分前
「『四神連合』の再結成はしない……ってどういうことなの銀ちゃん!」
語らいの中で突如としてシンシアが銀星を咎める。それを聞いた他の面々も銀星の言葉を待っているようだ。
「主に君のスケジュールのためではあるのだけれどね。5年前と比べてこちらでの忙しさが比にならないのは君も感じているだろう?それに他の面々のライフスタイルも変わっているだろう」
「そうだけどぉ……。時間合う時だけでも一緒にやれる寄り合いで良いじゃん……」
「『四神連合』のネームバリューが少し大きくなり過ぎていたということもある。ただでさえ公式のエンディングイベントのラストを乗っ取ったような形になってしまって、それをよく思っていないプレイヤーも少なからず居たからな」
銀星の言ったことは事実だ。イベントMCだけならともかく、俺の挑戦中継がまずかった。
純粋に応援してくれたプレイヤーも多かったが、ハイレベル層、特に廃プレイヤーと呼ばれる連中にとっては俺のようなガキが神に挑む、ましてや勝ってしまうのを見せつけられるイベントがゲームの最後の思い出になるなど面白いものではなかったのだろう。
「君がVストリーマーのシンシアとしてかなり世間的に知名度が上がってしまっており、同じギルドを結成した場合、ゲーム内での凸行為も想定される。勿論、俺や他のみんなに関しても同様だ」
当時のクロエであれば、レベルやスキル、装備の質もあって多少のPKに絡まれても撃退できる自信はあった。しかし次の世界での俺は他のプレイヤーと同じレベル1からのスタート。人数の暴力を跳ね返せる自信はない。まして有名女性プレイヤーへのその手のハラスメント行為は悲しいことに横行していたのだ。
仮にふぉーりなーとえび転にそんなことをしようものなら、本人に瞬殺された後に監獄行きになったのだが。
「そこで一つ提案がある。正式名称『Desire Verse Online Next 』と題される新世界に参加する際、これまでの自分とは方向性の違うキャラメイクをしてみないか。過去作とは違う生き方をしていれば、無用なトラブルはいくらか避けられると思う」
「ちょっと銀ちゃん!それって私はどうなるの!?」
「シンシアに関しては配信の際にバレるからもう開き直る。凸については俺が銀星としてカバーしよう」
「でもよ銀さん、それって銀さんでも危ねえんじゃねえのか。無敵のチャンプでも『槍神』でもないんだぜ次のデザバスじゃあ」
光二郎が口を開き、俺の不安と同様のことを指摘する。他の面々も口には出さないが頷いている。
「なに、レベルが1になっていても経験が失われたわけじゃない。こちらでも荒事には慣れていてね、不本意ながら」
「銀ちゃん本当に引くほど強いのよね……」
ゲーム内での銀星しか知らない俺だが、彼の強さに関しては絶対的な信頼がある。
ギルド内での模擬戦ですら、彼の敗北を見たことがない。ゼルギオスのソロ討伐でさえも彼の失敗は1度きり。それもクエストの規定時間オーバーによるものだったのだから。
「そういうわけでだ。俺はシンシアからは離れられないが、ギルドという形は取らずに活動する。君たちも好きなように活動を続けてほしい。三国くんには俺から連絡する。無論、君たちで新たにギルドを作るというのであれば止める権限は俺にはない」
「私は……銀ちゃんにおんぶにだっこだから、ごめんね。寂しいけど、会えなくなるってわけじゃないもん」
沈黙が場を支配する。俺としても何の疑いもなくこのメンバーでまた遊ぶと思っていた。それが俺の悪目立ちが原因の一翼を担って全員に迷惑をかけていると思うと、申し訳なさで顔が上げられなかった。
「……クロ坊だけのせいじゃない。そもそもあの中継イベントだって考案したのはシンシアで、ゴーサインを出したのは銀星だ。あまり背負い込まない」
「えびさん……でも、俺」
「気にするなよクロ。お前の件がなかったとしても、なんだかんだ俺たちトッププレイヤーってのは妬み嫉みの対象になりやすい。決闘ランキングの順位発表後なんか大抵光二郎は闇討ちされてたし」
えび転に続き、シフォンも肩を叩いてくれる。普段は口の悪い彼がこんなに優しいのは初めて見たかもしれない。
「そーそー。全部返り討ちにしてやったけどな! と言うか、ふぉーりなーや銀さんにも挑めや腰抜けどもめ……今思い出しても腹立ってきたわ。ぶっちゃけ俺舐められ過ぎじゃねえ?」
「その調子で各方面に中指を立ててからでは? 『悪童』の名前は君に譲渡すべきだという声もあったんですよ光二郎」
「嘘だろレイダー……。まあそれは置いといて、クロばっかりが悪いわけじゃねえさ!俺も悪い!口ばっかり達者な雑魚どもも悪い!責任は分散させるに限る!」
「言い回しはともかく私もそこは同意見です。クロが責任を感じる必要はありません」
「レイダーさん……光二郎さん……」
光二郎はガハハと笑って、レイダーはサイバーグラスにサムズアップを浮かべ、俺を見ていた。
「まあねぇ、お姉さんも正直5年前と比べたらお店も忙しくなってるし、昔と同じペースでは遊べないとは思ってたからさぁ。これはこれで良い機会かもしれないねぇクロエくん」
「クロちゃんと離れるのは悲しいけど、ずっとお別れってわけでもないから! またいつか一緒に冒険できるから!」
「クロエ、お前がそこまで『四神連合』に愛着を持っていてくれて俺はとても嬉しく思う。シンシアが半ば強引に加入させてしまったということもあってこちらとしてもどこか申し訳なさもあった。だけど今のお前なら、安心して送り出してやれる」
「ふぉーりなー……シンシア……銀星……」
寂しいのは俺だけじゃない。みんな同じはずなんだ。でも俺がこうやって俯いてるから、気を遣わせてしまっている。それがまた悔しかった。
こんな良い人達と離れることが怖かった。
「……いい時間にもなってきた。ここらでお開きとしよう。そして宣言する」
銀星が手に持ったグラスを高く掲げる。シンシアも、ふぉーりなーも、えび転も、光二郎も、レイダーも、シフォンも、同じように掲げる。
俺も目元を拭って、グラスを手に取る。
「『四神連合』は今日ここに解散する、だが俺は忘れない。共に歩んだ日々を、共に見た景色を、共に掴んだ栄誉を。これからの全員の行く道に幸多からん事を願っている。またいずれあの世界で会おう!」
掲げたグラスを打ち鳴らす。一つの歴史がまた終わった。
そして月日は流れ。20歳になった俺はその瞬間を待っている。
「いよいよだ。『Desire Verse Online Next 』。」
頭に装着したVRセットには既にゲームカードはダウンロードしてある。ベッドに横たわった状態で、目の前のゲーム開始を今か今かと待ち焦がれている。
結局あの後、ギルドやパーティを組むのかという話し合いの結果、ギルドの新規立ち上げはしない、各々好きなようにやる、ということだけが決まった。
しかし数日前にえび転からせめて最初だけでも組まないかと誘いを受けた。特に断る理由もなかったので了承。ログイン後に最初のホームタウンで待ち合わせということになった。
時計のカウントが非常に遅く感じる。たった残り5分が待ち遠しい。
「そういや、えび転がどんなネームと見た目にするか聞いてない」
どうせアドレスはVRセットのアカウントのものだからそこまで困らないか、と思い直す。
カウントが進む。灰色に染まっていたゲーム開始の表示が、今点灯する。
「ダイブ・スタート」
その音声認識と同時に、意識が電脳に落ちていく。新たな世界は、開かれた。




