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Desire Verse Online Next ~悪童と呼ばれた剣神、次の世界では悪目立ちせずに過ごしたい~  作者: 廿楽
第二章 『アフター・グロー』

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第44話 型に嵌める

 開始から5分、前回の挑戦とは打って変わってまともな戦闘が成立していた。現状脱落者はタンク組でダメージコントロールをミスった1人のみ。一方クラーケンのHPバーは既に前回とほぼ同等の70%ラインを割った。



「水中に逃げられない、水中に叩き落されない、これだけでこんなにも違うか!」


「モーションはところどころに危険なものがありますが、一度見ているお兄様がここにいるのが運の尽き、と言ったところでしょうか。お兄様の速度で対応できるものなら問題なく対処できます」


「打撃の通りが悪いのはやや厳しいけど、今の私は格闘だけの女じゃない」



 カンナは腰のポーチから、苦無(クナイ)を抜き打ちの要領で投擲する。触腕に突き刺さるが、ダメージは非常に微量。しかしこれはただの投擲による攻撃ではない。



「忍術初級スキル、雷遁・落雷」



 突き立った苦無(クナイ)に雷が着弾し、触腕を焼け焦がす。


 あまりにもカンナのこれまでの戦闘スタイルが、前世であるえび転をなぞったものであったため、俺も正直忘れていたのだが彼女の今の職業はニンジャである。その本領は鍛え抜かれた格闘術だけでなく、多彩な忍術にある。



牙刃丸(キバマル)の情報通り、雷属性の通りはかなり良い。これならバレットのパートは無双かもしれない」


「そろそろ向こうの触腕も落ちるだろ。こっちも合わせて落として、いよいよ本体とご対面ってわけだな」


「その前にセツナの(かたき)の高速触手だけどね。基本的には大河船を拘束するための物みたいだけど、セツナが成すすべもなくやられるくらいには速い、と」


「成すすべもないとは失礼な……1本を全力で回避してたら、急に3本に増えてどうにもならなくなっただけだ」



 冗談抜きであれはどうにもならなかった。

 一度見ているとは言え、3本以上は対応できる気がしない。

 無理な部分はエタニティに任せる。あいつの反応速度は俺の比ではない。



「次の一撃でおそらくこちらの触腕は落ちます! 各自備えてください!」



 そう叫んだエタニティの斬撃が触腕を切り飛ばす。見るともう1本の触腕もほぼ同時にポリゴンへと砕け散ったのが見えた。(おぞ)ましい悲鳴ともつかない奇声が水中から轟き、砂浜へとその巨体を乗り上げさせた。



「今です! バレットさん以下、遠距離部隊は全力で火力を本体へ集中! 触手の射程外から大きい的を撃つだけの簡単なお仕事です!」


「簡単に言ってくれちゃってまあ。でも的が大きすぎてイージーではあるよね」



 クラーケンの後方、大河船から飛び立ったバレットの弓が(きら)めく。サンダーバードの性質を色濃く受け継いだその弓から放たれた矢には雷属性が付与され、一切の容赦も無くクラーケンの体を穿つ。それを皮切りに船からは炎、氷、雷、矢がクラーケンへと降り注ぐ。


 牙刃丸(キバマル)から得られた情報の中で最も重大なもの、それはクラーケンの攻撃手段の少なさについてだった。サンダーバードにしてもヘビーリザードにしても、遠距離職を(とが)める長射程の攻撃を持っていたが、クラーケンにはそれがない。あくまで触腕、触手の届く範囲が奴の間合い。


 触腕を失い、その報復としての触手が前衛である俺たちに向けられている間、遠距離部隊はノーリスクで本体にダメージを通せる。


 水中への退避を封じ、こちらの水没を防ぎ、遠距離攻撃を通す状況を作る。この三本柱を成立させるためのプレイヤーを餌とした釣りによるヘイト管理からの越境、上陸。全てがこのボスを確実に殺し切るため。殺され続けてきた男の執念の策であった。



「遠距離部隊が本体を殺し切るまで触手を耐えきれば勝ち! こっちからの攻撃を考えなくて良いのなら、楽なもんだ!」


「とは言えボスなら1割の赤ラインでの発狂があるはず。このペースだと、後数分もしないうちに発狂が始まる。ここまでキチッと型に嵌めたんだから、最後にケチをつけさせない」


「ああああああああ! ストレスで死にそうです! 斬っても良いですよね!? 耐えるだけの持久戦は嫌いなんです!」



 クラーケンよりも先にエタニティがキレた。

 殺到してくる触手に対して回避、防御でなく迎撃を選択し、3本もの触手を相手に切り結んでいる。自分との才能の差に、思うところが無いと言えば嘘になるが、ここで彼女が万が一にも脱落しようものなら、戦線の一翼が崩壊する。それだけは回避しないといけない。



「落ち着けエタニティ! こっちで無理をする必要はそこまでない!」


「3本までなら対処できます! このまま斬り飛ばしてしまえば!」


「HPバーを見ろバカ! もう赤だぞ!」


「――ッ!」



 エタニティが触手を弾き飛ばした瞬間、クラーケンのHPバーが赤く染まる。無機質なクラーケンの目が、こちらを視線から外したような気がした。



「まずい、バレット聞こえるか! 発狂に入った、何かしてくるぞ!」



 俺のメッセージが届く前に、後方の大河船へと何かが襲い掛かる。

 それは一条の漆黒の斬撃。体内で超高圧に圧縮された体液がウォーターカッターのように大河を、船を、プレイヤーを、空中のバレットまでを両断した。



「――ゴメン、油断した!」



 バレットの謝罪の断末魔。

 彼女を含めた複数人のプレイヤーが同時に全損し、砕け散ったのを見た。


 残り1割まで削ってなお、このボスの殺意は衰えていない。

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