第42話 作戦会議
「いやぁ面目ない……ぼくの魔法がもうちょっと強度が高ければなぁ」
「ユークリッドは悪くないさ、アイスグラウンドで凍らせること自体は、作戦としては間違ってなかったんだから。ただちょっと出力が足りなかったが」
「それに関してはレベルの問題かなぁ……残光スキルのおかげで使えるとはいえ、魔力も足りなきゃ維持のためのマナの総量も足りないからねぇ」
「レベリングかあ……明日までにどこまで上げられるか」
他の参加者と同様に死亡マーカーから復帰した俺とユークリッドは、即席の反省会を行っている。と言っても敗因は明確な実力不足。サンダーバードやヘビーリザードと比較しても圧倒的な強敵。引き裂かれる直前に思ったことではあるが、本当にアレが2番目相当のエリアボスなのかも疑わしい。
思えばブランシュ北部のエリアボスがサンダーバードであるのだから、ブランシュに大門のある東西の道の先や、掲示板で話題になっていた南の果ての岬、皇都に向かう陸路ルートである閉ざされる森、そこにもエリアボスがいないとも限らない。
「お疲れセツナ。少なくともボクが見てきた中では一番守護者を削れていたよ。初見でアレなら誇っていいと思う」
一体いつからそこに居たのか、船着き場にほど近い建物の屋根に腰かけてヨルが見下ろしていた。毎度ながら神出鬼没が過ぎる。
「おう、どっから出てきた」
「どう? 勝てそう?」
「現状は無理じゃねえかな、脱落者が増える前にアイスグラウンドを発動して、早期から接近戦するにも削り切る前にユークリッドがガス欠する。かと言って船上で戦うには相手が有利過ぎる。水中戦は論外。あの速い方の触手を捌く手段がない」
「現状認識もほぼ完璧。これはボクのヒントもあんまり役に立たないかな」
「む、そう言われると気になるよヨルちゃん。降りておいで」
「よっと。あの守護者がここに入港してくる船を襲わないのは単純、冒険者が乗っていないから。どんどん会敵までの距離が短くなっているのは、ここに冒険者が増えたから近づいてきているだけ。アレ自体はボクらのような非戦闘時の思考を持っていないから、単純に冒険者を効率的に殺害するように行動しているだけだね」
屋根から降りてきて、また内部情報を平然と口にするヨル。どこまでの情報を閲覧できているのかわかったものではないが、頼り過ぎると後で酷い目に遭いそうな気がする。
「その理屈が正しいと仮定すると、これ以上プレイヤーがここに増えた場合、アレはこの街に襲来する可能性があるってことか?」
「それは多分ないよ。自発的な越境行為は、守護者の思考ルーチンに組み込まれていないからね。ただし、船に乗った場合、町の範囲からミリでも出た瞬間襲われる可能性はあるよ。セツナたちの時もほぼ出航直後だったからね」
先ほどの戦闘は、確かに出航からほぼラグ無しで船を拘束された。つまりはかなり岸から近いところに陣取っているということになる。
俺の隣でユークリッドが、何か考え付いたようで、びしっと右手を挙げる。
「ねえヨルちゃん。自発的には無いってことは、何らかの外的要因があれば街に呼び込めるってこと?」
「うーん……仮に戦闘中に街に逃げ込んだとして、多分追っては来れないかな。可能性があるとすれば、直接引きずり込むくらいしかないかも」
「直接引きずり込む……釣りとか?」
「ユークリッド……いくらなんでも、冒険者が釣れるサイズには限界があるよ。糸や竿の強度の限界もある。そもそも守護者は冒険者にしか反応しないし」
「むむむ……流石にプレイヤーに糸付けて、餌にするわけにもいかないし」
「確実に死ぬからな、それ。餌にされたやつ」
糸を巻き付けたプレイヤーを水に放り込む想像をして、頭から振り払った。
あまりにも絵面が処刑のそれでしかない。
「いや……案外ありかもしれないよ。少なくとも守護者をアクティブな状態で岸に近付けることができる。この港からの投射系攻撃手段が届く範囲にまで」
「マジで言ってる? 最終的に行き詰まったら一考の余地ありじゃん……」
誰か適当なプレイヤー1人を犠牲にして、その後の展開を優位に運ぶ作戦。何とはなしに牙刃丸を思い浮かべた俺は人でなしかもしれない。
そう言えば牙刃丸、彼はどうしているだろう。
俺たちが挑む際には定位置に居なかったので、勝手に死んでいたものとして考えていた。
見てみると彼の姿はいつもの場所にあった。恰好は更にボロボロとなり、最早呼び込みすら行っていないように見えるが、座り込んだ姿でそこにいた。
「……また、挑んだのか」
「ボクが見ている限りでも3回は挑んで死んだよ。自分を囮にして、それで勝てるのなら、喜んでその役を全うしてくれるんじゃないかな」
「仮にぼくらがそれを提案して勝ったとしても、絶対いろいろ禍根が残ると思うんだけど……セツナくん?」
自然と、彼の元に足が動いていた。
座り込む彼の前に立つと、こちらに気付いたのか、彼が顔を上げる。
「なあ……あんた、どうしてもあのクラーケンに勝ちたいか?」
「あんたは昨日の……。ああ、どんな手を使おうと、アレを殺したい」
昨日以上に声色に覇気がない。しかしそれと反比例するかのように、目だけが執念に満ちている。狂気と呼んでも差し支えない。あの日の彼女と同じ、哀しい目。
「1つ、取引をしよう。俺のギルドが明日、もう一度クラーケンに挑む。その際に、あんたの力を借りたい。情報だけじゃない、あんたの力をだ」
「……勝てるのか。見ていたぞ、さっきの戦いも」
「勝つさ。無敵のボスなんて存在しない。反撃と行こうぜ、牙刃丸」
俺が差し出した右手を、彼は力強く取った。




